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#大人ロマンス
#サレ妻
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「パパ……助けて、パパ……!」
かつて傲慢に父親を支配していた蓮が、今やリビングの隅で震え、涙を流している。
その視線の先には、手に熱い鉄を握り、奈緒そのものの冷徹な微笑を浮かべたあやめが立っていた。
「蓮くん、そんな情けない声を出さないで……あなたは『ナオミ』の息子でしょう? だったら、ママと同じように、汚らわしい存在が焼かれるのを、特等席で見届ける義務があるわ」
あやめは、健一の腕に新しい焼き印を残すと、そのまま視線を蓮へと向けた。
「…もっ、もういいだろ、蓮は関係ない!俺が、俺が全部言う通りにするから……!」
健一は激痛に耐えながら、必死に蓮を庇おうと這い出した。
だが、あやめはその背中をヒールで容赦なく踏みつける。
「健一さん。…あなた、この子が本当に『あなたの味方』だと思っているの?この子はね、私を使ってあなたを壊そうとした……里奈という泥棒猫が遺した、最後の『不純物』よ」
あやめの中で、奈緒の記憶とあやめ自身の憎悪が完全に同化していた。
彼女は蓮の髪を掴み、無理やり健一の顔の前に引きずり出した。
「さあ、蓮くん。パパに言いなさい。……『パパ、今までおもちゃにしてごめんね』って。それとも……ママみたいに、パパをここで殺しちゃう?」
「……やだ…やだぁ!!」
蓮が泣き叫び、あやめの手を振り払おうとする。
その時、あやめが懐から取り出したのは
蓮が最も恐れていたもの――
あの日、里奈が命を絶った時に使った、あの血塗られたナイフだった。
「……蓮、逃げろ!!」
健一が最後の手負いの力で、あやめの足にしがみついた。
「……健一さん。…やっぱり、あなたは最後まで私を裏切るのね」
あやめの瞳から、生気が消え、深い闇だけが残った。
彼女はナイフを逆手に持ち、迷いなく健一の肩に突き立てた。
「……ぐ、あああぁぁ!!」
「パパ!!」
血飛沫が蓮の頬を汚す。
その瞬間、蓮の瞳の中で、恐怖が消え、別の「何か」が宿った。
それは、里奈の狂気でも、奈緒の執着でもない。
自分の「所有物」を傷つけられたことへの、冷徹な怒り。
蓮は、落ちていたタブレットを手に取ると、あやめの顔を真っ直ぐに見据えた。
蓮がタブレットの「全配信開始」のボタンを押した。
今、この部屋の惨劇は、ナオミの数百万人のフォロワーに向けて、一切のフィルターなしで垂れ流され始めた。
「……みんな見て。…新しいママが、パパを殺そうとしてるの」
蓮の無機質な声が、ネットの海へと溶け込んでいく。
あやめは自分が「観客」に晒されていることに気づき、初めてその動きを止めた。