第1話 日常
耳障りなアラーム音に起こされ、自然と瞼を開ける。真っ暗だった世界は光が眩しい世界になっていた。
……朝だ。
また、あの妙な家族と過ごす日が始まるー。
僕は自室から1階のリビングへ階段を経由し、急いだ。見慣れた大理石のダイニングテーブルにはお母さんとお父さん、その二人しかまだいなかった。僕は口を開く。
「……兄さん達と妹達は?」
その言葉を耳にして、お母さんは「まだ寝ているわよ」そう優しく答えた。
良かった。まだ二人は変わっていない。
僕は安堵の息を漏らし、事前に用意されていた朝食に手をつける。
僕が学校に遅れまいと必死になって食べていると、夜神 琴音…僕の1人目の兄が降りてきてその後ろに僕の2人目の兄、夜神 優が2階から降りてきた。お母さんはその二人に
「おはよう」
と言ったが、琴音兄さんは返事をせず、優兄さんだけがお母さんに「おはよう」と返した。彼等も僕と同じく朝食を取り始める。
やがて、僕の1人目の妹、ゼルが降りてきて彼女も食事を取る。しばらくしてもう2人目の妹、桜も同じようにして朝食を取った。
僕はこの4人を避けるようにして急ぎ足で準備をし、学校へと向かった。
子供達が騒がしく朝の準備を始める中、僕は全てを済ませ、ある事について考えていた。
それは、あの4人の事。
お母さんとお父さんは4人を当たり前の様に扱っているのだが、僕は4人も兄妹がいた覚えがない。そして、あの4人は何故だか分からないけれど人とは違う、別物の様な感じがしてとても気味悪い。
そう僕が物思いにふけっていた時、後ろから親友である早乙女 雨が話し掛けてきた。
「おはよ!なにしてんの?」
「ああ、おはよう。……ちょっと、考え事をしてたんだ」
「考え事?朝っぱらからかよ?」
朝から考え事をしていて悪いのか。
「……いや、今のは悪かった。朝っぱらから考えるのが亜楼だもんな!」
そう何かしら決めつけると雨は花が咲いた様に笑った。
……どうも、雨といると調子が狂う……。
僕が不服そうな事に気づいたのか、雨は不思議そうな顔をして数秒考え込み、すぐに僕の体を擽ってきた。
「……っ、はははは!や、やめっ、やめろって!」
「お、元気になったな!」
「この野郎……!」
「悪い、悪い!」
ああ、もう……!お前って奴は……!
僕達がじゃれあっている間、時は一刻一刻と過ぎてゆき、朝の会が始まった。
1限目、2限目、3限目…と過ぎてゆき、あっと言う間に給食となった。僕の小学校は珍しく給食と弁当に分けられており、僕は毎日弁当を選んでいる。理由?勿論、お母さんの料理が好きだからだ。
ただ、今日に限っては……弁当を忘れてしまった。
どうすればいいのだろう?
そう考えていると、1人目の妹 ゼルが僕の弁当を持って教室内へ来た。
「兄さん、弁当だ」
「ああ、うん……有り難う」
今回は助かった。けど、クラスの皆はまるでゼルに酔いしれた様な、恍惚の表情を浮かべる。無論、雨さえも。
そして、ゼルが立ち去ると皆、我に返る。
僕が弁当を忘れれば、ゼルか桜、優が来る。
桜が来れば皆笑顔に、優が来れば皆憧れの眼差しを向ける。もし、琴音と会ったのなら、会った者は必ず彼が去った後に僕を振り返り「亜楼のお兄ちゃん、カッコイイね!」そう言った言葉を口にする。
僕は雨に問う。
「……雨は、どうしてゼルが来ると何かイケナイ様な顔を浮かべるんだ?」
「え、マジ?そんな顔してた?」
「……してた」
「……うっわ、マジか……。なぁ、亜楼」
「なに?」
「……今度、亜楼の家行ってもー」
「ダメ」
その答えに雨は頬を膨らませ、不貞腐れる。
「えー……ケチー……亜楼のケチー……モテないぞー……!」
「雨よりかはモテるよ」
「…………」
……これが、ぐぅの音も出ない、と言うのだろう。そんな状態の雨は今にも泣き出しそうな顔を浮かべる。そんな顔を見て、僕は
「……ごめん……」
「……うまい棒」
「へ?」
「今度、うまい棒奢って!そしたら、許す!」
「……ああ、うん……分かったよ」
うまい棒……1本だけでもいいんだな?だったら良いだろう。安いものだ。
僕は内心ほくそ笑みながら弁当の卵焼きをほうばった…。