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遥 ℎ𝑎𝑟𝑢𝑘𝑎
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第四十四章 傘持ってくればよかった
朝日を浴びたカーテンが、ゆったりと膨らんでは萎んだ。
湿り気を帯びた風が頰を撫で、思わず空を見上げる。
西の空は雲に覆われていた。
翔太💙「傘も持ってくればよかった――」
テーブルに置かれた外泊許可証を手に取る。
一番下の欄。
【外泊中責任者】――目黒。
癖のある文字を、翔太は無意識に指先でなぞっていた。
翔太💙「……」
胸の奥が、また少しだけ熱くなる。
ベッドの上へ置いた荷物を、
一つずつリュックへ詰め込んでいく。
着替え。
充電器。
タオル。
翔太💙「これでOK。あとは……」
ベッド脇へ置いてあった、雪うさぎのぬいぐるみを抱き上げる。
その瞬間。
亮平💚「いや、流石にそれはいらないでしょ」
蓮🖤「邪魔だろ」
翔太💙「っ!?」
勢いよく振り返る。
病室のソファへ当然みたいな顔で座る二人。
翔太💙「……何でいるんだよ!?」
亮平💚「お見送り♡」
蓮🖤「監視」
翔太💙「怖いこと言うな!」
大介🩷「……お前ら朝からうるせぇ」
呆れた声。
カーテンの向こうから顔を出した佐久間は、病室に溶け込むみたいに居座る二人を見て、小さくため息を吐いた。
大介🩷「何?保護者?」
亮平💚「違う」
蓮🖤「飼い主」
翔太💙「誰がだよ!!……あっ」
手中にあったぬいぐるみがするりと翔太の手から離れると、堆くそれを掲げた蓮が、〝遊びじゃないんだ〟と言って意地悪く笑った。
亮平はリュックを覗き込んで、〝お菓子も必要ない〟と言って取り上げた。
蓮🖤「遠足かよ」
呆れ顔の2人をよそに、翔太は今にも泣きそうな顔で小さな拳を太ももの脇に収めた。
翔太💙「絶対持っていく」
意を決したように蓮に飛び掛かると、腰を屈めた蓮が顔を寄せた。
蓮🖤「キスしたら返してやる」
翔太💙「ばっ……」
亮平💚「バカ言うなよ」
亮平が呆れたみたいに笑うと、蓮からぬいぐるみを奪い取った。
亮平💚「外泊先で抱いて寝る気?」
翔太💙「悪い?」
蓮🖤「子供かよ」
翔太💙「違うし!」
堪えきれなかったみたいに、
佐久間が吹き出した。
翔太💙「笑うなよ!」
大介🩷「いや、お前マジでそれ持ってくの?」
翔太💙「持ってく!」
大介🩷「寝れないなら添い寝してやるから、それ置いてけよ」
その瞬間。
亮平💚「は?」
蓮🖤「は?」
空気が凍る。
佐久間は面白そうに片眉を上げた。
大介🩷「……何、その顔」
蓮🖤「お前、調子乗ってんな」
亮平💚「患者特権使いすぎでしょ」
翔太💙「え、ちょ……何で怒ってんの?」
大介🩷「ははっ……」
完全に楽しんでる顔だった。
亮平は、佐久間と寝るくらいならとぬいぐるみを手放すと、翔太はムキになってリュックへ押し込もうとするけれど、
耳が引っ掛かって全然入らない。
大介🩷「……ぷっ」
肩を震わせ笑う佐久間。
大介🩷「置いてけ。どうせ眠れない」
亮平💚「それ、どういう意味?」
佐久間は口元だけで笑う。
大介🩷「眠らせる気ないし」
その瞬間。
亮平💚「は?」
蓮🖤「……お前」
空気が、一気に冷えた。
蓮🖤「……手ぇ出したら」
