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萩原なちち
「何ニヤニヤしてんの? 朝から気持ち悪いんやけど」
会社の受付。背筋をピンと伸ばし、完璧な営業スマイルでお客様を迎える「会社の顔」、カレンちゃん。
俺の良き相談相手であり、親友でもある彼女が、俺の顔を見るなり毒を吐いた。
「だってぇ、いつきくんとやっと付き合えたんだよ? こんな顔にもなるよぉ」
「はいはい、ご馳走様。散々私を『女避け』に便利使いしといて、自分だけ幸せになるとか。どうせ今日の約束も『いつきくんと会いたいから無しにしてぇ』とか甘えてくるんでしょ?」
「……バレたか。でもカレンちゃんは俺の良き理解者で、親友でしょ?」
「ほんまに……。りゅうせいくんは都合ええんやから。課長との仲、壊したろか?」
カレンちゃんがジロリと睨んでくるが、俺は余裕の笑みで返した。
「俺、いつきくんのこと信頼してるから、全然大丈夫だけどね?」
だって、あの人は俺のことをずっと好きでいてくれたのに、奥さんと子供のことにしっかりケジメをつけてから気持ちを伝えてくれたんだ。そんな誠実な人が、簡単に裏切るわけないじゃん。
「あ、おはようございます。芳本課長」
「おはよう。……朝から二人、仲が良いね」
背後から聞き慣れた、愛おしい声がした。
いつきくんが、少しだけ目を細めて俺たちを見ている。
「……おかげさまで。公私共に仲良くさせていただいております」
「……そう。じゃあ、仕事頑張ってね。りゅうせい、先行ってるよ」
「……うん」
目先にはいつきくんとカレンちゃんがニコォッ、と二人で笑い合っている。けれど、その目は全然笑っていない。
……マジで怖いんだけど。嫉妬全開じゃん
いつきくんに小さく手を振り返し、去り際の彼を見送ってから、俺はカレンちゃんににこっそり本題を切り出した。
「あのさ、例の『あの人』のことなんだけど」
「……だいきさんが、何ですか?」
「……やっぱり、そうだったよ」
「……よぉっし!!」
カウンターの中で、カレンちゃんが特大のガッツポーズを決めた。勢い余って拳をカウンターにぶつけたらしく、「ゴンッ」と鈍い音が響く。
「……大丈夫?それに嬉しすぎて声低くなってたよ?」
「……っ、コホン。失礼いたしました」
焦って咳払いする彼女が面白くて、ついクスクス笑ってしまう。
「あと、関西弁出てるから。今日もイントネーション気をつけてね?」
「……かしこまりました」
カレンちゃんが丁寧にお辞儀をした直後、後ろをだいきくんといっちゃんが軽く挨拶をしながら通り過ぎていった。
いっちゃんはちゃんと目を見て笑ってたけど、だいきくんってば本当に男の人にしか興味ないんだから。
「二人ともちょっと待ってぇ! じゃあね、カレンちゃん」
軽く手を振ると、彼女はすでに完璧な「受付嬢プロモード」に切り替わり、深々とお辞儀で返してきた。
「りゅうせい、あんまりカレンちゃんと仲良くしすぎると、いつきくんがヤキモチ妬くよ?」
追いつくといっちゃんが、ニヤニヤしながら揶揄ってくる。
「秋祭りの前に二人を見かけた時だって、ねぇ?」
「そう! あの人、ヤキモチ焼くとき唇噛むんだよ」
だいきくんといっちゃんが、キャッキャとはしゃいでいる。
そっか。告白してくれるずっと前から、いつきくんは俺のことをそんな風に想ってくれていたんだ。改めて突きつけられるその事実に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「あ! それよりだいきくん。カレンちゃんと『初詣一緒に行こうか』って話してたんですけど、どうですか?」
「はい! 俺!! 俺も行きたい!!」
いっちゃんが食い気味に乗ってきた。普段は「女の子に興味ありません」みたいなすんっとした顔してるくせに、こういう時だけグイグイくる。
「いっちゃんはダメ。彼女いるんでしょ?」
「はぁ? 下心ないのに、男も女も関係ねーだろ」
なんでちょっと逆ギレしてんの。絶対あわよくばって思ってるでしょ、それ。
……まぁいいや。いっちゃんはいつも「俺も俺も星人」だし、ここは信じてあげよう。
「わかった。じゃあ、いっちゃんと……もちろん、いつきくんも同伴です。どうします?」
ごめん、いつきくん。勝手に名前を出しちゃった。
だいきくんは、まだいつきくんのことを諦めきれていない部分があるけれど、俺とカレンちゃんが仲良しなのも知っているから、親友としての優しさを見せてくれている。
「しゃあねーな。いつきくんが独りぼっちにならないよう、ついていってやりますか」
よし、セーフ!
カレンちゃん、約束取り付けたよ!
「……え、俺、正月は田舎に帰るよ?」
「ええっ、そんなの聞いてない!」
「だって、まだ言ってないもん」
だいきくんについた嘘を現実にするべく、昼休みにこっそりいつきくんを呼び出したものの、作戦はあえなく失敗。
「……じゃあ、俺、いつきくんとしばらく会えないじゃん!」
「そんな顔しないでよ。りゅうせいの実家ってどこ?」
「……近いけど」
「じゃあ、正月じゃなくても親に会えるんだな」
「そうですけどぉ……」
寂しすぎて泣きそうになる。昨日今日付き合い始めたばかりで、全てを把握しているわけじゃないのは分かっている。でも、やっぱり一緒にいたかった。
すると、いつきくんが少し決まり悪そうに視線を逸らした。
「……一緒にくる? 田舎だから結構遠いんだけど」
「え……?」
「いや、もしりゅうせいが良ければ、だよ? 急に親に紹介とか、重いって思うなら全然いいんだけど……」
えっ、紹介? もうそこまで行っちゃっていいの!?
というか、何その顔! いつきくん、めちゃくちゃ照れてるじゃん。耳の先まで真っ赤だし!
「……さっき『まだ言ってない』って言ってたの、もしかして誘おうとしてくれてましたぁ?」
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