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#完全一次創作
たかはし もけ
717
はるか
5
生方詩
25,680
そして、翌日──。
業平は早速動いていた。
人気のない書庫に、例の男、成明《なりあきら》を呼びつけていた。
「在五殿。う、歌と申されましても……」
四十絡みの男、成明は頭をかきかき困り果てている。
「簡単だろう?そうだな、白梅を見かけたという、先の我が家での宴の歌でも詠むと良い」
「いや、あなたのように、私は歌が得意でもなく、女人の扱いも苦手なので……」
成明は、口ごもりつつ、業平へ視線を寄せる。
「た、頼む!在五殿!かわりに歌を!頼めぬか?!」
「成明殿?それは私に代筆せよと言うことかな?」
業平の一言に、成明は大きく頷いた。
自分よりも年上の成明に、手を合わせられ頭まで下げられては業平も座りが悪い。
しかし、歌というものは個人の気持が詠まれるもの。ただ、よくよく考えれば、白梅も桂の代筆を当てにしている。ここで、業平が引き受けたなら、結局、桂と業平のやりとりになってしまう。
いや、それは……。
わけの分からぬことになったぞと、業平が困っていると、成明が真顔になった。
「……在五殿。ご存じか?閉ざしの姫君のことを……」
「ん?なんだね?」
「誰にも返歌しない姫君がおるそうだ。まるで心を閉ざされているかのように……」
先ごろも、とある中将が、歌を送ったが、なしのつぶてだったという。
「おやまあ、それは……」
変わった姫君の噂話に業平が呆れていると、
「そなたなら、在五殿の歌ならば、姫君も心うごかされるのではなかろうか?」
成明が、声を潜めた。
「ん?私に歌を送れと?」
こくこくと、成明は頷いている。
「そ、それで、その時、ついでと言ってはなんだが、私の歌も詠んでもらえれば……」
「は?!」
余所の姫に向けて恋歌を詠むついでに成明の歌を代筆しろとは……。
なかなかの策士ぶりに、業平は返す言葉がない。
それよりも、ついでにというのが引っかかった。
「成明殿?少しお聞きしたいのだが、うちの白梅は戯れなのか?余所の姫への歌のついでにというのは、いかがなものかなぁ」
成明は、はっと息を飲む。たちまちその顔から血の気が引いていく。
「い、いや!そのような!ちゃんと責任は取る。後添にしたいと思っている!」
だが、年が離れすぎている。若い白梅からすれば父親と言われてもおかしくない年回りだ。そんな男から、野暮ったい歌が届いても、振り向いてはくれないだろう。
そう成明は切々と語った。
肩を落とす男の姿に、業平もほだされた。
「まあ、なんだ。閉ざしの姫君の噂を教えてくれたのだ。多少は力になっても良いだろう……それに、我が家の女房の幸せのためでもあるのだからなぁ」
白梅のためだと、業平は、結局代筆を受け入れる。
さて、問題は桂。きっと、業平の代筆と見破るに違いない。それでも、返歌をよこしてくるのか?
閉ざしの姫君の噂といい、なんだか面白いことになりそうだと業平はほくそ笑む。
コメント
1件
第3話、めっちゃ面白かった〜!!😭✨ 業平が成明に代筆をせがまれる流れ、めっちゃ人間くさくて笑ったww 「ついでに」発言にツッコむ業平の鋭さと、白梅の幸せ考えて引き受ける優しさのバランスが良すぎる…! あと「閉ざしの姫君」の噂、気になりすぎる!続きが待ちきれないよ〜🌸💕