Voice 4
アリス・ムーアは頭を抱えて考えた。こうなってしまったのは、最初の一通の便箋からだった。遠い国から次々と求婚者がやってきた。
五人の男たち。そのどちらが先だったのかはわからない。
アリスが見る限り、皆お金に困っているが、若くてハンサムで将来有望な人たちだった。その誰かから便箋が来た。きっと、滅多に行かない社交パーティーでアリスを知ったのだろう。知らない男だが五人とも、アリスが社交辞令で「隣国にはとても興味があります。病弱だし静養にも丁度良く。是非、行ってみたい。暮らしてみたいです」というようなことを言ったのが、これだけ大きくなったようだ。便箋には確か「こっちへおいで」のような文章だった。隣国は南に位置していて、ホワイト・シティとは真逆の常夏の国だ。
病弱だからか、この広大な屋敷で二人だけで暮らしているからか。家族や親族は冗談でもなく誰もいないのだ。皆、血筋で身体が弱かった。
溜息を吐いて、シンシンと降る窓からの雪景色をアリスは見つめた。無音に降る雪で心を落ち着かせようとした。だが、アリスは誰が最初だったかを、思い出そうとはしなかった。
その時。ふと、アリスは部屋の片隅の花瓶にモートの面影を見い出した。それは、モートの顔のようで、こちらを心配そうに見つめている感じがした。
アリスは何気なく「心配しないで」と、無意識に花瓶に向かって優しくウインクをしていた。
だが、モートの面影はいきなり一人の男に飛び掛かった。
突然の出来事だった。モートがヘイグランドという五人の男たちの中にいた。一人の右手を締め上げていたのだ。
アリスは驚きのあまり酷く混乱し眩暈がした。その場で卒倒しそうな状態の中で、モートは外へ男を静かに連れ出そうとしている。アリスはそれが何故かヘイグランドにとって危機的状況だと感じ真っ青になった
けれども、アリスはその場面が一斉に崩れ出すことを言うことにした。
「ごめんなさいね……この人が、私の恋人なの……」
ニッコリと微笑んだアリスはモートの左腕を強い力で引き寄せた……。
アリスは掴んだモートの左腕を決して離さないことにして、微笑んでは、モートの左手を頬に摺り寄せた。
(そうですよね。こんな不思議な人なら私の人生を救ってくれるかもしれない。今まで独りで暮らしていたけれども、もう男たちに言い寄られるのはまっぴらなのよ。お金はあるわ。でも、それだけじゃない。モートなら何でも知っていそうだし、いつも助けてくれそうだし。……顔もいいし……。)
アリスは遠い国からの犯罪が年々、ここホワイト・シティに流れ込んでいることも知っていた。実際、藁にも縋る気持ちだった。この街で一番に狙われやすいんじゃないかと思った日も……何度もある。
だからアリスはモートに靡いた。
相手が何ものかはさっぱりわからない。けれども、これだけは言える。モートはとても良い人だ。と……。
Voice 5
モートは考えた。こうすることで、アリスは犯罪に巻き込まれることもなくなるだろう。
後の4人の男たちは、真っ青な顔で仰天していて、黒い服のモートを見つめていた。何かの手品か魔術師とでも思っているのかも知れない。
モートは、髪の毛が真っ白になりそうなほど青ざめた顔のヘイグランドの手を放した。ポリポリと鼻を掻く。この男の魂は黒。
だが、何が起きているのかさっぱりわからないところがあった。考えてもわからない。アリスは何を言っているのだろう? 恋人って誰と誰がだ?
モートは途方に暮れ、窓の外の雪を眺めた。自分の盲目の人生は、更に暗く静かな無音な道になりそうだった。だが、一筋の光。モート自身もわからない光が自分の空の心を照らしていた。ただ、この場にいることが、不思議な気持ちにさせていた。
翌日。
朝日が久しぶりに昇ったホワイト・シティで、モートはアリスと共に大学へと登校していた。アリスの屋敷からノブレス・オブリージュ美術館はかなり遠い。だが、聖パッセンジャーピジョン大学はクリフタウンにあるので、ヒルズタウンからは更に数十ブロックもあって、もっと遠かった。
そのため、アリスは少しだけ早起きして、ノブレス・オブリージュ美術館行きの路面バスへと乗ったようだ。
あの夜は、モートをアリスは手品師だと言って、見事に5人を煙に巻いた。
5人とも突然に現れた不可思議な男のモートを恐れてもいたが、何も言わずに遠い国へと帰って行った。
その日は、まったく収穫のない日だった。
モートは毒薬を密かに捨て、黒い魂である罪人を狩ることをしなかった。モート自身、自然に自分が変わっていることが信じられなかった。
狩らない日は、今までまったくと言っていいほどなかったのだ。
帰り際にヘイグランドは改心し、借金返済後は新しい事業を立ち上げ真面目に働くんだと言いだしていた。
「ねえ、モート。いつもノブレス・オブリージュ美術館にいるようだけど、あそこに住んでるの?」
「……」
「ねえ、モート。ヘレンさんがあなたのお母様?」
「……」
「あら? モート。聖パッセンジャーピジョン大学に白鳩の群れが飛んでいったわ」
「……」
「モートのお父様って、どんな人?」
「……」
アリスの今日はとても機嫌が良かったようで、モートはアリスの声全てに耳を傾けていた。
自分の何が変わったのだろう。今のモートには永遠にわからないことだった。ただ、アリスの声が大好きな音楽や音よりも自分にとって大切で親近感の湧くものだった。
これからの狩りは、モートだけの狩りではなくなった。二人での狩りだ。そんな思考がモートの頭を占めだした。
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