テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
lスタジオには少しだけ静かな時間が流れていた。
機材を片付けたり、次の曲の準備をしたり。
元貴がふと思い出したように言う。
「そういえばさ」
みんなが顔を上げる。
「今度のライブ、終わったあと物販の片付けもしなきゃなんだよね」
綾香が少し驚く。
「え、あれ結構大変じゃない?」
高野も頷く。
「段ボールとか多いしな」
元貴が困った顔で笑う。
「誰かスタッフと一緒に手伝ってくれる人いないかなーって」
少しの沈黙。
そのとき。
若井がふっと口を開いた。
「じゃあ」
みんなが若井を見る。
若井は、特に深く考えてないような顔で言った。
「涼ちゃんやれば?」
一瞬、空気が止まる。
元貴が少し眉を上げる。
「え?」
若井は肩をすくめた。
「だってさ、涼ちゃんそういうの得意そうじゃん」
言い方は軽い。
でも。
それはこの中で 一番やりたくない仕事 だった。
ライブ後の片付け。
重い箱。
売れ残りの確認。
細かい作業。
誰も積極的にはやりたがらない。
綾香が少し戸惑う。
高野も何も言わない。
元貴は涼ちゃんを見る。
涼ちゃんは少しだけ目をぱちぱちさせた。
でも。
すぐに、いつものふわっとした笑顔になった。
「いいよ」
あっさりと言う。
「別に俺やる」
元貴が少し心配そうに言う。
「大丈夫?」
「うん」
涼ちゃんは軽く笑った。
「そういうの嫌いじゃないし」
本当かどうかは分からない。
でも涼ちゃんは、嫌な顔をしなかった。
若井はそれを見ても、特に何も言わなかった。
ただギターの弦を軽く鳴らすだけ。
元貴は少し考えてから言う。
「じゃあ俺も手伝うよ」
「いいって」
涼ちゃんが笑う。
「俺やっとくから今夜少し準備するんでしょ?」
そのまま話は流れていった。
――その夜。
スタジオに一人残って、
涼ちゃんは段ボールを整理していた。
ガムテープを貼りながら、小さく息をつく。
(まぁ、こういうの別に嫌いじゃないし)
静かなスタジオ。
さっきまでの音が嘘みたいだった。
(若井、俺のこと苦手なんだろうな)
そう思うと、少しだけ胸が静かになる。
でも。
怒るほどでもない。
悲しいと言うほどでもない。
ただ。
(まぁ…しょうがないか)
そう思って、また箱を持ち上げる。
そのとき。
スタジオのドアが開いた。
ガチャ。
涼ちゃんが振り向く。
そこには――
若井が立っていた。