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「久しぶりです、《《加賀宮さん》》。まさか、そういうことだったんですね。あなたが必死に俺を美月から離そうとする理由がやっとわかりました。ただの《《知人》》じゃなかったわけですね。俺はあんたらに騙されたわけだ」
久しぶりに見る孝介はこの前よりもかなり痩せていた。
眼は充血しており、顔色も悪い。
「お久しぶりです。こんなところで何をしてるんですか?もう美月さんには関わらないでほしいと九条社長を通して何度もお伝えしたはずですが」
迅くんは私を庇うように前に立ってくれた。
「父さんはもう関係ない。本当にイライラする。まさか《《美和》》だけじゃなく、《《美月》》にまで手を出していたんだな。俺が相当《《羨ましかった》》のか?九条グループの次期社長だった俺がそんなに妬ましかったのか?だから回りくどい方法を使い、俺を引きずり落として……」
孝介の言葉は異常だった。
考え方がおかしい。
そして怒りからか、手が小刻みに震えている。
「なぜそんな発想になるのか理解できません。あなたを一度でも羨ましいと思ったことなどない。バカな人だとは思いましたけど」
ちょっと!
迅くん、ケンカ売ってるの?
間違ったことは言ってない。
けれど、今の孝介にそんな言葉をかけたら余計興奮するじゃない。
「はっ!そもそも俺が不倫とか言う前に、お前らはもうとっくにデキてたわけだ。クソ!!全部、全部、全部、お前が悪いんだ!!お前のせいで!!」
孝介はカバンから何か取り出した。
「美月、俺から離れて。警察を呼んで」
孝介が取り出したのは、ナイフだった。
まさか、本当に!?
「うんっ!」
私は震える手で携帯を取り出し、通報しようとした。
が――。
「お前も美月も一緒に殺してやるよ!!」
孝介が私たち目掛けて走り出した。
「美月、離れろ!」
私は彼の指示に従い、距離を取った。
でもそうしたら迅くんが狙われちゃう!
その時「キャー!!」という悲鳴が聞こえた。
私の声じゃない。
えっ?
迅くんと孝介の距離がとても近い。
迅くんは、お腹を押さえているように見える。
「加賀宮さん!!」
亜蘭さんが走ってくるのが見えた。
「やめろ!」という声と共に、亜蘭さんは孝介を蹴り飛ばした。
その反動で孝介は転倒するも、迅くんは立ったままだった。
「迅くん!!」
彼に駆け寄る。
孝介は周りの通行人の人が取り押さえてくれている。
脱力しているようで、特に反抗はしていなかった。
「迅くんっ!だいじょう……」
そう声をかけ、彼が押さえている腹部を見た。
えっ。うそ……。でしょ……。
「加賀宮さん!」
亜蘭さんの声が大きくなった。
《《手でナイフを握っている》》のが見えて、そして――。
腹部にナイフが刺さって《《いる》》?
