「ごめん。私はレイが好きだから……。
……それに、私にとって拓海くんは「優しいお兄ちゃん」だから……」
言いたくてもそれ以上は声にならなかった。
口籠ると、拓海くんが言えなかった続きを口にする。
「……だから、俺は恋愛対象にはならないって?」
私はうつむき、膝に置いた手を握りしめた。
今、私は拓海くんを、ものすごく傷つけている。
それがはっきりわかるのに、どうすることもできない。
「これから先も? ずっとそう?」
「……ごめん」
私はうつむいたまま呟いた。
ごめん。
ごめんね、拓海くん。
心の中で何度も何度も繰り返していると、頭に手が置かれた。
「あのさ。澪にそんな顔させたいわけないだろーが。
もういいから、顔あげろよ」
見上げた先に、「仕方ないな」といった呆れた目があった。
だけど拓海くんの顔が優しいから、私は泣いてしまいそうになる。
「そりゃ俺を好きになってほしいけど、こればっかりはどうしようもねーって、俺だってわかってるよ。
もう困らすようなこと言わねーから、そんな顔すんな」
拓海くんはぽんぽんと頭を撫でてくれる。
「ごめ……ごめんね拓海く……」
「だからもう謝るな! わかったから!」
私の涙声をかき消すように、拓海くんが私の頭をぐしゃぐしゃにする。
「もう行こうぜ!コンビニ寄らなきゃいけないし。
ったく、母さんはいつも人づかいが荒いんだよ」
拓海くんは椅子から立ち上がり、私を促した。
「ほら、澪も早く。
ってか、絶対泣くなよ。
俺は澪を泣かせたくないんだよ」
怒ったように言う拓海くんに、私は鼻をすすりながら頷いた。
「ありがとう、拓海くん」
「おー。澪、絶対後悔するからな」
そう言った拓海くんに、私は小さく笑い返した。
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