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#ざまあ
#裏切り
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「……説明しろ」
冷え切ったリビングに、夫・直樹の低い声が響く。
テーブルの上に叩きつけられたのは、私が血の滲むような思いで毎日つけている家計簿。
そして、その横にはスーパーのレシートが一枚。
「このキャベツ。隣のスーパーなら98円だったはずだ。なんで128円の店で買った?」
「……ごめんなさい。子供が急に熱を出して、遠くのスーパーまで行けなくて」
私、飯田詩織はボロ布のようなカーディガンを握りしめ、床に視線を落とした。
直樹は立ち上がり、ゆっくりと私の前に立つ。
高級ブランドのスーツから漂う香水の匂いが、ひどく鼻についた。
「言い訳を聞いてるんじゃない。俺が汗水垂らして稼いできた金を、お前は30円もドブに捨てたんだ」
「そ、それは分かってるけど仕方ないでしょ?急なことだったし…」
「はあ……専業主婦は気楽でいいよなぁ、30円の重みも分からなくて」
直樹の言葉は、鋭いナイフのように私の心を削っていく。
今月の生活費として渡されたのは、わずか3万円。
中学生になる息子、陽太の塾代や食費、日用品。
すべてをここから捻り出さなければならない。
私は、自分のおかずを減らした。
新しい下着を買うのも諦めた。
そうして守ってきた「家計」を、この人は平気で踏みにじる。
「土下座して謝れよ。お前は俺のおかげで食えてるんだろ?」
直樹の革靴が、私の指先に触れる。
悔しくて、情けなくて、視界が滲む。
でも、陽太のために耐えなきゃいけない。
私はゆっくりと膝をつこうとした。
そのとき
直樹のジャケットのポケットから、ハラリと一枚の紙が落ちた。
それは、私が見たこともないような、銀座にあるフランス料理店の領収書。
『御飲食代として:156,000円』
心臓が、ドクンと跳ねた。
私が30円の差額で罵倒されている真横で、彼は一晩に、私の生活費5ヶ月分を使い果たしている。
……おかしい。
直樹のお給料だけで、こんな贅沢ができるはずがない。
ふと、嫌な予感が頭をよぎる。
私は、自分の部屋の奥深くに隠してある、独身時代の「貯金通帳」のことを思い出した。
あの通帳は、私が結婚前に必死に働いて貯めた、陽太の将来のための大切な聖域。
まさか。
その夜────…
直樹が浴室へ向かった隙に、私は震える手で通帳を取り出した。
記帳された最新の数字を見た瞬間、私は呼吸の仕方を忘れた。
『サッピキ:2,000,000』
数日前、200万円もの大金が、一括で引き出されている。
(……嘘。なんで……?)
頭の芯が、真っ白に燃え上がるような感覚。
「誰のおかげで食えてるんだ」
直樹のあの言葉が、呪いのように耳の中でリフレインする。
食わせていたのは、私の方だった。
私の金で、私を見下し、私の金で、誰かと笑っていたの……?
私は家計簿を、白くなるほど強く握りしめた。
涙はもう出なかった。
代わりに、冷徹な何かが心の中に宿るのを感じる。
「……私にだけこんな思いをさせて、自分は贅沢してるなんて、絶対に許さない」
社会的な「死」を、あなたに。
私の指が、カレンダーの今日の日付に、見えない×印を刻んだ。
【残り100日】