低い声。
蓮はソファへ深く座ったまま、
佐久間を真っ直ぐ見た。
蓮🖤「二度と舞台立てなくしてやる」
病室が、一瞬静まる。
翔太💙「ちょっ……何怖いこと言ってんだよ!」
慌てる翔太とは逆に、
佐久間は面白そうに肩を揺らした。
大介🩷「ははっ……マジじゃん」
翔太💙「佐久間さん、病人なんですから、寝ずにトランプとかダメですよ♡まっ嫌いじゃないですけど、トランプ」
亮平💚「はぁー……」
頭を抱える亮平。
蓮は無言のまま、
リュックから雪うさぎを引っこ抜くと、
翔太の顔へ押し付けた。
蓮🖤「お前は黙って雪うさぎ抱いて寝てろ」
翔太💙「あ!?バカにしてんの!?」
大介🩷「ははっ……ほんと飽きねぇなお前ら。ほらもう行くぞ」
病室を出た瞬間、湿った風が長い廊下を通り抜けた。
翔太はふたりに〝行ってきます〟と元気よく言うと佐久間の後に続いた。
長い廊下。ふと気になって後ろを振り向いた。
翔太💙「何だよ……出口まで送るかと思ったのに……」
大介🩷「置いてくぞ雪うさぎ」
翔太💙「あっ、待ってください佐久間さん!」
大介🩷「遅ぇ」
翔太💙「荷物多いんですよ!」
雪うさぎの耳をリュックから覗かせたまま、翔太は慌てて後を追いかける。
エレベーターを降りると、エントランスには柔らかな昼の光が広がっていた。
自動ドアの向こう。
雨の匂いを含んだ風。
ラウ🤍「行ってらっしゃい」
穏やかな声。
ナースステーションから出てきたラウール師長は、翔太のリュックを見て小さく笑った。
ラウ🤍「……雪うさぎも一緒なんだ?」
翔太💙「っ……これは、その……」
大介🩷「絶対持ってくんだって」
ラウ🤍「ふふっ、いいじゃん」
ラウールはそう言うと、
翔太の胸ポケットへ視線を落とした。
そこには、
少し皺になった外泊許可証。
ラウ🤍「手綱握っといてね」
翔太💙「……え?」
大介🩷「おう、任せとけ」
ラウ🤍「飼い主がうるさいから」
翔太💙「何の話?」
ラウ🤍「しっかり頼んだよ翔太」
翔太💙「はいっ!」
素直に頷く翔太の横で、佐久間が小さく吹き出した。
大介🩷「無自覚怖えぇ」
自動ドアが開く。湿った初夏の風が、ふわりと二人の間を通り抜けた。
自動ドアが閉まる。
監視モニター越しに、
並んで歩いていく二人の背中を見つめながら、
深澤はコーヒーカップを傾けた。
辰哉💜「ふふっ……いいねぇ」
ラウ子🤍「また観てるんですか?」
呆れた声。
振り返りもしないまま、
深澤は口元だけで笑う。
辰哉💜「嫉妬は愛のスパイスだからねぇ〜」
翔太💙「かっ……可愛い〜」
大介🩷「こっちがツナ、奥のがシャチだよ」
翔太💙「初めましてツナ、シャチ♡会いたかったよ」
佐久間はそんな翔太を見下ろしながら、
小さく喉で笑った。
大介🩷「なるほどね」
(まじ犬みてぇで可愛いやつだな)
翔太💙「あははっやだーくすぐったい。シャチくん積極的//」
大介🩷「行くぞ犬っころ」
翔太💙「猫ちゃんですよ?」
小首を傾げながらツナ、シャチをキャリーケースに入れるとペットホテルを出て前を行く佐久間の後を追った。
翔太💙「もっとゆっくり歩いて下さい。体にも良くありません」
佐久間は何やら後方を気にするように、足早に歩いている。時々止まっては、何だか落ち着かない様子だ。翔太はというと、時折キャリーケースを覗いてはニコニコと笑い佐久間から〝揺らすなよ〟と怒られる始末だった。
