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生きて

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2022年07月03日

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───嫌いになれたら、どれほど楽だっただろう…。───



目に映るのは、ただ灰色に歪んだ世界。

それを上から塗ることで自分を騙すようにして、私は絵を描き続ける。なんのために生きているのかも分からないまま。

狂ったように、壊れたように絵を描き続ける。

何度やめたいと思っただろう。それでも私は、気付くとキャンパスを持っている。

…もう疲れた。いっその事、すべてをやめてしまおうか。

そんな想いで私は橋の欄干に片方の足を掛けた。ここは、私がいつも絵を描きに来る場所で、“あの人”との思い出の場所。

当てつけのような事をしているのは解っている。

でも、これぐらいは許してくれてもいいのではないだろうか…。

そんなことを思いながら、もう片方の足を掛ける。ここが人気の無いところで良かった。邪魔する人どころか、見ている人もいないので、誰かが胸を痛める事もないだろう。

そんなことを思った瞬間、誰かが叫んだ。

「待って!!!」

振り返ると、そこには少年が立っていた。中高生ぐらいだろうか。

「これ貴方の絵ですよね。僕、貴方が絵を描いてたの、いつも見てたんです!とても綺麗で…。」

少年はそう言いながら、一枚の紙を私に見せた。それは確かに私が描いた絵だった。

「どうしてその絵を…。」

それは純粋な疑問だった。その絵は、数ヶ月前に川に捨てたはずだ…。

「実は、川に投げ捨てているのを偶然見てしまって…。探したら、ギリギリ水に入ってなくて…。」

「そんなに、気に入ったならその絵はあげる。だからお願い、放って置いて…!」

「嫌です。」

「お願い!もう生きている意味も無いの…。」

そう言うと、少年は少し間を置いて言った。

「…誰しも最初は、自分が生きている意味なんてないんです。ただ他人が自分が生きる事を願っているから、生きている…。でも、不思議な事に、気付いたら自分でも、生きていたいって思ってるんですよ。」

私は、少年の話を聞きながら、“あの人”と出会った日の事を思い出していた。


あれは私がこの少年と同じくらいの時、彼は私の学校の美術の先生だった。その時彼はこの橋にいて、今の私と同じように、橋の欄干に足を掛け、飛び降りようとしているような状態だった。そんな彼を止めたのが私だった。

それから、私は彼に絵を習うようになり、卒業と同時に私達は恋人になった。そういえば、私はあの時、何と言っただろうか…。

「「もう少しだけ、生きて見ませんか?」」

その瞬間、少年と過去の自分が重なった。

自分がこの言葉を言われる側になるなんて、あの時は想いもしなかった。彼はあの時、こんな気持ちだったのだろう。

気が付けば、私は泣いていた。その後もずっと…。

少年は、私が泣き止むまで、ずっと寄り添っていてくれた。


その日以降、少年が姿を現すことは無かった。

幻覚でも見ていたのかもしれない…。或いは夢か…。でも、彼が私に勇気をくれたのは紛れもない現実だ。

「もう少しだけ…、生きてみようかな…。」

そう呟くと、私は今日も絵を描き始めた。


そこには二つの人影。

「ありがとうございました。」

「本当にその姿で良かったの?」

「はい。今、彼女は前に歩き出さなければいけません。過去を振り返るべきじゃない。」

「へぇ〜…。で、本音は?」

「…貴方ホント良い性格してますよね。」

「いつもの事だろう。で、もし彼女が君の事を忘れて、彼女の隣に他の男がいたらどう?」

「…素直に祝福できるかは分かりませんが、今確かに言える事とすれば…、」

彼は少し考えこむように間を開けてから言った。

「どうかお幸せに…。」

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