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「おい、鈴木。ちょっとついて来てくれよ」
そう言って放課後に俺を呼び付けたのは、切継愛に狂信的な熱を上げるクラスメイト。羽田家大志だった。
「鈴木って確か魔法少女アイドル、嫌いだったよな?」
「あぁ……」
人気のない文化棟の渡り廊下まで大人しくついて行ったのには訳がある。
大志は俺に無理矢理アイドル教に改宗しろって、押しつけ説教をしてくるはずだ。
それならそれでいい。堂々と突っぱねて、魔法少女アイドルが如何に醜いかを証明してやる所存だ。
「だったら丁度いい。俺に協力してくれよ、鈴木ぃ」
「は?」
こいつは何を?
魔法少女アイドル嫌いの俺に、明日の切継愛が敢行するアンチ・ライブの応援を一緒にしてくれとでも言うのか?
会話が全く噛み合っていないぞ。
「やっとわかったんだよ……魔法少女アイドルには希望がないって……」
しかし、大志の口から出た言葉は俺の予想を裏切る内容だった。
ついにこいつも正気に戻ってこれたのか!
って大志くん、ちょっと顔が近すぎるぞ。
「いくら応援したところで彼女には届かない……この思いが成就する事はない……絶望しかないんだ」
おいおい、愛がこじれてないか?
大志から伝わる切継への並々ならぬ感情が、俺の腰をちょっとだけ引かす。
誰もいない渡り廊下で二人きり、ジリジリとにじり寄って来るクラスメイトに対して後退するのは仕方ない事だろう。
「俺は復讐がしたいんだ」
んん……復讐?
って、ここで壁ドン!?
俺より10センチ以上も身長の高い、大志の大きな身体が密着せんばかりに追いこんでくる。まるで逃げ場をなくすかのように。
「あのアバズレ、どんなに全力で応援しても俺の気持ちに応えようともしない! おまけにみんなに笑顔をふりまくビッチだ!」
お、ようやくこいつも真理に辿り着いたようだな。アイドルなんてのは他人に夢を見させるだけ見させておいて、顔色一つ変えずに奈落の絶望へと叩き落とす性悪女集団なんだ。
そして切継愛個人にダメ出しをするとしたら、彼女のファッションが気に入らない。あいつは何故かいつも片目に眼帯をつけている。私の右目には何かありますよー的な、痛さを醸し出すコテコテ過ぎなファッションセンスが本当に勘に障るのだ。高校生になってまで何を主張したいんだコイツは、と何度突っ込んでやろうか迷ったほどだ。
「復讐してやるんだ……」
しかし復讐って、ちょっと穏やかじゃないな。
それと大志。近いし息がふりかかるから、この体勢で話すのはやめにしないか?
「だから明日! 明日、みんなの切継愛を! 俺だけの物にしてやる!」
うん……?
ここで俺は大志にしては様子がおかしいと気付く。
こいつは切継愛のアイドル活動を誰よりも応援していた。しかも、その範疇は見事なトップファンの在り方であり、自らの推しを穢す様な行いをする奴じゃない。つまり大志は常識的で、ファンの模範のような男だ。決してストーカーではなかった。
こいつの人柄は温厚で優しく、名字が羽田家と相まって『ほとけ』と呼ばれる事もしばしば。
そんな体格もでかければ度量も広い『ほとけ』様が、こうも過激な発言をするのはらしくない。
「ちょ、お前、何言ってんの? 切継に何かされたのか?」
俺が持っている切継愛に関する情報は少ない。なにせ俺は魔法少女アイドルというやつを目に入れるだけでも嫌悪感がふつふつと湧いてしまう。だからこそ、なるべくあいつが学校に来た時は、周囲がお祭り騒ぎの中でひたすら彼女を視野に入れないように努めていた。
しかしクラスメイトだから、嫌でも切継の行動は目に入る時もある。
概ね彼女は無口な傾向にあり、クラスメイトに騒がれてもクールそのものな塩対応であった気がする。アイドル活動中はどうだか知らないが、お高く止まった奴だなというのが俺の印象だ。
クラスの男子どもは『そこがいい!』だの『攻められたい!』だのと、M男発言が絶えないのだから困ったものだ。
困ったと言えば、今のこの状況もかなり困ったものだ。
「あいつはっ! あいつはッッ!」
「大志……落ち着けって、ちょっと離れてくれよ」
しかしコイツは一向に俺から距離を取ろうとせず、むしろ顔と顔がくっつきそうな程まで接近してくる。そしてそのまま早口でまくし立て始めた。
「俺んち獣医やっててさ、動物保護のために使う麻酔銃とかもあるわけ。それを明日こっそり持ち出して、薬局で売ってる睡眠薬と麻酔薬をうまく調合する。自作の睡眠薬を麻酔銃の規格に合わせて愛ちゃんを狙って投与すれば、あとは眠っている愛ちゃんに俺だけの愛ちゃんになってもらうって寸法だ」
やばい事を言い出す大志に唖然としてしまう。
いや、それはさすがに犯罪じゃ……いくら何でも本気でするはずないだろう。そう思いたかったが、鼻息荒く語る大志の目は据わっていた。
正気なのか?
