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7 - #7『戻れないところまで』

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2025年08月23日

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ふと、気づけば連絡をとっていた。最近連絡先を追加したばかりで、まだ何もない画面に追加された俺の言葉───”ごめん”の一言。それにはすぐに既読がついて、俺が送った相手───トラゾーからはすぐに返信が来た。


『大丈夫。謝る必要ないよ。それよりぺいんとが生きててよかったわ!死んでたら俺マジで何もできないから』


お世辞なのか、本音なのかわからない文章での相手との交流。でも、それが本音だっていうのはわかってた。…嘘をつく奴じゃないって知ってるのは、俺だから。

月明かりの差す病室で、俺はトラゾーと永遠にメッセージを送り合っていた。内容は本当にどうでもよくて、動画のネタとか、おかしな話とか、筋トレの話とか、おふざけ話とか…本当にどうでもいいこと。…でも、それだけで今日の会話を終わらせるわけにもいかなくて。俺は少し強引に話を捻じ曲げた。


『目がつぶされた俺、どうだった?』


既読がついて、少しの間返信を待つ。1秒が怖い。この先の返信を見たくない。見たくないのに、真実を知りたい…あぁ、どんだけ俺って弱いんだろう。


『何とも。でも、お前の手術が成功したって聞いて、めっちゃ安心したのは覚えてる。別に片目がなくたって、俺はぺいんとのことが好きなのは変わらない。それは多分、しにがみさんもクロノアさんも。 』


トラゾーの長い、優しい文章。涙が溢れた。溢れて、溢れて、溢れて…涙が枯れそうなほどに、流れた。嬉しかった、安心した。


『ありがと。』

『任せとけ』


そうして俺は、トラゾーと会話を終えた。どうやらトラゾーは、しにがみくんとクロノアさんに俺の目が潰されたことをまだ話していないらしく、トラゾーによると”お前が話したくなった時に話せばいい”と言ってくれているため、俺も機会が来たら話そうと思う。…それが近い話か、遠い話かなんてものは誰にもわからないけれど。ただ、いつか話す。その運命は変わらないから。


……………


数日して。

病院生活をしている俺は、髪を切れずにそのまま伸びっぱなしで、ついに右目が全部隠れた。まぁでも、右目は潰された方の目。これからはこのヘアスタイルでいこうと思っている。

ブーッ。

ふと聞こえた振動音。それは俺のスマホからで、メールでの通知が届いていた。送り主はしにがみくんで、表示されている文字は、『大丈夫ですか?』の心配の一言だった。

返信しないと。そう思っても手が動かない。何だか精神的に辛かった。頭の中にある考えが闇鍋のようにごちゃごちゃになって、相殺して、結局は何も考えられない。


「…っはぁ。」


自分自身に向けてのため息と、身体的な疲れと、精神的な疲れと…。たくさんの思いがつまったため息が、そこに吐かれた。それでも拾う人はいないけれど。

ふと、またブザー音。同じくしにがみからのメールで、動画での企画案だった。そのメールに、俺は開かなければならないと、動かしたくない腕を無理やり動かしてメールを見た。


『盗賊団をイメージしたシリーズ企画をやろうって話になってるんですけど、どうですか?』


一つの企画案に、俺は何とも言えなかった。…理由なんて、わかるだろう。今のこの状態で俺が到底そんな撮影とか、編集なんてできるわけがないのに。でも相手は事情を知らない。

まぁ、トラゾー曰く『事故に巻き込まれた』と嘘の説明をしているらしいが…相手も十分配慮してのメールなのだろう。その証拠に、そのメールを送るのに躊躇ったのか5分ほどの間が空いていた。

……でも正直、その企画案が面白そうだと思った。俺が、盗賊。

真面目からかけ離れすぎている職業。

母さん、ごめんなさい。父さん、ごめんなさい。 俺、やっぱりダメな子だ。


『やりたい。やろう。』


もう、真面目には戻れないらしい。

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