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#復讐
さぶれ
860
#素人作品
YAMATO
824
「……説明しろ」
冷え切ったリビングに、夫・直樹の低い声が響く。
テーブルの上に叩きつけられたのは、私が血の滲むような思いで毎日つけている家計簿。
そして、その横にはスーパーのレシートが一枚。
「このキャベツ。隣のスーパーなら98円だったはずだ。なんで128円の店で買った?」
「……ごめんなさい。子供が急に熱を出して、遠くのスーパーまで行けなくて」
私、飯田詩織はボロ布のようなカーディガンを握りしめ、床に視線を落とした。
直樹は立ち上がり、ゆっくりと私の前に立つ。
高級ブランドのスーツから漂う香水の匂いが、ひどく鼻についた。
「言い訳を聞いてるんじゃない。俺が汗水垂らして稼いできた金を、お前は30円もドブに捨てたんだ」
「そ、それは分かってるけど仕方ないでしょ?急なことだったし…」
「はあ……専業主婦は気楽でいいよなぁ、30円の重みも分からなくて」
直樹の言葉は、鋭いナイフのように私の心を削っていく。
今月の生活費として渡されたのは、わずか3万円。
中学生になる息子、陽太の塾代や食費、日用品。
すべてをここから捻り出さなければならない。
私は、自分のおかずを減らした。
新しい下着を買うのも諦めた。
そうして守ってきた「家計」を、この人は平気で踏みにじる。
「土下座して謝れよ。お前は俺のおかげで食えてるんだろ?」
直樹の革靴が、私の指先に触れる。
悔しくて、情けなくて、視界が滲む。
でも、陽太のために耐えなきゃいけない。
私はゆっくりと膝をつこうとした。
そのとき
直樹のジャケットのポケットから、ハラリと一枚の紙が落ちた。
それは、私が見たこともないような、銀座にあるフランス料理店の領収書。
『御飲食代として:156,000円』
心臓が、ドクンと跳ねた。
私が30円の差額で罵倒されている真横で、彼は一晩に、私の生活費5ヶ月分を使い果たしている。
……おかしい。
直樹のお給料だけで、こんな贅沢ができるはずがない。
ふと、嫌な予感が頭をよぎる。
私は、自分の部屋の奥深くに隠してある、独身時代の「貯金通帳」のことを思い出した。
あの通帳は、私が結婚前に必死に働いて貯めた、陽太の将来のための大切な聖域。
まさか。
その夜────…
直樹が浴室へ向かった隙に、私は震える手で通帳を取り出した。
記帳された最新の数字を見た瞬間、私は呼吸の仕方を忘れた。
『サッピキ:2,000,000』
数日前、200万円もの大金が、一括で引き出されている。
(……嘘。なんで……?)
頭の芯が、真っ白に燃え上がるような感覚。
「誰のおかげで食えてるんだ」
直樹のあの言葉が、呪いのように耳の中でリフレインする。
食わせていたのは、私の方だった。
私の金で、私を見下し、私の金で、誰かと笑っていたの……?
私は家計簿を、白くなるほど強く握りしめた。
涙はもう出なかった。
代わりに、冷徹な何かが心の中に宿るのを感じる。
「……私にだけこんな思いをさせて、自分は贅沢してるなんて、絶対に許さない」
社会的な「死」を、あなたに。
私の指が、カレンダーの今日の日付に、見えない×印を刻んだ。
【残り100日】