翔太💙「何処へ向かってます?計画表にないところへは行けませんからね」
大介🩷「腹減ったろ。なんか食おうぜ」
翔太💙「だぁーめっ!」
人差し指を佐久間に差し出すと、腰に手を当て仁王立ちしたその姿は、威圧感ゼロの、ただの愛くるしい翔太だった。
大介🩷「お前それ素でやってんの?」
翔太💙「ん?」
大介🩷「まぁいいや、フレンチ食いに行こうぜ。近くに個室の雰囲気のいい店があるんだよ」
ポケットに忍ばせた外泊許可証を開いて見せる翔太。
【外泊許可証】
――制限事項――
その一、個室は禁止。
その一、医療行為以外の接触禁止。
その一、壁際禁止。
その一、自販機前禁止。
その一、可愛いの禁止。
大介🩷「……何これ」
翔太💙「外泊中の注意事項です」
真顔。
大介🩷「壁際禁止って何」
翔太💙「僕もよく分かってません」
大介🩷「ははっ……」
思わず吹き出す。
翔太💙「あと個室もダメなんです」
大介🩷「誰が書いた?」
翔太💙「蓮」
即答。
大介🩷「あー……」
佐久間は察したみたいに笑った。
大介🩷「めちゃくちゃ警戒されてんじゃん俺」
翔太💙「だからフレンチ却下です」
大介🩷「優等生〜」
翔太💙「当然です」
得意げに胸を張る翔太。
その数メートル後ろ。
電柱の陰。
黒い傘が、すっと隠れる。
その数秒後、
反対側のショーウィンドウへ緑色の影が映った。
大介🩷「……ははっ」
翔太💙「?」
大介🩷「いや」
佐久間は前を向いたまま、
楽しそうに口角を上げる。
大介🩷「思った以上に愛されてんなって」
翔太💙「……?」
意味が分からないまま首を傾げる翔太の後ろで、
黒い影と緑の影が、
ぴたりと足を止めた。
翔太は急に振り向くと、電柱の影の方へ視線を送った。
翔太💙「あっ!」
慌てたみたいに、
電柱の陰で黒い傘がぐらりと揺れた。
反対側のショーウィンドウへ映っていた緑色の影は、
一瞬で消える。
翔太💙「あの人用意いいですね〜。やっぱり傘持って来ればよかった」
大介🩷「……っ、ははっ」
堪えきれなかったみたいに、
佐久間が肩を震わせる。
翔太💙「?」
大介🩷「いや、お前ほんとすげぇわ」
翔太💙「何がですか?」
大介🩷「無敵」
黒い雲が、ゆっくり街を覆っていく。
色とりどりの傘を抱えた人の群れが駅舎から出て来ると、翔太は少しだけ胸が躍った。
翔太💙「きっと綺麗だね〜」
大介🩷「は?何が?」
翔太💙「傘だよ……早く雨降らないかな〜お花畑みたいになる」
〝お前には敵わないな〟そう言った佐久間は翔太の頭を優しく撫でると、肩を抱いて再び歩き出す。
その瞬間。
――ガンッ。
少し離れた電柱の向こうで、
何かが鈍くぶつかる音がした。
翔太💙「?」
振り返っても、
見えるのは黒い傘の先だけ。
反対側のショーウィンドウには、
揺れた緑色の影が一瞬映り込んで、
すぐ消えた。
湿った風が吹くたび、
雨の気配だけが静かに近付いていた。
――やっぱり、
傘、持って来ればよかった。
コメント
8件
荷物からウサギの耳出てるの可愛すぎるし、トランプ♡も可愛いし、マジで働かない🖤💚も最高だし、💜の謎の一言最高👍

会話文だらけになっちゃった💦 土日の投稿はお休みします😪 アマエッティの方はしばらく休止しますね🙏こちらの作品にしばらくは専念したいと思います🙇