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「ねぇ、なんで桜ってあんなに綺麗に咲くのか知ってる?」
猫を思わせる挑戦的なふたつの瞳がこちらに向けられる。
僕はある有名な文豪の、有名な一節をすぐに思い出したが、知らないフリをした。
「さっぱりわからないよ。まさか、君は知っているというのかい?」
自分の大根役者ぶりに少し悲しい気持ちになったが、目の前の少女は「もちろんよ」と得意げに笑った。
「桜の下にはね、死体が埋まっているのよ」
「えぇ?!し、死体?」
「ふふ。そうよ。学校の桜も、公園の桜も、1本1本の下にそれぞれ、死体が埋まっているの」
「そ、そんな…」
「……っていう本を今日読んだっていう話だけどね」
「な、なんだ。びっくりさせないでくれよ。僕がそういう話が苦手なのは知っているだろう?」
「ふふ。だからこそよ。あなたはリアクションが大きいから、楽しいわ」
「もう」
「変な話よね。死体から分解されたものを吸い上げて咲いた花が綺麗だなんて」
「死んでしまった魂が、花になって、人々を呼んでいるのかもしれないね」
「呼ぶ?」
「そう。死んでしまってもう話もできなくなった大切な人とかにひと目だけでも会えるように、その人の目にとまるように、大きくて綺麗な花を咲かせているのかも」
「素敵な考えだわ。とてもロマンチックね」
「へへ、そうかな」
「ええ、とても」
そう言った彼女は、いつものように優しい笑みを浮かべた。
「私、桜って大好きなの」