「ッ……!」
彼は自分に刺さっているナイフを腹部から《《抜いた》》。
フラッとよろける彼を亜蘭さんが支え、ゆっくりとアスファルトの上に寝かせた。
「迅くん!迅くん!!」
ワイシャツから薄っすら血が滲んでいた。
「ねっ!!やだよ!!迅くん!」
彼は私の方を向き
「美月。大好きだよ」
そう伝えてくれた。
「俺が……。死んだら……。たくさん泣いてくれる?」
彼は私に手を伸ばした。
その手をギュッと握る。
「やだ!!死ぬなんて絶対やだ!!どこにも行かないって昨日、約束してくれたじゃん!!」
彼がいなくなるなんて考えられない。涙が溢れて視界が霞む。
「もし……。生きることができたら、美月と……。結婚したかった」
「そんなこと言わないでよ!結婚でも《《何でもする》》から!!だからお願い……!」
彼を失いたくない。迅くんが生きてくれるなら、何でもするから……。
「美月さん……」
亜蘭さんが私の名前を呼んだ。
「俺のこと、愛してる?」
「愛してるよ……。誰よりも……。迅くんが居ない世界なんて生きてても意味がないもん……」
呼吸が上手くできない。
「本当?」
「本当だよ!愛してる……から。いなくならないで……」
涙を拭う。
「生きてたら、毎日行ってらっしゃいのキスしてくれる?」
「なんでもするよっ!!だから……」
あっれ……。なんかおかしい。
「約束な?」
「えっ?」
目を擦り、涙を一生懸命拭い、彼と目を合わせた。
彼の顔を見ると、薄っすら笑っているような……。
確かにワイシャツに血が付いてる。
だけどよく見ると、あまり出血量が増えていない気がする。
これは――。
「加賀宮さん。もういい加減、やめてください。ほんとーに美月さんに嫌われますよ」
亜蘭さんが全然心配してない。
「どういうこと?」
私が状況を理解できないでいると――。
「はぁ。痛いのは本当なんだから少しくらい労われよな。亜蘭」
そう言って彼は上半身を起こした。
「迅くん、大丈夫なの?」
「大丈夫。俺があんなやつにヤられるはずない。あいつが俺を刺そうとした時、わざとちょっとだけ刺された。ナイフ掴んで止めたから、手も切れてる。けど、死ぬようなケガじゃない」
「念のため、ハンカチ、手に巻いといてください」
亜蘭さんが切れている迅くんの手をハンカチで止血した。
「あー。さっきの美月、可愛かったな」
そんな呑気なことまで言っている。
私は空いた口が塞がらない。
でも――。
「良かったぁ……」
安心したからかまた涙が出てきた。
その時、パトカーの音と救急車の音が聞こえた。
「通報はしておきましたから。こんなことして、あの人《孝介》。九条社長もしばらく忙しそうですね。大きなニュースになりそうですよ。それに、うちの会社も」
はぁぁぁと深く重い溜め息を亜蘭さんは吐く。
孝介は、周りの人に押さえられいる。
けれど迅くんが普通に立ち上がっているのを見て、目を見開き、驚いている顔をしたのがわかった。
「お前!!なんで!!?」
再び暴れそうになった孝介を周りの人が再度押さえつける。
気づけば、亜蘭さんも手伝っていた。
そんな孝介に迅くんは
「好都合だった。ありがとう」
私には向けない冷たい眼をしてそう言った。
間もなく、救急車と警察が駆けつけ、私たちは事情を説明した。
迅くんは救急車に乗って病院へ運ばれることに。
私も同乗することになり、引き続き亜蘭さんは警察に事情を説明していた。
病院で治療後、警察にはありのままの話をした。
その後、迅くんのアパートに帰宅し、今私は二人分の温かいお茶を淹れている。
迅くんは腹部と手のひらに刺し傷と切り傷。
軽傷とまではいかないけど、命に別状はない。
「また傷跡、残っちゃうかな。私のせいで……」
子どもの頃、助けてもらった時の傷は彼の腰に残っている。
たぶん一生消えることはない。
今日も私を庇ったから、また彼にケガをさせてしまった。
「何、暗い顔してんの?」
私の後ろに迅くんが立っていた。
「迅くん、立って大丈夫?」
「あぁ。痛み止め効いてるし。運動制限だけで、日常生活には問題ない程度だから大丈夫だよ」
「また、私のせいで迅くんにケガさせちゃったって……」
「なんだ。そんなこと?」
彼はギュッと私を後ろからハグした。
「そんなことって言い方……」
「美月は悪くない。それに避けようと思えば避けることができたし。あいつくらいなら俺一人でなんとかできた……」
「じゃあ、なんで刺されたの?」
「美月が心配してくれるかなって?」
はぁ!?なにその理由。
「心配するに決まってるじゃん!」
「あいつが俺を刺すことで、捕まるし。その方が今後安心かなって。それに、美月から《《何でもする》》って約束してもらえたし」
あの場でそんなこと考えてたの?