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銚子はゆっくりと息を吸い、穏やかな口調で続けた。
「今お話ししたことが、私の知っている全てです」
忍は深々と頭を下げる。
「貴重なお話をありがとうございました」
しかし龍河は、まだ一つだけ確認したいことが残っているようだった。
「最後に一点だけ、気になっていた事が
あるんですけど、お聞きしてもいいですか?」
銚子は首を傾げる。
「ええ、構いませんよ」
「先ほどの話と重複してしまうんですか
天縁学園野球部の暴力事件の件です」
龍河は静かに説明を続けた。
「暴力事件が明るみに出て、高野連から
除籍処分を受ける騒動になりましたよね?」
銚子はすぐに思い当たったように頷く。
「ああ、あの件ですか」
室内に一瞬、静かな空気が流れる。
龍河は慎重に言葉を選びながら切り出す。
「野球部の騒動と同じ時期、御船愛子の名前が
ネットで浮上していたと伺ったんですが?」
銚子は少し考えるように視線を落とした。
「確かに、その頃に私の名前が密かに
話題に挙がっていたことはありましたね」
だが、すぐに首を横へ振る。
「でも、その頃には私はもう過去を捨てていました」
多摩雄や信愛と共に、人目を避けるように静かな暮らしを送っていた。
「ですから、あの騒動には直接関わっていないんですよ」
龍河は納得したように頷く。
「なるほど・・そうでしたか
ありがとうございます」
忍は感慨深そうに腕を組んだ。
「未解決事件調査隊の千里眼騒動は
オカルト通の間では定期的に話題になる話でした
それを当事者から直接お話を伺えるとは夢にも
思いませんでした、ありがとうございました」
再び頭を下げる忍に、銚子は柔らかく微笑む。
「いえ、とんでもないです」
その場に流れていた緊張が、少しだけ和らいだ。
◇ ◇ ◇
茜が腕を組みながら信愛へ視線を向ける。
「でもさ・・・この先どうするの?」
信愛も同じ疑問を口にする。
「それだよね・・・」
龍河は迷いなく答えた。
「やるべきことは決まってる」
その瞳には、取材を始めた頃よりもずっと強い決意が宿っていた。
「霊貴冥孤への面会だ」
部屋の空気が再び引き締まる。
龍河は銚子へ向き直った。
#普通
野々さくら
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805
44
ありあ
159
「お母さんが番組の霊視で観たという
ナワバリ様──そして謎の儀式」
そこにはまだ、誰も辿り着いていない真実が眠っている。
龍河はそう睨んでいた。
そして、次なる人物との対峙を決意するのだった。
「そして天縁教団の目的
それらを知るには、霊貴冥孤の
存在が必要不可欠だからな」
その言葉に、信愛が遠慮がちに口を開いた。
「あの・・・馬場さん?」
「ん?どうした?」
信愛は決意を固めたように真っ直ぐ龍河を見つめる。
「やっぱり霊貴冥孤の面会・・・私も同行したいです」
その瞬間、茜が慌てて声を上げた。
「もう、信愛!」
額に手を当て、大きくため息をつく。
「まだそんなこと言ってんの?
編集部でも話したじゃんよ!
信愛が教団から狙われる──」
信愛は少しも怯まず茜の言葉を遮る。
「もう狙われた」
その言葉に茜は一瞬言葉を失う。
「あ・・そっか」
だが、すぐに首を振った。
「って、そうじゃなくて!」
心配そうに信愛へ歩み寄る。
「これ以上危険になるかもしれないじゃん」
銚子は信愛の様子を見て苦笑する。
「まったく・・あんたって子は・・」
それを聞いた多摩雄が豪快に笑う。
「銚子に似たんだな。血は争えない
っていうのは、まさにこのことだ、わはは」
「何ですって!?」
銚子が思わず睨み返すと、多摩雄は慌てて手を振った。
「いやいや、別に深い意味はない」
龍河は咳払いをひとつして場を戻す。
「まぁ、教団に狙われたんだから
どのみち一緒ってのは極論の様に思うけど
白縫さんの言い分もあながち
間違ってるとは言えないかもしれないな」
「ですよね?なら──」
しかし龍河は信愛の言葉を遮る。
「だが無理だ、悪いがこればかりは
認めるわけにはいかない」
信愛は唇を噛み締める。
「馬場さん・・・」
龍河は真剣な表情のまま言葉を重ねた。
「もし君の身に何かあったらご両親に合わせる顔が無い」
龍河のその言葉には、ひとりの大人としての責任、そしていち雑誌記者としての矜持、信念が込められていた。
すると銚子が割って入る。
「でしたら、私も同行させていただけませんか?」
「え!?おか、お母さんまで!?」
龍河は思わず素っ頓狂な声を上げた。
銚子は穏やかな笑みを浮かべたまま続ける。
「仮に霊貴冥孤が嘘をついていたとしても
私は千里眼でそれを見抜くことができます
取材のお役にも立てると思いますよ?」
龍河は腕を組み、困ったように頭を掻く。
「ま、まあ・・・それは
確かにそうかもしれませんけど・・」
その様子を見た多摩雄は苦笑しながら肩をすくめた。
「おいおい、銚子・・・
馬場さんが困ってるだろ?」
龍河へ向き直り、小さく頭を下げる。
「すみませんね馬場さん銚子は一度熱くなると
周りが見えなくなるところがあるんですよ」
「は、はぁ・・・」
子は親を映す鏡という言葉があるが、今回はまさにそれだと言えるだろう。
龍河は曖昧に相槌を打ちながら、心の中で苦笑した。
(なんつーか、この娘にこの親アリって感じだな)
すると信愛が身を乗り出す。
「どうです?馬場さん?」
銚子も畳み掛けるように微笑んだ。
「どうですか?」
二人から同時に期待の眼差しを向けられた龍河は、思わず言葉を失う。
信愛と銚子。ダブル無鉄砲は一歩も引かない。
二人の熱意に挟まれた龍河は、人生でも滅多に味わうことのない難題を前に、深いため息をつくのだった。
コメント
1件
拝読しました。銚子さんの過去の話がひと段落して、いよいよ霊貴冥孤への面会に向かう流れ、気持ちが引き締まりましたね。特に、信愛さんと銚子さんが揃って「同行したい」と言い出す場面、母娘で無鉄砲なところがそっくりで思わず笑ってしまいました。龍河さんの「この娘にこの親アリ」という心の声、めちゃくちゃわかります(笑)。ダブルの無鉄砲に挟まれてため息をつく龍河さんの姿が目に浮かびます。次がどうなるのか、本当に気になります。