『喫茶 黒猫』
チリン…チリン…
「いらっしゃいませ」
「…コーヒー」
「はい」
「ほんとうに…まさかほんとうに店を出すとは」
「私はやると決めたらやりますので」
店を出した次の日から護衛騎士であるフェムル様が来てくれた
「フェムル様が来てくださり光栄です」
「…貴殿に店を営むうえでやるべきことを多く教えてもらったからな」
「ふふふ…ぜひ活用してくださいね。どうぞ…」
「コーヒーうまっ…」
ニッコリ
私はあの後、フェムル様と改めて自己紹介をした。今では硬い敬語ではない喋り方になってしかめっ面ではなく笑顔で話しかけてくれるようになった。
また、二人が薬屋に戻る際に
『フェムル様…フェムル様は掃除の心へをご存知ですか』
『知らない…』
『…やはり』
案の定、二人は掃除ができない人たちだった。店が汚いと私が言ったが二人は気にしておらず主様は綺麗だと言っていた。フェムル様は物を捨てられない人だったので物で溢れかえるばかりだ。すぐに荒れ果てた姿を綺麗な状態へと変えるために掃除をした。 フェムル様と一緒にホコリを取り、ゴミを片付け雑巾がけや古くなった棚を新調したりなどした。
『フェムル様それはいりません』
『フェムル様それは燃えないゴミです』
『フェムル様雑巾はちゃんと絞ってください』
『フェムル様物は分けてください』
『フェムル様』
『フェムル様』
『フェムル様』
『フェムル様』
その言葉の繰り返だった。
『お前は…掃除の鬼か』
そんな風に言われることもあった。
それでも、おかげで今や新しくできたばかりの店のように輝いている。ドアや床は新しく板を張り替えたり、色も塗り直したりした。この状態を続けてもらうために毎日やることリストを作りそれを実行してもらっている。後、鎧ではなくエプロンの姿に変えてもらった。あの格好では店員ではなく不審者だ。本人は変だという自覚がないようだか。
(私お手製のエプロン…すぐに真っ黒になっていそうだ)
「…正直掃除は面倒だがな 」
「薬屋を営む上で汚れたままではだめですよ。そのうち、店の様子見に行きますからね」
まぁ、人として掃除はマナーの一つとして行ってほしい
「うっ…」
この人は絶対に部屋も汚いままだろうな。そのうち二人の部屋の掃除もしている未来が見えた。
「主様に経営状況を伝えたいですしね」
「そうだな」
他の客から注文が来ていたので作りながら話していると
「…どうしましたか。急に静まりかえって」
「…一ついいか」
「なんでしょう」
「書類仕事をしながら店を営み領地開拓計画をする…なんて大丈夫か」
「今のところ問題はありません」
私は、店と共に書類仕事を任された。(任せてもらった)
「主様…部下としての役職は秘書兼領地開拓担当部門代表者でよろしいですか」
「…勝手にしろ」
面倒くさそうな顔をして答えていたな。
私は秘書も名乗ったので大公爵として書類仕事も行っている。主様がやらなかった分結構な量が溜まっており、王城からの書類も混じっていた。そのうち…城に行かねばならない日が来るかもしれない
「私はここで喫茶店を営みたいです」
ニッコリ
「…頭がイカれたのか」
「いいえ正常です」
「なぜ…」
「私料理は得意ですし甘いものも作れますよ」
「それが聞きたいのではない。何の徳がある」
「何かを食べたり…飲んだりすることはその人にとっては安らぎになります。焦らなくていい…落ち着いていい。そのまま悩みも吐き出すことができる…安心できる場所を作りたいのです。簡単に言えば悩み相談所でもありますね」
「悩みを聞いてどうする」
「悩みによっては発展へのきっかけになりますので」
「はぁ…勝手にしてろ。場所はどうする」
「せっかくですのでこの広場あたりでやろうと思います」
「その為にここを綺麗にしたのか…」
「どうでしょう。ぜひ…店に来てください」
「行かん…」
(…意地っ張りだな)
「最後に一ついいでしょうか」
「…まだあるのか」
「領民達をここの地域に移住させたいのです」
「なぜ」
「店には客が必要ですよ」
「…勝手にしろ」
急いで皆に綺麗になったことを報告した。全員に呼びかけを行い北側の地区に移動してもらった。
『ほんとうにできるなんて』
『ありがとうございます』
『ありがとう』
『ありがとう』
『昔のようだ』
『懐かしい』
そんな声が聞こえた。これで一部の地域を戻すことができた。これから、住民と共に他の荒れ果てた地域も戻していく必要がある。
店は、掃除の最中に目星をつけていたのでそこを店とした。
領民達が看板や大きめのドア、店の中のテーブル、カウンター、イスなど作るのを手伝ってくれたのですぐに店は完成した。
「アイリスちゃんお店頑張ってね」
「はい」
宿屋の店主夫妻が応援をしてくれた。
「宿はどうですか」
「おしゃれで最高よ」
「キッチンもきれいだった」
将来、住民地区…商売地区…憩いの場の地区をつくろうと思うのでそこに移動してもらった。まだ、周りは廃墟まみれだがそこも全て綺麗にしていきたい。また、家を壊した際に出た瓦礫などは宿屋の飾り付けに使った。壁などおしゃれな感じになったので他の場所とは違う雰囲気へと変わった。今まで、応援をしてくれたので私なりの感謝だ。
オープンしてから、皆が来てくれた。店はよく埋まっており一時は無料サービスを付けていくので客いきはある。ケーキやコーヒーなども喜んでくれたのでよかった。
「なんで、書類仕事を引き受けたんだ」
「この領地の現状を詳しく知る必要があるからです」
「あれは、古い記録だ」
「古くても必要な情報があるのですよ」
「そうか」
「今までどのような事をしていたのか知る必要がありますからね」
「今までか…」
「フェムル様は書類仕事したことありませんか」
「…ないな」
「…領地以前に問題だらけですね」
これからは、綺麗にするだけではなく他にもやるべきことが山積みだ。
「フェムル様もお暇なら手伝ってください」
「…暇ではない」
「そうですか」
「書類仕事は一応…昔は主様が行っていた」
「今は全然していませんよね」
「ある日から部屋に籠りっぱなしだ」
「…そうですね」
それは…あの人にとっての心の傷だ。
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