「まさかそんな事になるなんてな」
エリーとの新魔法の開発で、新たな魔法が生まれた。
「しかもセイさんは出来なかったのに、私は出来ました!」
「ぐっ…俺も使いたいが…致し方ない」
同じ魔法の組み合わせでも、俺には出来なかったのだ。
「もう一度撃ちますね!」
「ああ。やって見せてくれ」
エリーは一本の大木に向かい、集中する。
『アイス・ウインド』
バチンッ
バリバリッ
エリーから放たれた雷は、目にも留まらぬ速さで大木へ直撃し、その太い幹を割り炎上した。
「やっぱ、かっこいいな…」
「そうですそうです!」
威力は調整出来ないっぽいが、ただただ凄い。
物語なら勇者属性によく使われる雷だ。
何がいいって、初級魔法の組み合わせだから、詠唱の面でもコストの面でも優秀だ。
そしてカッコいい……
「原理はわからないが、エリーの風魔法の適性の高さが成せる技っぽいな」
じゃないと2時間も試して出来なかった俺の立場がない。
「これで魔法を節約せずに撃ち放題です!」
「仲間が前方にいる時は絶対に撃つなよ。指向性があるのはわかったけど、雷は曲がるからな」
まぁこれで、初見でエリーをどうこう出来る人はかなり減ったな。
問題は結局不意打ちに弱いのと、悪い人間にエリーが躊躇なく撃てるかだけど、こっちの世界の人は撃てそうだから大丈夫か。
俺は仲間の安全度が上がった事に満足して、エリーを連れて王都へと転移した。
「へー。そんな魔法があるんだな」
エリーは両親の家に帰り、俺は暇なのでライルと店でお喋りを。
「初見だと絶対躱せないぞ」
「という事は、セイは躱せるのか?」
「そうだ」
試していないが、雷なら躱せるだろうな。
「発動直前に魔法に向かってナイフを投げるんだ」
「ナイフを?」
「ああ。雷ならより近くのものに落ちるはずだからな。
魔法ということで、地面と水平に撃てる程度の指向性はあるけど、曲がって追いかけてくるわけじゃなさそうだったし、エネルギーとしては強いけど、質量はほぼないからな」
避雷針やそれに代わるものを正面に置いてやればそれに向かうだろう。
仮にそれが無理だとしても、使うことがないと思っていたウォーターウォールを正面に使えば問題ないはずだ。
問題は中級魔法だから詠唱が間に合うかだが。
何だよ水の壁って思っていたけど、案外使えるのかも…ウォール系はファイアウォールしか使ったことがなかったけど、今度暗記出来るまで使おうかな。
ちなみに射程は100m程だった。
充分実用性のある距離だ。
雷自体の射程はもっとあるんだろうけど、100m程でエリーが魔法制御を出来なくなるみたいだな。
「明日はどうすんだ?またダンジョンか?」
「明日はエトランゼの街を散策する予定だ。何か見所はあるか?」
「ねーな」
くっ…聞く相手を間違えたな…明日またエリーにでも聞こう。
「エトランゼです?わからないです」
こいつもか……
「そうか。とりあえず適当にぶらついてくるわ」
「もしかして、デートの誘いですか!?うーん。ミランに悪いですが仕方ありません!一緒に行くです!」
…まぁいい。めんどくさいからつっこんだら負けだ。
「両親に伝えてきます!」
「それはいいけど、誤解のないように伝えろよ?」
エリーパパのラドンさんに刺されたくはないからな!
エリーママのニーニャさんは喜びそうだけど……
王都のエリー両親の家のリビングで待っていると、2階からラドンさんの叫び声が聞こえた気がした。
「改めて見ると、面白味の無い街です」
エトランゼに転移した俺達は、まずは第三防壁と第二防壁の間にある街を散策した。
理路整然というか、かなり区画は整理されているけど、建物は特に統一されているわけでもお洒落でもない。
水都の家では、大通りに面している建物の道路側は必ず一定以上のサイズのきちんと管理された花壇が必要らしい。
そういった景観に関する条例は無さそうだ。
勿論区画整理されているから見た目はスッキリしてるんだけど。
風情がない。古い集合住宅や市営団地のような感じだ。
「何だか鳥籠のようです」
「そうだな。活気があるわけでもないし、生活に華がなさそうだな」
そう思うと、道行く人達も何だか機械的に動いてるように見えてきた。
「ダンジョン探索(?)でしたか。それが終わったらすぐ旅に出たいです」
「そうだな。元々何も無い荒野に人が集まっただけだもんな。過度な期待は禁物か…」
ダンジョンに夢や浪漫、又は金銭を求めて冒険者が集まり、そのおこぼれに与ろうと商人が商機を見出して集まった街の為、無駄なものが一切なかった。
物価は高いが、その分キチンとしたクオリティの店が多い第二防壁内へと向かうことにした。
「この店でいいか?」
俺達はそこそこ人が入っている店の前に来ていた。
外観は言わずもがな。清潔ではあるがオシャレ感は一切ない。
「ご飯が食べられるならなんでもいいです!」
この子はこう見えて、最近まで食うに困っていたからな。
初めは見た目の可愛さからも同情の気持ちが大きかったが、今では育ち盛りの子供にしか見えない……
ガラガラッ
扉に付いているベルを鳴らしながら開けると……
「「いらっしゃいませ〜」」
綺麗なお姉さん達に出迎えられた。
あれ?やっぱりここには浪漫が詰め込まれてた?
