テラーノベル
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分かっていても、〝終わり〟があると思い知るのはつらい。
「澄哉さんの写真はここまでだけど、中学生以降の朱里の写真は、お母さんが撮ってるからね。こう見えても澄哉さんに色々教えてもらったの。彼ほど上手に撮れないけど、記念に撮っておくぐらいならできるわ」
そう言って母は横から別のアルバムを出し、テーブルの上に置いた。
開くと、中学二年生以降の私や恵が写っている。
今までのアルバムとは違い、父を喪ったあとの私は無表情に近かった。
母が再婚するまでの間に住んでいたアパートで、恵が来て一緒に宿題をやったり、カレーを作ったりしたのは覚えている。
夜寝る時は母と同じ部屋に布団を並べて寝て、『プライベートがない』と思いながらも、一人で寝ずに済む事に安堵していた。
それでも母は今思えば裁判やら、掛け持ちした仕事やらで忙しくしていて、夜遅い時は私が食事を作ったりもした。
山梨にいる父方の祖父母、京都にいる母方の祖父母からは、たまにFAXが送られてきて、心配してくれていたのを覚えている。
祖父母は仕送りとして野菜や食べ物などを送ってくれ、手紙に私でも作れそうなレシピを書いてくれていた。
今思うと、確かに色んな人から支えてもらっていた。
でも当時の私は目の前の暗くて細い道しか見えず、周りの景色を認識できていなかったんだろう。
「……京都のお祖母ちゃんは、当時何か言ってた?」
「……そうね。『朱里を連れて一旦こっちに戻ってきたら?』って言われたけど、『もうちょっと頑張ってみる』って言ったの」
母は京都出身で、今は標準語だけどイントネーションが少し違う。
驚いた時とかはあちらの言葉が出てしまったりで、なんとなく京都に憧れを持っている私は、母の優しげな話し方が好きだ。
「今度、篠宮さんも一緒に、京都の実家に行きましょうか。私は実家に泊まるけど、二人はホテル泊にして、空き時間にデートしたら?」
「う……、うん」
私は上ずった声で返事をし、期待の籠もった目で尊さんを見る。
「ぜひお邪魔したいと思います」
「じゃあ、そのうちスケジュールを決めましょうか」
「はい」
それでアルバムを見る流れは終わったけど、私は一つ気になる事があって父に尋ねてみた。
「今さらなんだけど、……もし良かったら前の奥さん……、|尚美《なおみ》さんやみんなの写真、見せてもらってもいい?」
そう言うと、父は「勿論」と笑ってアルバムを取りに行った。
家の中には尚美さんを含めた家族写真が飾られてあるけど、再婚したあとの写真もある。
以前も今も家族を大切にしてくれるのはありがたい事だけれど、今までの私は尚美さんの顔を見ると、無意識に申し訳なさを覚えていた。
でも今なら、みんなの〝傷〟を見せ合って、全員で前を向いて歩けるような気がする。
「懐かしいな」
父はアルバムを持ってくるとテーブルの上に置き、私たちに向かって開いてみせた。
「わぁ……」
若い時の父と尚美さんの写真があり、私はまるでまったく知らない人を見ている気持ちで写真を見ていく。
尚美さんはしっとりとした雰囲気の優しげな女性で、タイプ的にはどことなく母に通じるところがあるかもしれない。
「わ……。亮平が赤ちゃんだ」
写真を見て呟くと、美奈歩が「当たり前じゃん……」と呟いた。
こうやって写真を見ていくと、あの亮平もかつては無垢な子供だったのだと分かる。
生傷が絶えない少年時代を送り、少年サッカーチームにも入っていたみたいだ。
やがて美奈歩が生まれ、私はお人形さんみたいなおかっぱ少女を見て、思わず「かんわいい……」と呟く。
上村家の四人も、子供の入学や運動会などと共に歴史を刻み、みんなとても幸せそうな顔をしていた。
そのうち、少し痩せたように感じる尚美さんが単体で写った写真が増え、家族写真が何枚も撮られたあと――、彼女はアルバムから姿を消した。
自分の父が亡くなった時と似た感覚を味わった私は、無意識に溜め息をつく。
「これが、それぞれの家族の歴史だ。……そして僕たちはこれから新しい上村家として歩んでいく。……成長してから連れ子同士でうまくいかなかったのは分かるけど、……なるべく記念を残していこう。美奈歩や朱里ちゃんに子供が生まれた時、今野家、上村家、そして新しい上村家の軌跡を孫に教えてあげるんだ」
父に言われ、今度はなんの抵抗もなく「うん」と頷けた。
コメント
1件
皆で今野家と上村家、両家の思い出や歴史を振り返ることができて良かった…✨️ 両家ともそれぞれ悲しい別れを経験しているけれど😢 これからは新しい家族として、幸せに向かって歩んでいってほしいですね🍀