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あの後、家族が帰ってきた。
タイミングが少し違ったらどうなっていたんだろうか。
考えたくもない。
いや考えるだけでも恐ろしい。
「晩御飯オムライスでいい〜?」
「うん」
母さんと今日の晩御飯の話をしていると隣に居た畑葉さんが何やらボソリと呟いた。
『オムライスってなんだろう』って聞こえたような気がしたが気のせいだろう。
きっと。
多分。
「2人でかき氷食べてたの?」
「食べるっていうか勝負的な感じだけどね」
母さんの質問にそんな言葉を付け加える。
と、母さんは何故か笑った。
「凛ちゃん、琉叶には勝てなかったでしょう?」
「はい…負けました……」
「そうだろうね」
「琉叶はアイスクリーム頭痛にならないもの」
いつまで笑ってるんだろうか。
流石に笑いすぎじゃないか?
でも前に僕が畑葉さんのことで爆笑してたんだっけ?
きっと僕が爆笑した時も畑葉さんはこう思っていたのだろうか。
なんだか申し訳ない気分…
「晩御飯の時間まで僕の部屋行く?」
「うん!!行こ!」
そう言いながら場所を知らないはずなのに僕の部屋がある2階へと向かう。
しかもちゃんと僕の部屋に居る。
「なんで場所分かったの?」
「何となく?」
何となくって…
まぁだいたい自分の部屋って2階にあるもんね。
そう謎に1人で納得する。
「暇だね〜」
畑葉さんはそんな声を漏らしながら僕の部屋を漁る。
クローゼットを開けたり僕の机の引き出しを開けたり。
別に恥ずかしいものは持ってないからどうでもいいんだけれど、なんだか複雑な気分。
「古佐くん、これ何?」
そう言いながら僕の机の引き出しの奥底から小さな箱を取り出す。
よくそんなの見つけたなと思いながら
「開けてみたら?」
なんて言う。
正直に箱の中身言えばいいのに。
そう思ったが、
中身は多分
畑葉さんが気に入るものだと思いわざと言わなかった。
そっちの方が驚きが増すと思って。
「え、私が開けるの?」
そう言いながらも手は先に開けている。
「これ押し花じゃん!!」
そう。
僕のちょっと前の趣味は押し花を作ることだった。
「カエデとかサンダーソニアまであるじゃん!!」
そう1人で盛り上がっているところ悪いが、
その花がそんな名前だって知らなかった。
「そういえば古佐くんの部屋もそうだけど古佐くんの家の中って緑多いよね」
「まぁ…観葉植物好きだから……」
「なんか…ジャングルみたい」
確かに。
僕の部屋はリビングより観葉植物の数が圧倒的に多い。
傍から見たらジャングルにも見えなくもない。
「この観葉植物とかって本物?」
「わぁ!!本物だ!あれ、こっちは偽物…」
そう言いながら飾り用の花や葉、
観葉植物に触れる畑葉さん。
「緑に囲まれると落ち着くから」
聞いてもいないのに1人そんなことを呟く僕。
「ね!分かる!」
こんなどうでもいい呟きに返事してくれる畑葉さん。
めっちゃ優しい。
「押し花って桜も作れる?」
「もちろん」
「欲しいの?」
欲しいんだったら作ってあげる。
そう言う前に心の中でその言葉を繰り返し練習する。
練習する意味が全く分からないが。
「ううん、要らない」
せっかく練習した言葉は水の泡。
じゃあなんで要らないのに作れるって聞いたのさ。
そんな不満が心の中で溢れ落ちる。
そのとき、
「琉叶〜!!凛ちゃん〜!!ご飯よ〜!」
とリビングから僕たちを呼ぶ母さんの声が響いた。
僕は立ち上がって階段を降りる。
が、中腹まで来た頃に気づく。
後ろから階段を降りる音がしないことに。
「畑葉さん?先行ってるよ?」
そう問い掛けながら横目でまだ部屋の中に居る畑葉さんを見る。
と、どうやら押し花が入った箱を見つめていた。
「畑葉さん?」
なんだか切なそうな顔をしているように見えて、再度呼びかけてしまう。
「あ、ごめん!行こっか!」
と何事も無かったかのように僕より先に階段を降りて行く。
押し花の箱の外にはポピーの押し花の姿だけがあった。
「美味しい!!初めて食べました!」
オムライスを一口食べてそんな声を上げる畑葉さん。
先程の呟きを聞いた僕は何も思わないが、
何も聞いていない母さんと父さんは目を丸くして驚く。
そりゃあそうだ。
だってオムライスなんて子供の好きな食べ物ランキングに入っているくらい知名度は高いものだし。
というか食べたことないという人は中々居ないだろうに。
「こんな美味しいもの!」
「それなら良かったわ」
取って付けたかのように畑葉さんは『こんな美味しいもの』と先程の言葉に少し時間が経ってから付け加える。
流石の畑葉さんでも母さんと父さんのリアクションには気づいたのだろうか。
「どんどん食べなさい」
あまり喋らない父さんが料理を畑葉さんに勧める。
そういえば父さんって食いしん坊な子、
好きだったっけ?
だから母さんと結婚した的な話、前聞いたな…
そんなことを考えながら自身の口にオムライスを突っ込む。
卵がトロトロで美味しい。
古佐家の晩御飯は毎日と言っていいほどに卵料理が出てくる。
その理由は父さんが卵料理を愛してやまないから。
母さんと父さんの愛の花はまだまだ枯れないようだ。
それはそれで安心かもしれない。