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第5話: 【建築】村を一晩で完成させてみた【巨大ボックスクラフト】
村は、足りなかった。
家が足りない。
柵が足りない。
寝る場所が足りない。
物を置く場所も足りない。
そして何より、安心できる形が足りなかった。
魔物は何度も来た。
転生者も次々来た。
笑い声は増えた。
歌も増えた。
音も増えた。
けれど、村の木の柵はまだ傾いていた。
屋根には穴があり、風が通った。
子どもたちは眠る時、扉のほうを何度も見た。
ナギは広場の端に座り、スマホを見ていた。
転生タイムライン。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
ボックスクラフト
巨大建築
再現作品多数
ナギは画面を閉じた。
「建築か」
横でリクが桶を叩いた。
ぽん。
桶が言った。
「今日もえらい!」
リクはうなずいた。
「建築系なら、ステージ作れますね」
マヒロが即座に振り向いた。
「作ってほしい!」
ロッカは柵の修理をしながらため息をついた。
「まず村の防備だ」
マヒロは胸を張った。
「防備とステージ、両方いけるかも」
「欲張るな」
ナギは二人を見て笑った。
「でも、この流れだと両方やる人が来そうなんだよな」
その時。
村の外で、土が四角く盛り上がった。
ずん。
全員が振り向いた。
ずん。
今度は石が四角く組み上がる。
ずん。
木が、まるで見えない手に積まれるように重なった。
広場の向こう。
村の入口の前に、四角い門のようなものが現れた。
ナギはゆっくり立ち上がる。
「来たな」
ロッカが短剣を抜いた。
「魔物か」
「たぶん違う。いや、違ってくれ」
四角い門の上に、人影が立っていた。
緑の作業ベスト。
茶色の髪。
眠そうな目。
片手には木槌。
もう片手には四角いメモ板。
その人物は、村を見下ろしながら言った。
「素材、足りなすぎ」
ナギは目を細めた。
「第一声が建築目線」
その人物は門から飛び降りた。
地面に着く直前、足元に四角い土台が現れ、衝撃を受け止める。
リクが目を輝かせた。
「かっこいい登場っす」
マヒロも拍手した。
「ステージ映えする!」
ロッカだけは警戒していた。
「名乗れ」
その人物は木槌を肩に乗せた。
「箱庭カイ。ボックスクラフト系UP主。四角で作れない物は、だいたい時間が足りないだけ」
ナギは小さくうなずいた。
「強そうな言い訳だ」
カイはナギを見る。
「ここ、村?」
「一応」
「一応?」
ナギは壊れた柵と穴のある屋根を見た。
「村予定地かもしれない」
ロッカが睨んだ。
「村だ」
カイは首をかしげた。
「じゃあ、未完成の村」
ロッカの眉が動いた。
マヒロが慌てて間に入る。
「まあまあ、完成させればいいじゃん!」
カイはうなずいた。
「それなら得意」
スマホが震えた。
ナギは画面を見る。
転生タイムライン。
能力名
巨大ボックスクラフト
効果
素材を四角い単位で組み上げ、建築物を高速生成する。
補正
設計の具体性。
過去に投稿した再現作品。
周囲の協力。
完成後の使い道。
ナギは息を吐いた。
「やっぱり建築チートだ」
カイはナギのスマホをのぞく。
「投稿履歴、使われるんだ」
「みたいだな」
「じゃあ、あれも出せるかも」
「何を?」
カイは村を見渡した。
「人が暮らせて、守れて、集まれて、迷子になりにくい村」
ロッカが少しだけ目を細めた。
「そんなもの、一晩で作れるのか」
カイは眠そうな目のまま言った。
「寝なければ」
ミレナが帳面を開いた。
「危険な発言ね」
カイは指先で見えないマス目をなぞる。
「まず配置」
地面に薄い線が走った。
四角い線。
道。
家。
広場。
柵。
見張り台。
倉庫。
小さな水路。
村人たちが集まってくる。
