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日が凛々しく照らす夏も過ぎ、夜風が冷たくなってきて季節の変わり目を感じるこの秋の初め……。

山の上に建てられ今では訪れるものが少なくなり、廃れている小さな神社の前。その神社の前には、夏行えなかった花火をやっていたのか、バケツに水を溜め込みそこにやり終えた花火が幾つか捨てられてある。

こんな辺鄙な場所で花火をやっていたのは、とある男女だった。

彼らは恋仲であり、それを知られるのが恥ずかしいからかこんなところで二人だけの花火大会を開いていたのだ。これはそのあとの話………。

本来であればその後二人で神社に続く石段に座って夏の思い出を語るかあるいは、神社の木製の階段に腰掛けるかの二択だと思われる。しかし、このふたりは違った……。

神社の前で項垂れる彼女をそっと抱き抱え、ただ泣き後悔しかできない彼…。項垂れるその彼女を見ると腹部になにか鋭利なもので刺された痕跡があった。刺された箇所からは止まることをしない血が溢れ、夏まりの時に着ていく予定であった白を基調とした浴衣は、真っ赤な鮮血で白を紅に染めた……。しかしこれだけ酷い目にあっているというのに彼女の表情を見ると満足そうに笑っていた……。


時は遡り数時間前…。まだ夕日が落ちる少し前の時間帯に二人はこの神社の前にと辿り着いていた。彼女の手には少し大きめのポリ袋が握られており、中身はコンビニでも売ってるような小さな花火のセットが2つほど入っている。彼の方は、花火の燃えカスを集めるようにバケツを持ってきていた。

その後バケツを持っていた彼は近くの水道から水を汲んできて、花火の準備を進める。その際も他愛のない会話が続く。

「今更ながら花火をやりたいって……」

「別にいいでしょ?今年お互い忙しくて一緒に夏祭り行けなかったんだから。その、出来なかった分を今日消化するってことで」

「まぁ…俺も別に構わないけど…」

「じゃあ決まり!つべこべ言わずに始めよ!」

そういい彼女は袋から花火を取り出す。

「あれ?2つとも袋からだすのか?風で袋がどっかに行くのは避けたいんだけど…」

「大丈夫だよそれは。中に重しがあるからさ。」

「じゃあ大丈夫か」

「それじゃあ、【過ぎた夏を今更楽しもうの会】はっじめー!」

意気揚々と声を上げて花火を点火する彼女。

この時既に夕日は沈み、山上の神社は月の明かりだけが光源となり、肉眼では少し時間を置かないと目がなれないレベルの暗さなのだ。その暗さの中花火の火が眩く光る。その光に照らされた彼女の笑顔は月明かりよりも美しく、花火よりも眩く綺麗だった

派手に光る花火をやり終え残る花火は線香花火のみとなった。線香花火を始めるとそれは夏の終わりを告げる…そんな気がしてしまう。激しく光るけれど、その光はやがて収束していき遂にはその小さな火の玉は音なく消え落ちる。その光景がまるで学生達の夏休みを意味してるように感じた。最初は意気揚々と休みを謳歌するも、後半になるにつれて終わりを感じ始めて、最初の頃とは比べられないくらい意気消沈していくあの様子に似ている。



彼女と共に線香花火を同時に始め、火をつけると激しく光りだして、その小さな光を二人眺めてしみじみと夏の終わりを噛み締める。少し時間が経ち彼女が口を開く。

「夏が終わるね…」

「そうだね」

「……私ね、今年の夏が一番楽しかったの」

「毎年楽しそうにしてるイメージがあったけど?」

「もちろん毎年楽しかったよ?けど、その中で今年が一番だったの」

「へぇー。ちなみになんで?」

「その理由がね、私の最期の夏休みを好きな人と共に謳歌できたことなの」

「最期の夏休み?」

「私ある病気を患ってて、それが現代医学ではどうしようもないんだって」

「お医者さんも尽力してくれたけど、やっぱりどうすることも出来なくて、それで私にお医者さんは包み隠さずに話してくれてね」

「余生をどう過ごすかは君次第って言われて、やりたいことがあるなら可能な限り手伝うって話してくれたの」

「だから私はお医者さんにこう伝えたの『最期は想い人と過ごしたい』て」

「お医者さんはその言葉を聞いて、少し間があったあと『そうか…』て一言だけくれた」

「…………」

突然の告白だった。先程まであんなに笑顔で一緒に花火をやっていたのに、それが全て彼女にとって最期の夏休みだったなんて、誰が予想できたか?更にそれを言われて「はいそうですか」と受け入れる事が出来るのか?残念ながら彼はそう簡単に受けきれなかった。彼に限らず他の人もきっと彼と同じだろう。想い人からそんな告白をされて受け入れる方が難しいのだ。

