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ルカ🐬💤
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ガチャリ。
賑やかさとは真逆の丁寧なノブ回しで主が誰と判る。
「はよー。早いね、お二人さん」
「おっちー、おはよー、お久し振りでアリマース!」
「ちょ、押すなって!コケてハンサムに傷でも出来たらどないすんねん!?」
「安心しろ。顔に怪我しても康二の面白さは傷つかねーから」
「しょっぴー??それ褒めてんのか違うんかどっちやねん?ノリでもハンサム言うてやぁ」
ぞろぞろ、そんなオノマトペが浮かんで見える仲間達の登場に自然と頬が弛む。屈伸で立ち上がり振り向きざま両手を胸の高さでひらりと閃かす。
「お早う、皆お疲れ様。佐久間はちょっと振りだね。元気そうで安心したよ」
「うっっわ、あざとぉ!!逮捕たーいほっ!はい、確保ー!」
「え、今の何処があざと…っ!佐久間ぁ、お願いだから手離して!」
「………」
耳馴染んだ〝あざとい警察〟だが接触有りとなると俄然焦る。己の手首を掴む手錠に見立てた、然し拘束までは行かない抱擁を解くよう慌てて頼む。
…何故って、触れ合う箇所に突き刺さる背後からの視線がとてつもな~く恐ろしいからだ。笑い声どころか無言だし。
7センチ上からの照準は俺の項にロックオンした、らしい。まるで虫眼鏡で太陽光を当てられているかのようなチリチリ焦げる刺激を肌に感じる。
痛い。怖い。やばい。でも心地良い。
独占欲、嫉妬、劣情。それに伴う安堵と充足、幸福感。
愛されてるなぁ…なんて喜びに浸っていたいが、聡明と呼ばれる脳内を瞬時に駆ける感情を急ぎ隅っこへ追いやる。時は一刻を争うのだ。
対目黒への最適解は自ら佐久間の手を振り解く事。
然し…出来ない。恋愛とは別の友愛をメンバー個々に抱いている故に。憂いた顔をさせたくない、見たくない。だがそれは当然恋仲の目黒にも当て嵌る。こんな大事な局面で優柔不断が顔を覗かせるとは。とても優先順位など付けられそうにない事態に眉尻が徐々に下が…ると同時、ふぅわり温もりが遠退いた。
「にゃは、どさくさで触っちったー。びっくりさせてごめんね、阿部ちゃん。…ほら離したんだからいいだろ、蓮。んな怖い顔すんなって…────フラれちゃうよん?」
「…さく、ま?」
「佐久間くん?」
明朗ながらもオクターブ下がった末語が鼓膜を打った途端、にっかり微笑む顔を団栗眼で見詰めてしまった。二色の低音でのハモリのおまけ付きで。
……どうして俺達の関係を知っているんだろう。
メンバー同士、然も同性での恋。それはもう慎重に慎重を重ねて隠し通して来た筈だ、俺も目黒も。
俺はともかく目黒は芝居の場数が半端ない。しくじる訳が…じゃあ俺が?やらかした?
惑いが挙動に出たのだろう、目黒が俺の背に掌を宛てがった。柔く、甘く撫でられる。
━━━━その仕草は存分に勇気をくれた。
緊張で乾き切った唇を舌で湿し開き、表情を変えないピンク髪主へ〝百点満点アイドルスマイル〟を贈る。
「フラれるって何?へんな佐久間。さては推しに相手でも出来たな」
「…はーん、そう来たか。なるなーる…、…うん!聞いてよー。昨日の最新話でカッコメンが出て来てさぁ、嫁の肩に手置いたの!」
「ふふ、やっぱり?あっちでゆっくり話そう、佐久間。時間まで付き合うよ」
「やりぃ!持つべきものはシンメだねん。お言葉に甘えて蓮、〝阿部ちゃん借りるよ?〟」
「っ……、うす」
「うおおい!カメラも回ってないのに小芝居した挙句行っちまうんかい!…まぁいいや、俺一眠りするから始まる前に起こしてー」
「ちゃんと睡眠取ってから来いや!座らせてもくれんと何やのほんまぁ」
「何ぼーっとしてんの、俺達も座ろ」
「あ…、…しょっぴー、この前言ってた話さ」
ほんの束の間ピリッとした空気が日常へとスムーズに移行する。
大丈夫、上手く誤魔化せた。俺達の関係はバレていない。まだ、大丈夫。
心の中でほっと息を吐き親友の後を追う。結構俺も演技派じゃないか、またドラマの話でも来ないかな。そんな淡い、知らぬが仏を考えながら。
水面下で繰り広げられた牽制合戦に俺が気付くのは、すこし未来の話。
続
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