ガルムが低い声で言った。
「何をしている」
カイは地面を指差した。
「村の設計」
「頼んだ覚えはない」
「頼まれる前に、壊れそうだったから」
ガルムは少し黙った。
風が吹いた。
傾いた柵が、ぎしりと鳴る。
カイは続けた。
「魔物が来る村は、道がまっすぐすぎると危ない。入口は二重。広場は避難しやすく。子どもが迷わないように、家の形を分ける。火を使う場所は端。水場は中央に近く。見張り台は四方向」
ミレナの手が止まらない。
「すごい……話しながら設計してる」
リクが木箱を叩いた。
「テンポいいっすね」
マヒロはにやりと笑った。
「完成したらライブ会場も欲しい」
カイは即答した。
「広場に音が返る壁を作る」
マヒロは拳を握った。
「採用!」
ロッカが言う。
「防備が先だ」
カイはうなずいた。
「防備込みの広場。逃げ込めるライブ会場」
ロッカは一瞬言葉に詰まった。
「……それならいい」
ナギは笑った。
「丸め込まれてる」
「うるさい」
カイは村人たちを見た。
「素材がいる。木、石、土、布。使えるものは全部」
ガルムが腕を組む。
「村の物を勝手に使われては困る」
カイはガルムを見上げた。
「壊れかけの物は、組み直せば使える。捨てる物は減らす。大事な物は壊さない」
ガルムはナギを見た。
ナギは肩をすくめた。
「今まで来た転生者の中では、だいぶ実用的です」
リクが手を上げた。
「俺も実用的っすよ」
マヒロも手を上げる。
「私も」
ロッカが小さく言った。
「騒がしいだけではない」
桶が言った。
「みんなえらい!」
ガルムは深く息を吐いた。
「分かった。今夜だけ任せる。ただし、村人に危険があれば止める」
カイはうなずいた。
「十分」
その夜、村は眠らなかった。
カイが木槌を振る。
こん。
地面から四角い土台が浮かび上がる。
こん。
木材が整い、壁になる。
こん。
石が積まれ、見張り台の足になる。
村人たちは材料を運ぶ。
リクは作業のリズムを作る。
とん。
かん。
どん。
マヒロは歌う。
疲れた足を前へ出させる歌。
眠い目を少しだけ開かせる歌。
ナギは大喜利で補助する。
「お題! 一晩で村を作る時に一番ありがたい道具とは!」
答えはすぐ出た。
「置いた瞬間、自分の持ち場を理解する木材!」
木材が小さく震えた。
運ばれた木が、自分から正しい位置へ滑っていく。
カイが目を見開く。
「それ、便利」
「だろ」
「もう一回」
「注文が早い」
ナギは次のお題を出す。
「絶対に迷わない村の道とは!」
答える。
「行きたい場所のほうから小さく手を振ってくれる道!」
地面の道に、小さな木札が現れた。
家。
井戸。
広場。
見張り台。
倉庫。
それぞれの方向を、ぴこぴこと示す。
ロッカが木札を見た。
「道が手を振っている」
「便利だろ」
「少し腹立つ」
「何でだよ」
カイの作業は止まらなかった。
四角い家が建つ。
でも、ただの箱ではない。
屋根には雨を逃がす段差。
壁には風を通す小窓。
入口には子どもでも開けやすい取っ手。
家ごとに形が少し違う。
リクのために、音がよく響く小さな作業場。
マヒロのために、広場に立てる舞台。
ミレナのために、記録を置く棚のある小屋。
ロッカのために、村外を見渡せる見張り台。
ガルムのために、村人が集まって相談できる大きな部屋。
カイは誰にも聞かず、見て作った。
ミレナがつぶやく。
「人の動きを見て、必要な場所を作ってる」
カイは木槌を振りながら答えた。
「建築は、人の癖を見るものだから」
ナギは少し驚いた。
カイの目は眠そうなのに、村のことをよく見ていた。
どこで子どもが転びそうになるか。
どこで老人が休みたがるか。
どこでロッカが見張るか。
どこでマヒロが歌いたがるか。
どこでリクが音を試したがるか。
全部、四角い形に変わっていく。
夜が深くなる。
月が高くなる。
