鈴子は伊藤ホールディングスの(CEO)増田剛と仕事をするのが楽しかった、今や増田は48歳で鈴子より8歳年上である、何年来のつき合いを経て、二人はいい友人同士になっていた
鈴子は、彼の伊藤ホールディングスへの忠誠心を高く買っていた、増田は結婚していなかった、いろいろ魅力的なガールフレンドとのつき合いはあると噂には聞いていたが、次第に増田は鈴子に惹かれるようになっていた
一度ならず増田は、自分の気持ちをそれとなく鈴子にほのめかしたことがあったが、彼女は二人の関係を仕事上の良い関係に留めておく方を選んで、個人的なつき合いは拒んだ
しかし、たった一度だけ、鈴子はそのパターンを破ったことがあった
ある夏、増田が特定の女性に入れ込むようになったのは周りから見ても一目瞭然だった、噂では北新地の高級クラブの絶世の美女に増田が恋をしたということだった
増田は毎晩のように遅くまでその女性とデートを重ね、朝の会議に出てきた時は疲れきっていて、心ここにあらずというほど気が散っていた
鈴子は片眉を上げて増田をしばらく観察していたが、ひと月が過ぎた頃、増田の行動は目に余る様になっていた
男は「見栄」の生き物だ、惚れた女性に良い所を見せようと、会社を辞めて独立されては困る、なにせ彼は自社の保有株を40%を持ち合わせている存在だ
そして増田の夜遊びが会社の影響の限界を超えた頃、とうとう、鈴子は手を打たねばなるまいと決心した
「あなた・・・どうか私を見守っていてね・・・」
鈴子は定正の写真にそっと話しかけた







