テラーノベル
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その日の午前0時前。
深夜の街は静まり返り、昼間とはまるで違う顔を見せていた。
街灯の明かりだけが薄暗い道路を照らす中、龍河は一人、かつてカルネアデスバスが最初に目撃されたという場所を訪れていた。
「この辺だな・・最初にバスが目撃された場所」
龍河はスマホを取り出し、時刻を確認しながら周囲を見回す。
人影はない。
車の音さえ、ほとんど聞こえてこなかった。
「本当に来んのか?カルネアデスバス」
そう呟くと、龍河はポケットから煙草を取り出して口に咥えた。
ライターの火が、暗闇の中で一瞬だけ彼の顔を照らす。
煙を肺いっぱいに吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「ふぅ~・・・」
白く濁った煙が、夜の闇へと溶けていく。
その時だった。
「バス来ました?」
突然背後から聞こえた声に、龍河は振り返る。
そこには、茜たちの姿があった。
「はぁ?何やってんだ?こんな時間に・・・」
予想外の来訪者に、龍河は露骨に顔をしかめる。
「いやぁ、やっぱバスが気になっちゃって」
茜が悪びれる様子もなく答える。
「だからってな・・しかもみんなで」
龍河が呆れたように頭を抱えると、信愛が申し訳なさそうに頭を下げた。
「すいません。茜がどうしても
行きたいって聞かなくて」
「邪魔はしませんから」
さくらも続ける。
しかし、龍河の表情は険しいままだった。
「悪いが帰ってくれ」
その言葉に、一同の表情が固まる。
「今の状態で警察に職質されたら
俺は悪者扱いだ。大人しく帰れ」
「でも──」
茜がなおも食い下がろうとした、その時だった。
「でもじゃない!」
鋭い声が、静まり返った夜道に響く。
全員が驚いて声のした方を振り返った。
暗い裏路地から、一人の女性が姿を現す。
それは美月だった。
「え?美月ちゃん?なんで?」
まさかの人物の登場に、茜たちは目を丸くした。
美月は呆れと怒りを滲ませながら、一同の前まで歩いてくる。
「なんで?それはこっちのセリフよ?」
そして生徒たちを順番に見渡すと、大きくため息をついた。
「アナタ達・・・今は茜さんの家に
泊まってることになってるんじゃないの?」
「え?何でそれ知ってんの?」
茜の顔から、みるみるうちに余裕が消えていく。
「貴方達のことが心配でね
みんなの自宅に電話させてもらったの」
「まじで!?」
「やっば・・・」
さくらが気まずそうに視線を逸らす。
美月は腕を組み、じっと生徒たちを見据えた。
「私、言ったわよね?プロに任せなさいって」
「いや、でも──」
茜が弁解しようと口を開いた、その瞬間。
美月の平手が、茜の頬を打った。
乾いた音が、静かな夜道に響く。
「美月先生・・・」
信愛が驚いたように呟く。
龍河も何も言わず、その光景を見つめていた。
「いい加減にしなさい!」
美月の声は怒りに震えていた。
「仮に事件に巻き込まれたりしたらどうすの!?」
「美月ちゃん・・て」
「気になる気持ちも理解できるわ。でも
もしアナタ達の身にもしもの事があったら
私や親御さんがどれだけ悲しむか!」
美月は一人ひとりの顔を見つめる。
その瞳に浮かんでいたのは、ただの怒りではなかった。
大切な生徒たちを本気で案じているからこその、恐怖と焦りだった。
「そこを考えなさい!」
深夜の道路に、美月の叱責が響き渡る。
先ほどまで好奇心に浮かれていた一同は、もう誰一人として言葉を返すことができなかった。
「まぁ、先生、気持ちはわかりますが
今のご時世は色々問題あるでしょうし
ここは一旦落ち着きましょうよ、ね?」
龍河が優しい口調で美月をなだめる。
「あ、ごめんなさい・・私ったら・・」
美月は我に返り茜に頭を下げる。
「ごめん・・菅生さん・・私」
「ううん、悪いのは私だから・・・