「それでね?私の最後のお願いを聞いて欲しいの」

「……」

「私をあなたの手で殺して欲しいの」

その言葉を放つ彼女の声色は怯えたものではなく、他者に向けて優しくお願いするようなものだった。

「……もし嫌だって言ったら?」

「それでも私はあなたにお願いする」

「……嫌だ。」

「医者がさじ投げるほどの病だとしても俺は最期まで君の隣にいたい」

「僕の手で君の人生を幕引きなんてしたくない」

「……初めてだね」

「?」

「初めてあなたが明確に私のおねがいを断ったの」

「………」

「でも、そうだよね。私に手をかければあなたは捕まってしまう。それは望まないよね」

「もちろん今の話は実話だし、お願いも私の本心である。病で苦しみながら死ぬよりも、”今”元気な私のまま死んだ方がきっと楽だし、何より幸せなの。」

「エゴだって言うのは分かってる。けど、それでも私は苦しみながら死ぬのは嫌なの…」

彼女の言い分も何となく理解出来る。苦しみが持続していく中で己の死を認めるのはきっと辛い。その苦しみが己の死を告げているのに他ならないんだから。でも刺殺なら苦しみは半減されるのだろう。病と違い突然襲い来る苦しみではなく、望んだ死が目の前にあるのだから、覚悟が決まっている。

「俺は……」

「俺は君の望みを叶えるべきなのだろうか……」

「…ごめんね私のわがままのせいで思いつめさせて苦しめて」

「………」

彼女はもう覚悟が決まっている。なら、自分も彼女のその覚悟に見合うことをしないといけないのではないか?誰だって死ぬということは怖いはずだ。それが病だろうと寿命だろうと…。ましてや意識あるその状態での死はきっと計り知れない恐怖が目の前にあるはず。声色こそ彼女は悟られないように明るく振舞っていたが、線香花火を持つ彼女の手は震えていた。全てを受け入れようと覚悟を決めてる彼女に対して自分は何も出来ないのか?いや、やるべき事は目の前にある。

「……分かった。俺が君の望みを叶える」

「!」

「それが君からの最初で最期のお願いだから」

「…ありがとう。そしてごめんなさい」

覚悟を決めたその時、二人の線香花火の火はバケツの水に沈んだ。

彼女は花火を持ってきたポリ袋から小さなナイフを取り出し彼に手渡す。

「これで私を……」

「あぁ…。」

渡されたナイフを手に取り刃を彼女に向ける。人に刃物を向けるなんて普通に生きていてありえないこと。だからその手は小刻みに、激しく揺れている。今手にしているこの小さな刃物で一人の人生を終わらせてしまうことが可能なのだ。

「ねぇ?」

「?」

「最後にひとつあなたに言葉を送るね」

「……」

「わがままを聞いてくれて、私を一人の女性としてみてくれて……」

『ありがとう』

その言葉と共に彼は手に待つナイフを彼女の腹部に刺す。何故かあの一言で先程までの迷いは晴れた。きっと理由はその言葉を放つ彼女の表情にあったのだと思う。彼女は最期の最期まで笑顔を絶やすことは無かった。恐らくその笑顔のおかげで迷いが晴れたんだと思う…。

刺したナイフを抜き、そのナイフを捨てて項垂れる彼女をそっと抱き抱える。彼女から溢れる血はとても暖かく、意識遠のく彼女の手を取ると冷たくて、不思議な感覚に襲われた。少し時間が経ち我に返ると後悔の念が涙という形を取り溢れ出てきた。

自分は一人の人を殺めたのだと……。想い人をこの手で殺めたんだと……。

その後たまたまその神社を訪れた人によって彼は捕まり事情聴取を受けることになる。彼の言い分はずっと一点張りで、彼女の望みを叶えただった。


『次のニュースです。昨晩〇〇神社の前にて女性が刺殺される事件が起きました。犯人は女性の彼氏とされており、犯行理由は彼女の望みを叶えた。との事です。警察はさらに詳しく調査を進めるとのこと』

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