「今更何しに来た? っていうか、何で君がここを知っているんだ? 俺は教えてないはずだが?」
怜は眉間に皺を寄せ、訝しげな面差しで真理子を見やると、彼女は今にも瞳から雫が溢れそうに表情を崩しながら無言を貫いている。
「まさか……圭のヤツから聞いたんじゃないだろうな?」
怜が問い詰めると、真理子は観念したように辿々しく頷いた。
「怜が……以前言ってた気になる女性って…………やっぱり……音羽さんの事だったんだね……」
消え入りそうな声で、真理子が口ごもりながら言葉を漏らすと、怜は、
「ああ、そうだ。今は俺のかけがえのない恋人だ」
とキッパリ言い放った。
奏は二人のやり取りを、冷やかな眼差しで見つめたままだ。
「で、もう一度聞く。真理子は何しに来たんだ?」
「圭さんが…………私と婚約しているのに……他の女性と浮気してて…………私……」
怜が前髪をグシャリと掴みながら掻き上げ、呆れ混じりに『ハアァ……』と大袈裟にため息を吐いた。
「私、やっぱり…………まだ怜の事が好——」
真理子が怜に未練がましく言葉を言い切る直前、背後から怜に酷似した声が飛んできた。
「真理子!!」
三人が一斉に振り返ると、そこにやってきたのは怜の双子の兄でもあり、真理子のフィアンセでもある葉山圭。
(うわっ……ついに役者が揃っちゃったよ。しかしお兄さんと園田さん、私から見れば、どっちもサイアクなんだけど……)
奏は他人事と思いつつ傍観している。
自分が何とも言えない立場に置かれている事に、奏の胸の内は、しんと冷たい。
怜の目つきが更に険しくなり、圭に凍てつくような視線を送った。
「圭。お前、どのツラ下げてここに来てんだ?」
圭は弟の問いかけにも答えず、唇の片側をうっすらと引き上げて怜を見据える。
「まあいい。お前と真理子に話したい事もある。ここだと近所迷惑だ。近くに公園があるからそこに移動するぞ」
怜は奏の手を取り、マンションのすぐ近くにある広い公園へと向かうと、圭と真理子も二人の後についていった。
四人は綺麗に整備された公園の中に入っていく。
石畳の広場の奥には四阿(あずまや)が数ヶ所あり、中心には円形の大きな噴水池、それを取り囲むようにベンチが点在している。
公園内の街灯が、四人を青白く照らし、緊張感が漂う。
世間は楽しいクリスマスイブだというのに、『嵐の前の静けさ』のような空気が重苦しい。
怜と奏は噴水池の前で立ち止まり、後ろを振り返ると、圭と真理子も弟カップルから距離を置いた状態で歩みを止めた。
怜は変わらず冷酷な視線を兄に投げつけ、黙ったまま対峙する。
繋いだままの奏の手に指を絡めさせて恋人繋ぎにすると、怜は、彼女への想いを伝えるために、キュっと色白の手を握った。