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引っ越して三日目の夜だった。
部屋は古いけれど、駅に近くて家賃も安い。唯一気になったのは、窓に最初から付いていた重たい灰色のカーテンだった。
分厚くて、昼でも光をほとんど通さない。
管理会社に聞くと、
「前の住人が置いていったものです。気になるなら外していいですよ」
と言われた。
でも、なんとなくそのままにしていた。
その夜、風はないのに、カーテンが揺れていた。
最初は気のせいだと思った。
窓が少し開いているのかもしれない。
近づいて、カーテンをめくろうとしたとき——
中から、ゆっくりと指が出てきた。
白くて細い、人間の指。
思わず後ろに飛び退いた。
心臓が耳の奥でドクドク鳴る。
「……誰?」
返事はない。
カーテンはまた静かに垂れ下がった。
恐る恐る窓を開ける。
外は四階の高さ。ベランダもない。
当然、人が隠れる場所なんてない。
なのに。
カーテンだけが、まだ揺れていた。
その晩は電気をつけたまま眠った。
——次の日の夜。
ふと目が覚めると、部屋が暗かった。
確かに電気をつけたはずなのに。
そして気づく。
カーテンが、少しだけ開いている。
その隙間から、誰かが覗いていた。
目だけ。
真っ黒な目。
瞬きをしないまま、じっとこちらを見ている。
体が動かない。
声も出ない。
やがてカーテンの隙間が、ゆっくり広がる。
そこには、女の顔があった。
長い髪、青白い肌、裂けたような口。
女は、笑っていた。
「やっと……開けてくれた」
その瞬間、理解した。
このカーテンは——
外を隠すためのものじゃない。
**中にいる“何か”を、閉じ込めるためのものだった。**
翌朝。
管理会社に電話すると、担当者は少し沈黙して言った。
「……あのカーテン、外しました?」
「え?」
「絶対に開けないよう、前の住人には伝えていたんですが」
僕は、ゆっくり振り返った。
カーテンは、閉まっている。
でも。
布の向こうから、はっきりと——
**人の形が、こちら側へ押し出されていた。**