村人たちの足が鈍くなった頃、森から低い唸り声が聞こえた。
ロッカが見張り台から叫ぶ。
「魔物!」
作業の手が止まる。
森の道に、巨大な影がいくつも見えた。
四本足。
硬い角。
重い足音。
建築途中の村を狙っている。
ガルムが杖を握る。
「全員、中央へ」
カイは建築線の上に立ったまま、動かなかった。
ナギが叫ぶ。
「カイ!」
「今止めると、壁が半端になる」
「魔物が来てる!」
「だから止めない」
リクが洗面器を構える。
「叩きます」
マヒロがマイクを握る。
「歌う」
ロッカが短剣を抜く。
「近づけさせない」
ナギはスマホを握った。
カイは木槌を高く上げた。
「防壁、先に完成させる」
こん。
地面から四角い壁が立ち上がる。
しかし、まだ低い。
魔物なら飛び越えられる。
カイの額に汗が流れる。
「素材が足りない」
ナギは周りを見た。
余った木材。
石。
壊れた古い柵。
割れた桶。
使えなくなった荷車。
ナギは息を吸った。
「お題! 素材不足の建築家が、最後に見つけた最高の材料とは!」
カイが横目で見る。
「何?」
ナギは答えた。
「村を守りたい気持ちで、なぜか強度が上がる廃材!」
壊れた柵が光った。
割れた桶が光った。
古い荷車の板が浮いた。
廃材が、カイの前へ集まる。
カイは一瞬だけ笑った。
「使える」
木槌が振り下ろされる。
こん。
廃材が四角いブロックへ変わる。
こん。
壁になる。
こん。
門になる。
こん。
見張り台の支えになる。
魔物が突進してきた。
どん。
新しい防壁が受け止める。
村全体が揺れた。
でも、倒れない。
リクがリズムを打つ。
どん。
どん。
どん。
マヒロが歌う。
怖がるな。
まだ作っている。
まだ終わっていない。
完成まで、立っていろ。
村人たちが手拍子をする。
ぱん。
ぱん。
ぱん。
カイの能力が強まる。
四角い光が地面を走る。
壁の上に通路。
通路の上に柵。
柵の上に見張り台。
門の横に避難路。
魔物が再び突進する。
カイは指を動かした。
壁の一部が開く。
魔物が勢い余って入る。
その先には、行き止まり。
ロッカが驚く。
「罠か」
カイは短く答えた。
「誘導路」
魔物は狭い通路に詰まった。
前に進めない。
後ろにも戻れない。
ナギはすぐに叫ぶ。
「お題! 村に入った魔物が一番困ったこととは!」
答える。
「親切すぎる案内板に、出口まで案内される!」
誘導路の壁に木札が現れる。
出口はこちら。
足元注意。
またのお越しはご遠慮ください。
魔物たちは木札に従うように、村の外へ押し出されていく。
リクが笑いながら叩く。
「親切!」
マヒロが歌いながら笑う。
「二度と来ないでね!」
ロッカが肩を震わせる。
「追い返し方が変だ」
ナギは汗を拭った。
「勝てばいいんだよ」
夜はさらに深くなった。
魔物の群れは何度か来た。
けれど、新しい村はそのたびに形を変えた。
壁が受け止める。
道が逃がす。
見張り台が知らせる。
広場が人を集める。
カイの木槌が、村を少しずつ完成へ近づける。
夜明け前。
最後の一打が響いた。
こん。
村の中央に、四角い鐘楼が立った。
高すぎず、低すぎず。
村のどこからでも見える場所。
カイは木槌を下ろした。
「完成」
誰もすぐには声を出せなかった。
朝の光が、村に差し込む。
そこには、昨日までの村とは違う景色があった。
二重の門。
頑丈な防壁。
広い道。
家々。
倉庫。
井戸の屋根。
見張り台。
記録小屋。
音の作業場。
小さな舞台。
子どもたちが遊べる広場。
全部が四角い形を残しているのに、冷たくない。
人の動きに合わせて、少しずつ優しい。
ガルムが長く黙っていた。
やがて、深く頭を下げた。
「ありがとう」
カイは眠そうな目をこすった。
「使ってくれるなら、それでいい」
マヒロは舞台に飛び乗った。
「ここ、私の場所!」
ロッカが言う。
「村の場所だ」
「じゃあ、村のライブ場所!」