大志は切継愛を昏睡させた後、一体何をしようとしてるんだ?
そんな疑問の答えは、大志の欲望に塗れた汚い笑みが十分に物語っていた。
「だからさ協力してくれよ。明日のライヴ終わりに、ちょっと人気のない所に愛ちゃんを呼び出すだけでいいんだ。な? あとは俺が撃つだけだからさ?」
「おい……お前、ガチかよ……」
温厚なクラスメイトの豹変に俺は後ずさる。
背筋から這い上がって来るゾクゾクとした恐怖に耐え、何とか平静を保って説得を試みようとした。
だって下らない魔法少女アイドルへの欲望なんかのために、大志が犯罪者になるなんてもったいないだろ。
「いや、それは犯罪だろ?」
「だからなんだ? フヘへッ、殴って脅してやれば愛ちゃんも口をつぐむだろうし、何も問題ないさ」
明らかに人としておかしい発言に俺は焦る。
「なぁ、協力してくれるよな? 鈴木ぃ?」
壁ドンどころか胸倉を掴まれた。普段では決してありえない不穏な態度を醸し出す大志に、さすがにビクついてしまう。大志の体格からして殴り合いにでもなれば、俺はタダでは済まない。
困惑と動揺が脳裏を埋めつくし、目の前にいるクラスメイトがクラスメイトでなくなってしまったかのような錯覚が本格的に芽生えた、その時。
「むぅ、この校舎に足を運ぶのは久しぶりじゃのぉ……」
「でました。お姉ちゃんの大人ぶるターン。こんな学校に一度たりとも来た事ないですよね?」
場違いな程に陽気な声が二つ、響き渡った。
それはひどく幼く、けれど妙に耳に残る澄み切った声だ。
「キャラ作りは売れっ子アイドルになるために重要なのじゃろう? これはノジャラリっていうのじゃぞ?」
「お姉ちゃん、ラリっちゃダメです。ロリですよ? 馬鹿なんですか?」
そんな他愛のない話を繰り広げながら、渡り廊下の向こうから唐突に姿を現したのは二人の幼女だった。
一目で小学生中学年あたりだと判断できる小さな身長。
純金の如き輝きを放つツインテールをゆらゆら揺らし、互いの顔を見合いながら蒼玉の瞳を楽しそうに細めている。
その北欧系の血が混じった優れた容姿だけでもだいぶ目を惹く。しかし、それだけでは飽き足らず、彼女達の服装は奇抜なものだった。
赤と黒を基調とし、ふんだんなフリルがあしらわれたガッチガチのゴシックロリィタ服なのだ。
高校という空間に、異質すぎる二人。
それらを目の前に一瞬だけ思考回路が停止してしまう。
「姉は敬うものじゃぞ?」
「数秒早く生まれただけですよね?」
金髪碧眼の美少女たちは何食わぬ顔で、いるはずのない空間を極々自然体で歩み寄って来る。
なぜここまで目が離せないのかと言えば、彼女たちの愛くるしい美貌に魅入られているというよりは、その特異性に驚愕してしまったからだ。
彼女たちの顔が瓜二つなのだ。
双子なのだろうか? なんでここに小学生が? と疑問を抱かずにはいられない。
「今日はお仕事試験なのですから、真面目にしてくださいね?」
「わかっておる……しかし『予行演習』とは面倒じゃな」
「それは仕方ないですよ。だって私達、まだアイドル序列3100番台ですもん」
「地道にコツコツじゃのぅ」
うん? 今アイドル序列って言ったか?
