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「気にする必要ないって!」
心配でベックさんを見送っていたら、背中をリビアさんにバシバシ叩かれてしまいました。
ちょっと痛いです……
「で、ですがベックさんを傷つけてしまって……」
「大丈夫だって!」
「明日にはケロッとしてるさぁ」
「そうそう、それともあんな男と結婚したいのかい?」
皆さんのベックさんへの余りに余りな言いように、私はいたたまれなくなってしまいました。
「いえ、ベックさんが悪いと言うわけではなく……私は本当に誰とも結婚をするつもりがないだけなのです」
「あんた飛び切り美人なのにもったいないねぇ」
「まあ、町の男共には高嶺の花すぎて手も足も出やしないか」
「既に20人は撃沈してるんじゃないかい?」
「いやいや、今ので玉砕37人目なんだよ」
「なんだい、町の独身男の半数近いじゃないか」
「あいつら変な取り決めしててさ。求婚は抜け駆け禁止で順番決めて毎月1人らしいのよ」
「ここ一年は……ほら、あれだから中止してたみたいでさ」
「紳士協定とか言って話し合ってたわよ」
「ぷっ、何が紳士だい!」
「冗談は自分達のツラだけにしときなってな!」
奥様連の皆さんがそう言って大笑いするので、彼らの名誉の為にも弁護をしないと。1年中止したというのも、私がエンゾ様のご逝去に塞ぎ込んでいたのを気遣ってくれていたのでしょう。彼らはとても気の良い方々なのです。
「別に今までの殿方に魅力が無かったわけではありません。ただ、私が神に仕えるシスターだからで」
「だけどシスターでも結婚できない訳じゃないだろ?」
「うっ、それは……」
リビアさんの鋭い突っ込みに言葉が詰まってしまいました。
実は、我が国の宗派は修道者の婚姻を認めており、少数ですが結婚されている方はいるのです。また、還俗して嫁がれるシスターもおりまして、結婚自体が不可ではありません。ただ、やはり神を生涯の伴侶として生きる方が多いのですが。
「そういやぁシスター・ジェルマも若い頃はすっごいモテモテだったわねぇ」
「当時の若い男の大半が熱を上げてたもんさ」
「シスターってモテるのかしら?」
「貞淑な感じがいいんじゃない?」
さすが奥様連です。
話がころころと急展開します。
もう付いていけません。
「ジェルマさんの場合はあの異常なまでの母性が要因だろ?」
「ああ、分かる分かる。若い頃から包容力凄かったからねぇ」
「シスター・ミレみたいに絶世の美女ってわけじゃないんだけど笑顔が魅力的なのよ」
「男も女も魅かれちゃうような人だったわ」
やはりシスター・ジェルマは若い頃から成熟された素晴らしい方だったのですね。
「私もいつかはシスター・ジェルマのような素敵なシスターになれるでしょうか?」
「なれやしないよ」
誰にも聞き取れない囁きと思ったのですが、しっかりリビアさんに聞き咎められてしまいました。
「そ、それは確かに私のような陰鬱な女ではシスター・ジェルマみたいに……」
「そうじゃないよ」
リビアさんの物言いはどこか呆れている感じがしました。
「あんたはシスター・ミレだ。シスター・ジェルマにはなれやしないよ」
「別にそのものになりたいのではありません。あの方の様な魅力的な人になりたいのです」
「ホントに無自覚だねぇ」
「ダメだよリビア。この子は真面目すぎんのさ」
「ホント優等生よねぇ」
「シスター・ジェルマの言う通りだ」
リビアさんに続き奥様連の皆さんまで笑って参戦してきました。
「いいかい、あんた間違いなくこの町で一番の美女なんだよ」
「しかも真面目で働き者で気立ても良いときてる」
「おまけに貞淑な聖女様だからね」
「十分に立派で魅力的なシスターだよ!」
皆さんの褒め言葉に恥かしくなって、穴があったら入りたい気持ちを大変よく理解できました。
「そんな事は……私なんて――んぐっ!?」
「唯一の欠点はそれさ」
否定しようとした私の口をリビアさんは指で塞ぎました。
「『私なんて』はやめな。あんたはいつも卑屈になるねぇ。まあ王都での話は聞いてるし、しょうがないとは思うんだけどね」
しゅんと項垂れる私の肩をリビアさんはバシバシと叩きます。かなり痛いです。
「私はちゃぁんと知ってるよ。あんたは十分に魅力的で素敵なシスターだって」
「リビアさん……」
私の目が涙ぐんでいるのは、決して叩かれた肩が痛かったからだけではありませんでした……