テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「柚って男いたんだ」
「…………一応、半年ほど前まで……」
「へぇ、心配になるくらい男慣れしてないのに、航平だけじゃなかったか。……まぁ、そりゃそうか」
「え?」
今、二人を同時に想っているわけではないのだが。
思わず言い返したくなるけれど、それよりも今は優陽に抱きしめられているこの状態をなんとかしたい。
もぞもぞと柚が動くと、その必要はなかったようで、優陽は腕の力を抜き、柚と距離をとった。
しかし手首はキツく掴まれたまま、やはりどこか怒りを含んだかのような視線が柚を射抜いている。
「柚、一緒に帰ろっか、うちに」
しかし身構えた柚に聞こえてきたのは、予想もしない言葉だった。
「………………はい?」
「とりあえず今日明日必要なものだけ持って来れる?」
「え? いや、なんの話ですか?」
出会ってからずっとひたすら理解の追いつかない人だけれど、今日はこれまでで最も理解できない。
「こんなところにいて、あのクズがまた来たらどうするの。ちょっと脅したけどあんなもんじゃ確かじゃないだろ」
「クズ……」
とは、久世のことなのだろう。
「気づいてる? 君、あんなに怯えて。どんな付き合いしてたらああなるの」
「……いえ、あぁ、はい……どんなというか、私が勘違いしてたでけのようで。そもそも付き合ってなんてなかった? ようで」
何を言わされているんだろうと思う柚の前で「は?」と、眉を寄せた優陽。
「何それ」
「……色々あって、彼女にした覚えはないと……言われて」
「勘違いしたってことは、やることやってたんだろ? は? てかじゃあなんで柚の家の前にわざわざ来てんの? 連絡取ってた?」
「いいえ、引越し先も伝えていません」
柚がそう答えると、優陽は今度こそ柚から離れ、車のシートに深く身体を預けた。
「は、うっざ。手つけた女はずっと自分のもんって? なんで柚がそんな都合いい女にされてんの」
前を見たまま、吐き捨てた。
「うざいって……」
「ああ、柚じゃないよ。まぁ、とりあえずさ荷物ちょっとだけ準備してきてよ。こっちで用意したいとこだけどさ、今からじゃ買いにも行けないし」
穏やかさを取り戻したかのようなトーンで話しているけれど、なぜだか全く穏やかではなさそうで。
優陽はわかっているのか? 言ってることがめちゃくちゃだと。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!