じゃあ、目の前にいる双子は魔法少女アイドルって事か?
もし彼女たちがアイドルであるならば、どうしてこんな所に?
「地道にコツコツ死体を回収しましょー」
「うむ。地味にコツコツ殺していくしかないのぅ」
死体? 殺す?
アイドルの口から出てはいけない単語に驚きの連続だ。
「ところでお姉ちゃん。リストに載ってた【中二病】の【患者】を確認しました、オーバー?」
「では待機しておる自衛隊に処分連絡じゃのぅ、オーバー」
俺と大志は次々と喋り続ける少女達に呆然としていたが、彼女たちはこちらの様子を微塵たりとも気にしてない。
そしてよくよく彼女たちを観察すれば、片方の耳にイヤフォンを装着し、口元には小型のマイクが添えられていた。いわゆるインカムというやつだ。
「『序列識別No.3107』および『3108』、処分対象【患者】を視認。繰り返す、処分対象【患者】を視認。応答を願う」
インカムに対し、双子の妹と思しき少女が喋り出す。
その声音は先程の明るいものから一変して、ひどく無機質でのっぺりとしていた。まるで何の感情も持ち得ていないような淡々とした声、それに加えて幼い少女の豹変ぶりにゾクリとしてしまう。
「誤認率0%、『No.3107』『3108』共に了解――――【殺処分】の許可を」
ここに来て謎の闖入者に耐えられなかったのか、ついに大志が動いた。
「君ら何なの? ここは高等部で、うちの学校には中等部までしかないから小学生の来るところじゃないぞ?」
謎の双子妹がどこかに通信しているのを遮るように大志が絡む。
「軍隊ごっこならココでするもんじゃない。君たちみたいな可愛い子がこんな所にいたら、何をされるかわかったもんじゃないしなぁ。ふへへッ」
おい、大志。
その言いようだとお前、ロリコンに聞こえるぞ。
「対象【患者】の【殺処分】許可――拝了しました――」
「羽田家大志、ぬしは16歳。身長186cm、体重92キロ、血液型はB型じゃな。好きなアイドルは切継愛だの? さてさて、ぬしは無駄口を叩かなくてよい」
「貴方はここで私たちに処分されるか、私たちに連行されて殺されるか、選択してください」
この子たちは何をトチ狂った発言をしているのか。
それは様子のおかしい大志も同感だったようで、ポカンと口を開けて双子を見つめる。
だがそれも数瞬の事で、大志はすぐさま奴らしからぬ下卑た笑みを顔面に張り付けた。
「おい、小学生。意味不明なこと言ってると悪戯しちゃうぞ? お兄さんをからかうとヤッちゃうぞ? いいのかな?」
「……大志。さすがに小学生相手に何かする気じゃないよな? やめておけって」
あまりにも不気味な対応をする大志に制止をかけるが、こいつは俺の方を向こうとすらしない。
「ヘンタイは死ねばいいんです」
キリッと大志に言い切る怖いもの知らずの幼女。
「まだヘンタイじゃなかろうて」
それに制止をかけるように、双子の片割れが諌める。
そうだ。
大志の態度はアレかもしれないが、まだ行為には及んでいない。
クラスメイトとして、様子のおかしい大志を何としても止めなければ。
「潜在的に【変体】であれば、それは確定的な【変体】です。私達が殺処分するのみです」
「ううむ……否定はせんがなぁ……」
「誰が変態だ! 急に現れて頭のおかしい内容をしゃべってるお前らの方がキチガイだろう! ちょっとお兄さんがお灸をすえてやる」
そう言って一歩前に踏み出した大志は、明らかに暴力宣言を下した。
少女二人と大志の体格差は圧倒的だ。もし本気で大志が暴力をふるって、例えば頭部などに拳がクリーンヒットでもしたら死に至るかもしれない。
「大志! お前やっぱおかしいって! こんな子供にムキになるなって! 落ち付けって!」
「うるさい! 鈴木は愛ちゃんを強姦する手伝いをすればいいんだよ!」
ごう、かん……って、お前、本気なのか?