「強そうなお兄さんは、おひとり様ですかぁ?」
猫撫で声で扇情的な格好をしたお姉さんに聞かれて、吃る年齢イコールな僕。そこに・・・
「間違えました。出ますよ」
「イテテテテッ!?」
エリーに耳を引っ張られながらの情けない退店となった。
「もう!セーナさんやミランがいないとすぐこれです!」
「いや!誤解だ!こんな素敵な店だなんて知らなかったんだ!」
いかん!心の声が漏れてもうた……
「私がお店を選ぶです!付いてきてください!」
プリプリしたエリーに腕を引っ張られながら、エトランゼの街を歩く。
暫く店を吟味していたエリーがふと立ち止まった。
「この店にするです!さっき女性が入って行ったので、間違いないです!」
「あ、ああ。任せるよ」
俺に残された返事は『はい』か『イエス』だけだった。
ガランガランッ
同じようにベルを鳴らしながら店の扉を開くと、そこは大勢の冒険者と思える人達で溢れ返っていた。
普通の格好をした給仕の女性が忙しなく動いている。
さっきの店が気になるが、ここではそんな素振りは一切見せずに・・・
「二人なんだが入れるか?」
こちらに気付き近寄ってきた店員に声をかけた。
「そうですね…相席で良ければ座れますが…」
そう言われたのでエリーを見ると・・・
「お願いです!」
「かしこまりました。ご案内しますね」
店員さんに付いて行き、相席の場所へと案内される。そこには・・・
「こちらの席です。相席されますので詰めて座ってください」
すでに席に着いていた女性達に声をかける店員さん。
俺を見てフリーズする3人。
「よっ。悪いな。相席させてもらうぞ」
俺は陽キャを装い声をかけた。
「セ、セイさん!?ど、どうぞ!」
「セイさん!そ、そちらの女性はまさか!?」
「セイさん!私の隣が空いてますよー!」
サーヤ、ジーナ、メイの順番に声をかけてくれた。
四角い6人がけがギリギリ出来そうなテーブルに、左にサーヤ、ジーナ。対面の右にメイが座っていた。
「じゃあお邪魔する」
俺はそういうとメイの横に座ろうとしたが……
バッ
目にも留まらぬ速さでエリーが席につき、俺はエリーの横に着席した。
『セーナさんとミランの為にもここは私が頑張るです』
と、聞こえた気がしたが、気のせいだろう。最近幻聴が多いしな!
席に着いて注文を済ませたら、早速物怖じしないメイが話しかけてきた。
「エリーちゃんはホントにセイさんと付き合ってないの?」
「セイさんは私の魅力にメロメロなのです!だけど、高嶺の花過ぎて中々踏み出せないと、セーナさんという人が言ってました!」
なんちゅう嘘を……
確かに大人しく餌付けされてる時は、何にも代えられない可愛さが爆発してるけど、普段がポンコツだからな。
その後もエリーが3人から質問攻めにされて、俺にとっては嘘の情報を混ぜながら返答していた。
「えっ!?エリーちゃんって同い年なの!?じゃあセイさんは…ロリコンじゃなかった…?」
おいっ!やめろ!お巡りさんこの人です!になるだろ!
「ロリコン(?)はよくわかりませんが、第一夫人の座はセーナさんというセイさんと同い年の人が狙っています!」
「えっ?エリーちゃんはそれでもいいの?」
「私は第三夫人の座を甘んじて受け入れています。セイさんは大商人で大金持ちなので問題ないのです!」
三人は俺のことを高ランクの冒険者としてしか知らないもんな。
目を丸くしていた。
料理が来たので漸く俺の手持ち無沙汰が解消され、舌鼓を打った。
「美味いな。味付けもハッキリしているし、ボリュームもある」
俺の食レポの腕なんてこんなもんさ……
「ここはあまり稼げていない冒険者に人気の店なんです。安く美味しく量が多いですから」
「ですが、この様に混むので稼げる冒険者の方は来ないですね」
サーヤが教えてくれて、ジーナが補足してくれた。
何だか吉◯家のキャッチフレーズのようなモノが聞こえたが……
やはりどの世界でも庶民と上級国民では流行る店が違う様だな。
「…ところで、セイさんは何人の夫人を許容されますか?」
サーヤが聞きづらそうに答えづらい事を聞いてきた。
「…愛があればいいんじゃないか?」
ここは濁して答えておこう。俺の夢はハーレム……
最近は独り身の方が良く思えてきたけど。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
エリー (ついにセイさんがデートに誘って来ました)
聖「どこか見たいところはあるか?」
エリー「貴方と一緒なら何処までも」(セーナさんが作ってくれた『聖を落とす100ヶ条』から抜粋です!)
聖「…体調悪いなら、宿で休むか?」
エリー (ま、まさか!?ダメです!第24条『勝負パンツ』に抵触します!今日はセーナさんが買って来てくれたクマさんパンツなのです!それはまずいです!)「大丈夫です!クマさんパンツなんて履いてません!」
聖 (また聖奈さんの悪巧みの犠牲か…)「うん。そういうのは街中で叫ばない様に」
エリーが聖を落とすのが先か?
聖がお巡りさんに捕まるのが先か?
この胸熱展開に乞うご期待!
嘘です。続きません。
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