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「助けていただいたのは感謝してます。でも、優陽さんのお宅へお邪魔するのは違うと思います。その理由も権利も私にはありませんし……それに、あんなことしてしまって久世さんに優陽さんだってことが知られたら、お仕事に支障出ません? だから……」
やはり必要以上に関わるのはやはり違う気がする。あんなものは色恋沙汰のスキャンダルとはわけが違う。そもそもなぜ、あなたがそんなに私のために怒りを持つのか? そう続けようとした柚の声を優陽が遮った。
「俺の仕事? はは……あー、そっか。まあ、気にしてくれるんならとりあえず今は言うこと聞いてよ」
「だから……」
「じゃなきゃ、心配であの男今度こそ絞め殺すかも。その方がまずくない?」
こちらを見ないまま優陽は、続ける。
「ね。俺さ、今、柚のこと力づくで連れて行けるんだけどさ。あの男のあとに、そーゆうのあんまりしたくないから」
その言葉を最後に、車を出た優陽が助手席側にまわりドアを開けた。まるでこれ以上柚の意見は必要ないとでもいうように。
見上げる柚へ、ニコリと笑みを作り、腕を軽く引っ張り上げて車外に出した。
「部屋の前までついていくから。早く用意しよっか」
脳裏には久世の首を締め上げていた優陽の背中が思い出されてしまう。
「ど、うして……私なんかに、そんな」
この人は、何? そんな疑問がふと浮かぶ。
森優陽という人気歌手で、柚のバイト先の店長である航平の友人で、そして?
「そんな、怯えたような顔しないでよ。今、俺柚には優しいでしょ」
「怯えてなんか……」
怯えているのか?
わからない。
わからないから、恐ろしい。
「どうしてってさ、そんなの」
何を疑問に思ったのか、不思議そうに瞬きをして首をかしげる仕草。そんな優陽の指が、柚の頬を、つーっと辿るように撫でる。
「君のこと、好きだから」
「………………っ」
その指は優しいけれど。
「好きで好きで好きで、ははっ。いっそ憎たらしいなぁって」
不穏な好意を示す言葉。口元だけが笑みを作るためだけに動く。
「それ、は…………ただの、フリで」
「ああ、そっか。そうだったよね、ごめん」
「ごめん……って」
何に対しての? そんな問いかけは声にならず、もたろん答えだって返ってはこない。
「ほらほら。俺今結構気が短くなってる気がするから、ね?」
言いながら柚の背を、まるで有無を言わせない優陽の手がアパートの部屋の前へと急かすように押した。