友達の口から信じられない単語が、懸念通りの単語が飛び出してきた事に衝撃を受ける。
そんな精神も身体もよろけた俺を、状況は待ってくれない。
大志が二歩目を踏み出し、その太い剛腕を上から下に叩きつけるように幼い少女へと振り下ろした。
ちょっとおかしな美少女たちの顔から血が流れる、そんな未来の光景を想像して後悔する。俺が身体を張ってでも大志の蛮行を止めないといけなかった。
思うは易し、行うは難き。
既に事態は遅すぎた。
「リハーサルとはいえ、油断するでないぞ」
「はい、お姉ちゃん」
しかしここで俺の予想は裏切られた。
姉妹が短い応酬をしたかと思えば、一瞬だけ双子妹の姿がぶれる。いや、目にもとまらぬ速度で幼女が、大志の大きな拳を小さな手で受け止めていた。
しかも片手でだ。そんな結果は、筋力、体重の差からしてありえない。
「なんだ!? オラッ! オラッ! オラァアア!」
完全にたがが外れてしまったのか、大志も本気で殴りかかっていった。
ここに高校生が小学生女児に暴行するという図式が成り立ってしまったのだが……予想を遥かに上回る事態に、俺は自分の目で捉えた景色を疑ってしまう。
それは金髪ツインテールを優雅に翻しながら、舞踏会で踊るかのように華麗に全ての攻撃を少女がいなしているのだ。時に小さな身体全体をひねり、回転させ、ばくてんからバク宙まで決める始末。
「このッガキがッ!」
なかなかヒットしない拳に業を煮やしたのか、大志は特に大ぶりな一手を繰り出した。しかし、それを待ってましたと言わんばかりに、双子妹が高く跳躍する。
するりと大志の拳をかわし、そして身体を空中で半回転させてからのワンパンチを大志の左頬にぶつけたのだ。
「ぺぎゃッ!?」
同時にグチャガッと何かが飛び散る音が鳴り、大志の身体がありえないぐらいに吹っ飛んだ。その大きな図体が3~4メートルぐらい宙をさまよい、渡廊下の地面にドシャッと倒れ伏す。
小さな女子小学生が、大柄な男子高校生を吹き飛ばす。あまりにも非現実的な光景に目を見張る他ない。
「ヘンタイは死ねばいいんです」
そう言って無表情に、大志の身体を冷たく見下ろす双子妹。
涼しい顔をしてはいるが、彼女の右手は肘から下にかけて血だらけになっており、白い物体が見え隠れしている。
あれは骨か……?