リクは音の作業場の壁を叩いた。
こん。
音が気持ちよく返ってくる。
「最高っす!」
ミレナは記録小屋の前で震えていた。
「棚がある……記録を並べられる……」
ナギは笑った。
「泣きそう?」
「泣いてない。記録がにじむから泣かない」
桶が言った。
「今日もえらい!」
カイは桶を見た。
「しゃべる桶?」
ナギはうなずいた。
「俺のせい」
「いい建材になる」
桶が元気に言った。
「運ばれてえらい!」
ナギは桶を抱えた。
「建材にするな」
スマホが震えた。
転生タイムライン。
第5話
巨大ボックスクラフト
動画には、カイが門を作る姿。
村人が材料を運ぶ姿。
リクが叩き、マヒロが歌い、ナギが大喜利で廃材を強くする姿。
夜通し作られた村が、朝に完成する瞬間が映っていた。
コメント欄が流れる。
「一晩で村完成はやばい」
「ボックスクラフト勢きた!」
「再現建築の人じゃん」
「防壁の設計ちゃんとしてる」
「案内板で魔物帰すの草」
「ナギの能力、補助に回ると便利すぎ」
「カイ寝て」
カイは画面をのぞき込み、最後のコメントで止まった。
「寝る」
言った瞬間、その場に倒れそうになった。
ロッカが慌てて支える。
「おい」
カイは目を閉じかけながら言った。
「家、あるから」
ナギは完成した家を見た。
「自分の寝床も作ってたのか」
カイは小さくうなずいた。
「建築家は、最後に寝る場所を確保する」
「最初にしろよ」
カイは答えず、ロッカに支えられて家へ運ばれていった。
マヒロが舞台の上で伸びをする。
「今日の夜、完成記念ライブしようよ」
リクが即答する。
「伴奏します」
ミレナが帳面を抱える。
「記録するわ」
ロッカが戻ってきて言う。
「全員、まず寝ろ」
桶が言った。
「休むのもえらい!」
ガルムが低く笑った。
「その通りだ」
ナギは新しい村の中央に立った。
昨日まで、ここは不安が混ざった場所だった。
今も危険は消えていない。
帰り方も分からない。
転生タイムラインも止まらない。
けれど、形ができた。
人が集まる場所。
眠る場所。
守る場所。
歌う場所。
音を鳴らす場所。
記録する場所。
好きなことで生きてきた誰かが、この世界で村を作った。
ナギはスマホを見た。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
笑顔専門
子ども向け動画
安心感
ナギは小さく息を吐いた。
「次は、笑顔か」
マヒロが舞台から身を乗り出す。
「いいじゃん。今の村にぴったり」
リクが音の作業場から顔を出す。
「歓迎の曲、作るっす」
ロッカが見張り台の上から言う。
「騒ぎすぎるな」
ミレナが記録小屋から答える。
「無理ね」
ガルムは新しい門を見上げた。
「来るなら、迎えよう」
ナギは新しい道を歩いた。
道の木札が、ぴこぴこと手を振る。
広場はこちら。
舞台はこちら。
休む場所はこちら。
ナギは笑った。
「ほんと、親切すぎる村になったな」
朝の風が、完成した村を抜けていく。
転生タイムラインは更新を続ける。
そして村は、少しずつ、転生者たちの居場所になっていった。
コメント
1件
あああ、第5話読み終わったよ〜!!😭💕💕 カイ、登場からかっこよすぎん??「寝なければ」って言い放って一晩で村建てちゃうのマジで憧れる…!ナギの大喜利で廃材が強度上がるところ、二人のコンビネーション光っててめっちゃ熱かった🔥🔥 それに「建築は人の癖を見るもの」って台詞、グッときた…!リクやマヒロ、ロッカ、ミレナ、ガルムのためにちゃんと見て作った家がそれぞれあって、その優しさが村中に溢れてたね🥺✨ 桶が「今日もえらい!」なのも大好き🤣💖 こんな村、ほんと住みたい…!!次は笑顔専門の転生者?またワクワクが止まらん!⏳🎀
#魔道具職人
こはる
338
742
#異世界転生
しめさば
6,417