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都合上ノベルの方に変えさせていただきます…
内容は変わらんのでお気になさらず
未来を知らぬ鈴守、有明の月に祈る
プロローグ
風のない朝だった。
なのに、風鈴が──鳴った。
それは有明月神社の一番奥にある拝殿の軒先。
毎日そこに吊るされた、小さな紅葉色の風鈴が、わずかに音を立てた。
澄んだ音。だが、聞き慣れた音ではない。
少年は目を見開いた。
その鈴の音色を、彼は一万回以上聞いている。
だからこそ、違いに気付かない筈がなかった。
「鳴った…のか?」
呟く声は掠れていた。
いや、彼の胸の奥に張り詰めていた“何か”が、音と共にわずかにひび割れたのかもしれない。
獣の耳がぴくりと動く。
手が自然と鈴へと伸びる。
そして彼は、自分の中に走る感覚──“未来がこちらを向いた”と言う確信を、
黙って受け入れた。
これまで、風鈴は一度も異なる音を鳴らさなかった。
それがなったと言う事は、何かが変わる。
「…まさか、本当に来るなんてね」
彼──風鈴の守り手《鈴守》は、ゆっくりと目を閉じた。
そして静かに一礼をする。
有明の月が見ていた。
その鈴が鳴った事を。
そして、これから始まる物語の全てを。