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あらすじ
UMI社が発表したARアシスタント「MINAMO」は、
声を出さず、目立たず、日常の動作に溶け込む
“静かな操作”を理念に生まれたデバイスだった。
普通の眼鏡にしか見えない細いフレーム。
視界の端にだけ現れる控えめな情報。
音は骨伝導イヤホンAirWayを通じて、
外界を遮らず、周囲に漏れることもない。
当初は高価な先端機器として、
一部の人々に静かに使われていたMINAMOだが、
転機は突然、しかし穏やかに訪れる。
携帯会社との大量契約による1円販売。
それと同時に解禁された、
近視・乱視・遠視を自動で補正し、
補完視力1.50の世界を再構成する視界機能。
価格と価値が、同じ瞬間に崩れた。
MINAMOは「欲しいもの」から
「持っていないと不便なもの」へ変わり、
AirWayは標準で付属し、
スマートリングは人それぞれが選ぶ形で広がっていく。
高価な店頭モデルを避け、
安価で十分なものを選ぶ人々。
強制されることなく、
気づけば三点が揃ってしまう街の風景。
大学では講義が視界に展開され、
街では無声のテレビ電話が当たり前になり、
YouTubeは音だけで流れ、
動画は“見るもの”から“支えるもの”へ姿を変える。
便利さの中で、
人々は少しずつMINAMOに頼り、
外す理由を失っていく。
大学生の三森りくもまた、
相棒のMINAMOとAirWay、
指先のスマートリングに支えられながら、
整いすぎた視界と静かな生活を
自然なものとして受け入れている。
誰かに命じられたわけではない。
ただ、安くて、便利で、外す理由がなかった。
こうしてMINAMOは、
未来の象徴ではなく、
社会の前提として根付いていく。
見えること。
聞こえること。
触れること。
それらを「選んでいるつもり」で、
本当に選べているのか。
MINAMO社会とは、
静かに整えられた日常の中で、
その問いだけが、消えずに残り続ける世界の物語である。