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コメント
2件
こんな時間に……泣かせるなよ……
⚠ 死ネタ ⚠
一応シヴァうり
まだ 、君はそこにいる?
俺のそばに … その席に。
3月。寒さは抜け切っていないが 、少々温もりが戻ってきた。
教室に入ると 、空いた席が其処にひとつ。
窓際 、後ろから二番目。カーテンが揺れる度 、机にふわりと光が滑る。
誰も座っていない 、分かっている。でも。
通り過ぎるその瞬間 、少しだけ足が遅くなる。
声をかけそうになるのを 、喉の奥で飲み込む。
__ 「 おはよ 」
言わない。言ったところで 、返事なんてない。
それでも 、机の端に触れた指先がどこか落ち着く。
担任もクラスメイトも 、誰もその席に触れない。
まるで 、最初から空いていたかのように。
だけど 、俺は知ってる。
そこに肘をついて 、つまならそうに頬杖をつく癖も。ノートの端に落書きをすることも。
消しゴム貸して 、なんて当たり前かのように手を伸ばすことも。
全部 、知ってる。
だから 、空席だなんて呼べない。呼びたくない。
今日も無意識に 、2枚目のプリントを取ってしまう。
気がついて 、折り目をつける。
机の上に置くか迷って 、結局自分の鞄にしまう。
…… いらないのに。
チャイムが鳴る。
その瞬間だけ 、ほんの少し期待をしてしまう。
遅れて教室に飛び込んでくる 、あいつの姿を。
そんなわけないのに。
4時間目の途中 、窓の外から救急車のサイレンの音が聞こえてくる。
反射かのように顔をあげる。
赤い光は見えない。ただ、遠ざかっていく音だけが響いている。
「 大丈夫だろ。 」
そんな声が 、記憶の底から浮かび上がる。
あの日も 、こんなふうに晴れ空だった。
暑いぐらいの日差しで 、アスファルトが白く光っていた。
君は目を細めて 、「 アイス食いてぇ 」って笑った。
その横顔を 、ちゃんと見ていなかったことを今も後悔してる。
サイレンの音が聞こえなくなると 、教室は何も無かったみたいに静まり返る。
シャーペンの音 、ページをめくる音 、誰かの咳払い。
世界は 、平然と続いている。
俺だけが 、少し遅れている。
放課後 、掃除の時間。
ほうきを動かしながら 、廊下をただ眺める。
ふざけて雑巾がけレースをしていた君の姿 、今はいない。
君の使っていたその雑巾は 、もう誰にも使われず 、ひっそりと端に掛けられている。
風に吹かれて少し揺れるその様子を見ていると 、まだ君はすぐ近くにいるような気がした。
まだ 、この雑巾でレースをしていそうだった。
「 __ なあ。」
呼び掛けそうになって 、息を止める。
君の名前を 、口に出せない。
出してしまったら 、本当にいないと認めることになる気がして。
教室のカーテンが揺れる。
光が差して 、空いた椅子の影が床に伸びた。
そこにあるのは 、ただの空席だ。
なのに。
其処にあるのは 、君の席だと 、どうしても思ってしまう。
名前を呼べないまま 、歩く帰り道。
いつもの横断歩道に通りかかる度 、思い出す。
あの日の帰り道。
夕焼けがやけに赤くて 、君は信号待ちの間 、やけに静かだった。
口を開きかけて 、やめた。
聞き返されるのが怖かったのでも 、冗談みたいに笑われるのが怖かったのでもない。
ただ 、今のままが良かった。
隣を歩いて 、くだらない話をして。
たまに肩がぶつかるぐらいの距離。
壊したくなかった。
君が先に口を開いた。
「 もしさ 」
そこで 、ひゅうと風が吹く。
大型トラックのエンジン音が 、会話をかき消す。
「 … やっぱなんでもない 」
そう言って君は笑った。
あの時 、聞き返せばよかった。
何? って。さっきの続きは? って。
言えなかったのは 、俺だけじゃなかったのかもしれないのに。
信号が青に変わる。
君が1歩先に歩く。
俺は半歩遅れた。
__ それだけだ。
それだけで 、世界はこんなに静かになる。
教室のあの空席を見る度に思う。
もし俺が 、あの時「好き」って気持ちを伝えられていたら。
なにか変わったのだろうか。
もしかしたら 、君はいつもの笑顔で「俺も」なんて言葉を言ってくれていたのだろうか。
… 変わらなかったとしても。
せめて 、君の最後の記憶が 、曖昧な横顔じゃなくて 、ちゃんと俺を見て笑う顔だったら良かったのに。
思ったよりすぐに時間が流れた。
今日はもう卒業式。
ふざけるやつもいた 、泣いてるやつも。
勿論真面目なやつだって。
なんだかあっという間だった。
周りが外で写真撮影やら最後の交流やらをしている時 、俺は1人静かな教室へ戻る。
相変わらず君のその席は 、カーテンの揺らぎに合わせて光が滑っていた。
目の前の席に座る。何故だか自分が座っていた席よりもあたたかく 、心地よい。
「 … うり。 」
「 お前のこと 、好きだった。 」
机に触れながら 、独り言ぐらいの声量で呟く。
返事はない。分かっている。
それでも 、言えた。
言えなかった言葉が 、ようやく形になった。
窓の外で風が吹く。
カーテンが揺れ 、再び光が机を照らす。
その中に 、誰かがいる気がした。
__ 気がしただけだ。
立ち上がって 、教室を出る。
最後にもう一度 、教室を見つめる。
もう 、ここには誰もいない。
それでも。
其処にあるのは 、空席なんかじゃない。
其処にあるのは 、君の席。
きっと 、これからも。
Fin