テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#大人ロマンス
煉彩
235
#セックスレス
深冬芽以
1,050
さぶれ-SABURE-
641
#相談女
澪
218
数コールの後、いつもの落ち着いた声が電話越しに聞こえた。
『もしもし、涼二? 珍しいねこんな時間に。どうしたの?』
天魔の声だ。
少しだけトーンを下げた、柔らかくも芯のある声。私がボイスチェンジャーで変えている、あの、いつもの声。
でも、今日は本物の天魔の声。
実は帰ってくる前に、エンビルによって借りているスマートフォンを一時的に預けてきた。義母の性格考えたら、今日、アポなしで家に来ると思ったし、ぜったい『相手に電話しろ』って言うと思った。案の定だわ。
夫の行動も、義母の行動も、手に取るようにわかってしまう。それだけ近い存在なのに、皮肉なものだ。
「あなたなの!?、SNSで涼二をたきつけて脚本家になったらいいなんて、無責任なことを言ったのは!」
義母がスマホに向かって声を張った。
『あ、はい。そうですが……涼二、この方は?』
「ごめん。僕の母さんなんだ」
『どうしてお母さんがボクに連絡を?』
一通りの流れは説明しているけれど、さすが天魔。秋也になりきってくれている。
今までのメッセージや会話を共有した甲斐がある。プロのプライベートアクターのすごさを体感した。
「あなたのせいでうちの息子が、脚本家になりたいなんて言い出してるの! 家庭も仕事もある男が、そんな夢みたいなこと言っていいと思ってるの!? たきつけないでちょうだい!!」
怒気を孕んだ声だったが、電話越しの天魔はまったく揺るがなかった。
『仰る通りです。家庭を持つ人間として、生活基盤をおろそかにすることは決して許されません。ただ、脚本家を目指すことが必ずしも悪いと思いません』
「詭弁(きべん)ね。あなたに涼二のなにがわかるの? 無責任なことを言わないで欲しいわ!!」
『無責任に煽ったつもりはありません。涼二さんが描いた物語を、世に伝えたいと思ったのです。彼の才能を埋もれさせるには惜しいのです』
「だから脚本家になれるとでも思ったの? 短絡的すぎよ!」
スピーカーにしているから、天魔とのやり取りがぜんぶ聞こえている。涼二はただオロオロするだけ。ほんと、いつもこうやって義母にやり込められている時、助けてくれなかった。
秋也に対してもそうなんだ。腹の立つ男!
これだけ言われているんだから、少しくらい庇いなさいよ!
自分が言われるより腹が立った。
『実は……映画監督の中原秋也が、僕の叔父なんです。コネで成功したと言われるのが嫌で、叔父の力は借りずに脚本家を目指して頑張っています。もちろん厳しい世界なので、成功するのは一握りです。でも、なれるかどうかは彼自身の努力次第だと思います。最初からなれないと否定し、挑戦する権利を潰されてしまうのは、悲しいことだと思いませんか?』
その言葉を聞いた義母の口撃が止まった。天魔は弁の立つから、義母でも反論できないみたい。
「中原、秋也……?」
義母が一瞬、口元を覆った。
「まさか……映画だけじゃなくて、小説も随筆も書いてる……あの……?」
『はい、そうです。ボクは彼の作る世界を子供の頃からそばで見てきました。決して甘い世界ではないことは承知の上です』
中原秋也の名前を聞いて、彼女の空気が変わった。急にそわそわし始める。
『でも……ご家族に心配をかけてしまったのは、僕の配慮不足でした。深くお詫びいたします。でも、涼二さんとは叔父の作品の話で盛り上がり、夢を語り合い、とても楽しい時間を過ごせました。ボクにとてもよくしてくださり、アドバイスもたくさんいただきました。今後、涼二さんへの連絡は控えようと思います』
その優しい口調が義母の心に刺さったらしい。電話越しに彼女が慌て始める。「ちょ、ちょっと待ってちょうだい! 事情を知らずに言いすぎてごめんなさい。あの……」
『はい?』
「私、中原先生の『灯る声』の小説、持ってます!! 感動して、大好きで……何度読み返したことか……! まさかご親族の方とお話できるなんて、夢のようだわ!」
感動で声が震えている。
なるほどねー。涼二が中原秋也を好きなのって、お義母さんの影響だったんだ。
だからこそ元の涼二はオタク気質で、本好きの青年だった。中原監督の本を読み、自ら物語を書くのが好きで、母親の言うことは絶対主義の家で育ったのが、彼だから。
『恐縮です。叔父も喜びます。機会があれば、涼二さんの脚本を見せようと思っています。彼、才能ありますから』
「ほんとうに……うちの涼二は、才能あるの……?」
義母が期待を込めた息を吐いた。
「ええ。磨けば光る、ダイヤの原石だと思っています。叔父ではありませんが、自主映画を中心に作っている知り合いの監督に涼二さんのことを話したら、ぜひ紹介して欲しいと頼まれました。取り次いでもよろしいですか?」
「もちろんよ!」
義母、堕ちた。
簡単に信じちゃって。単純ね。涼二にそっくりだわ。
それにしても天魔ったら、創作ストーリー作るのうますぎる。しかも叔父とか設定が神じゃない?
息子とかだと調べられたらわかってしまうかもしれないけれど、叔父ならどこの筋とかわからないもの。遠縁で通しても問題ない立ち位置。
義母の喜びようが半端ない。その姿を見て、笑いそうになった。
「あの、秋也さん。もし良ければ、今度ぜひ家に遊びにいらしてください!」
あれだけ怒ってたのに、中原秋也の甥(嘘だけど)とわかった瞬間にこの態度?
変化が面白すぎる。心の中のメモ帳にメモリーした。
『機会があれば、ぜひ。その際はまた、ご連絡させていただきます』
天魔の方から電話が切られた。
このピンチを逆にこちらの有利なように進めてしまう手腕……さすがだわ。
コメント
1件
天魔の機転がすごすぎて鳥肌立ちました!!😳✨ 「中原秋也の甥」設定、神すぎるでしょ…それで義母さんがコロッと態度変えるの、ちょっと笑ったけどリアルだな〜。 あと涼二が全然妻を守らないとこ、こっちがモヤモヤした!でもそこで自分より腹が立つ主人公の心情、めっちゃ共感できたよ…。 ますます続きが気になる展開、ありがとうございます🌸🔥