ごめんなさい・・美月ちゃん・・」
茜は自分の行いを悔いる様に小さく呟く。
「悪いのは茜だけじゃありません
俺らも茜の考えに乗ったんです」
「そ、そうです、僕らだって同罪です」
焔垂と朝陽は茜を庇う様にに弁解する。
「すいませんでした・・」
信愛とさくらも深々と頭を下げる。
「わ、分かってくれたなら良いの・・」
美月はそう言って、生徒たちを見回した。
先ほどまでの激しい怒気は治り、その表情には優しさが滲んでいた。
「さあ・・返りましょう私も一緒に
親御さんに謝ってあげるから」
「は、はい・・・」
茜は完全に萎縮し、小さく返事をする。
美月はそんな生徒たちを連れて帰ろうとしたが、ふと足を止めた。
「馬場さんご迷惑をおかけしました」
美月が深々と頭を下げる。
「いえ、俺は大丈夫です」
龍河はそう答えると、美月と、その後ろにいる生徒たちを見つめた。
そして、どこか羨ましそうに口元を緩める。
「それにしてもみんな幸せもんだな
こんなに真剣に想ってくれる教師が居て」
「馬場さん・・・」
美月が少し意外そうな顔をする。
だが龍河は、それ以上は何も言わなかった。
「カルネアデスバスは俺が責任持って──」
その言葉を遮るように、信愛が突然口を開いた。
「ん?何?あれ・・・」
全員の視線が信愛へ向く。
信愛は何かを見つけたように、遠くを指差していた。
その先には二つの光。
暗い道路の向こうから、車のヘッドライトと思しき光が、ゆっくりとこちらへ近づいてきていた。
「あれは・・・バス?」
美月が呟く。
「いや、まさか・・・」
焔垂が目を凝らす。
そしてスマホで時刻を確認した。
「もう0時3分っスよ?こんな時間にバスなんて」
「もしかして・・・カルネアデスバス?」
さくらの声に緊張が混じる。
「うっそ・・・」
茜からも、先ほどまでの軽さが消えていた。
龍河は何も答えない。
ただ、闇の向こうから近づいてくる二つの光に、真剣な眼差しを向けていた。
やがてそのバスは、まるで彼らの存在を最初から知っていたかのように速度を落とし、一同の目の前で静かに停車する。
龍河はすぐさま小走りでバスの前方へ向かい、行き先表示を確認した。
そこに浮かんでいた文字を見た瞬間、その表情が変わる。
「間違いない・・・カルネアデスバスだ」
「うっそ!?」
信愛も龍河に続き、行き先表示へ目を向けた。
そこに表示されていたのは『選択』の二文字。
「せ、選択・・・」
信愛の声が震える。
「ま、まじで実在してたのかよ・・・」
焔垂が信じられないものを見るように呟いた。
龍河は目の前のバスから視線を逸らさない。
「6ちゃんねるのスレッド通りだ・・・」
そこに停車しているバスは、投稿に記されていた特徴と完全に一致していた。
深夜零時を過ぎて現れる、行き先不明のバス。
車内は薄暗いどころか、外からでは何ひとつ見えないほど真っ暗だった。
誰かが乗っているのか。
運転手がいるのか。
その奥に何が待っているのか。
何ひとつ分からない。
ただ一つ確かなのは、
噂の中でしか存在しないはずだった『カルネアデスバス』が今、彼らの目の前に停まっているということだけだった。
コメント
1件
×××さん、第162話読ませていただきました。 深夜のバス待ちシーン、龍河さんの煙草の火が暗闇に映える描写がかっこよかったです。そこに茜たちが現れて、さらに美月先生が飛び込んでくる展開には驚きました。でも、美月さんの平手と叱責に込められた本気の心配が刺さりましたね。「そこを考えなさい!」の言葉、すごく響きました。 そして最後、本当に現れたカルネアデスバス。「選択」の二文字が不気味すぎて、背筋が冷えました。次が気になります…!
#普通
野々さくら
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ありあ
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