っていうか拳がぐっちゃりと潰れてる? それ程までに大志を殴った反動が大きかったのか? いや、そもそもそんなになってしまう程の被害を彼女が受けているのなら、殴られた大志の方は……。
「ひぃッッッ!?」
双子妹の右腕も十分グロいものだったが、しかしそれ以上に大惨事になっている物体に気付き、俺は思わず腰を抜かしてしまう。
それは赤と茶色にまみれた、人間の頭だった物。
「『リハーサル』、完了じゃのぉ」
「はい、お姉ちゃん」
大志の顔は左顎から鼻までの部分がごっそりと削れており、頭蓋骨が飛び散って何だかよくわからない物が地面に散乱していた。おそらく脳とか血管とか神経なのかもしれないと悟った刹那、胃から込み上げる異常なまでの吐き気に襲われる。
「ッッオェッ」
「しかしリアよ、その腕をどうにかせんとな。一人でできるじゃろうか」
「いくら私がお姉ちゃんより【魔史書】を扱うのが下手だからって、これぐらいは何とかなります」
俺が、恐怖と混乱と嘔吐に悩まされているなか、平然とした様子で少女二人は会話を続けていく。
この二人が次は何をしでかすのか怖くて目が離せない。汚物を吐き出しながらも何とか横目で彼女達を見続ける。
「ではやってみるのじゃ」
「はーいッ!」
元気良く双子妹が返事をすると、彼女は天に手を突き出し高らかに叫んだ。
「私とお姉ちゃんの【魔史書】!」
その姿は神に祈るかのような、呼びかけるような真摯さを帯びた声音だった。先程、一人の人間を殺めた人物だとは思えない程の純真さがある。
幼き少女の願いに応じるように眩い光がほどばしり、次いで彼女の掲げられた手にゆっくりと一冊の分厚い本が落ちる。
「私と一緒に物語を刻みましょう」
淑やかに放たれた文言。それに呼応して本のページがひとりでにパラパラとめくられてゆく。
「読み解くは約束の第一説――――『永遠の美』」
そう言い切れば、双子姉妹のゴシックロリィタ服が煌びやかな光の粒子に包まれる。極彩色に彩られ、誰もが直視できない程の輝きを放ち、彼女たちは幻想論者の変革礼装を果たす。
「魔法女子――『過去の女神ウルズ』――現界」
双子妹が呟き終わる頃には、彼女たちは白のドレスに身を包み目の前に立っていた。全ての意志は無意味と、ただただ思考を真っ白に染め尽くす、純白美少女が顕現していたのだ。
これがそう、魔法少女アイドルの変身。生で見たのは五度目だけれど、何度目にしても……この圧倒的なまでに美しい演出は、美少女だけに許された力だと痛感させられる。
「解き戻して――『永遠の美』」
潰れてひしゃげた血濡れの右腕をそっと双子妹が見つめれば、それはみるみると修復されていく。まるで動画を逆再生しているかのように、綺麗さっぱりに全ての傷が癒えてしまう。
魔法少女はあらゆる事象を超越しうる『病魔性物理法則崩壊因力』、通称『魔法力』という不思議な能力を持っている。
あらゆる物理法則、自然原理を覆し、様々な現象を起こせる特別な存在。それが魔法少女アイドルなのだ。
『魔法力』を彼女たちが行使し、奇跡のような演出でライブを盛り上げるのは当たり前の事だ。
だけど、魔法少女アイドルが人間を殺すなんてのは知らない。世間を含め、魔法少女たちがこんな活動をしているなんて聞いた事もない。
リハーサルってなんだ?
変態を殺す幼女……?
魔法少女はヘンタイを密かに殺している?
そんなバカな……。
「あっお姉ちゃん。そう言えばアレをやるの忘れてました」
「リハーサルじゃし、大目に見てもらえるじゃろう」
「減点されちゃうかもですよ。今からでも遅くはありません」
「うんむ、やるかのう」
これ以上、なにをすると言うのか。
逃げたくても腰が抜けて動けない。必死にこの場を離れたくて、少しでも彼女達から距離を置きたくて、それでも恐怖で縛られた身体はビクともしない。
「今何時ですー?」
唇に人指し指を当てながら、唐突に俺へと時間を尋ねる双子の妹。
「わしオヤ時~」
妹に続き、可愛らしく小首を傾げて自分を指差す双子の姉。
姉妹そろって何とあざとい仕草なのだろうか。しかしそれに対して猛烈なギャップをかます、臭すぎる親父ギャグ。
……二度と忘れられない光景になりそうだ。
「違います! 二児の女児によるッッ惨事のおやつ時間でーっす♪」
「うむうむ、誰もかれもが浮かれて踊って、楽しい一時、大惨事ッ!」
クルっと回ってハイタッチ。ホップステップと決めポーズ。
「あなたの魔法少女アイドル★」
「汝乃ロアと!」
「汝乃リアがッ♪」
「「リハーサルに来たのじゃッ(来ましたっ)!」」
完全なるキラッキラッの笑顔を伴って、超絶キュートにシャイニーなウィンクをかましてくる双子姉妹。
どうやら魔法少女アイドルがファン向けに行う【名乗り】だったようだ。
うん、急展開すぎて色々とついていけない。