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yがラグドの家に来たのは、特別な日でも、事件の夜でもなかった。
ただの雨の日だった。
「……んで、泊まっていいのはどんくらい?」
玄関で、yが聞く。
「んー……少し?」
ラグドは曖昧に笑った。
「…..でも家で困ってることがあるなら、何日でもいいよ!」
理由を聞かない。
期限も決めない。
それが、ラグドのやり方だった。
⸻
部屋は狭い。
物は多いが、
統一感はない。
甘いお菓子の袋と、
よく分からないコード類が
同じ机の上に置かれている。
yはそれを見て、
ほんの少しだけ眉をひそめた。
「……整理しないのか」
「え?」
ラグドは振り返る。
「使うからここにあるんだよ!」
「そのうちどれ使うか分からなくなる」
「そしたら全部使えばいいじゃん!」
yは言葉を失う。
理屈じゃない。
でも、破綻もしていない。
⸻
夕飯は簡単なものだった。
ラグドが
鍋にお湯を張りながら言う。
「甘いのあるよ!」
「……またか」
「甘いの食べると元気出るから!」
yは否定しなかった。
⸻
テレビをつけると、
ニュースが流れ始めた。
事故。
軽傷者数名。
死者なし。
yは、画面の隅を見る。
数字。
映像。
時間。
「……違う」
「え?」
「一人、抜けてる」
ラグドは
テレビをじっと見た。
数秒、考えて。
「……ほんとだ!」
yは内心、少し驚く。
気づいている。
ちゃんと。
でも、ラグドは
それ以上言わなかった。
「ま、ニュースも間違えるよね!」
そう言って、
チャンネルを変える。
yは、
胸の奥がざわつくのを感じた。
⸻
夜。
二人は床に座って、
ラグドのノートパソコンを覗いていた。
「でね!」
ラグドは身振りを交えて説明する。
「ここが変で、
多分ここが嘘で!」
yは黙って聞いていたが、
途中で口を挟む。
「……違う」
「え?」
「因果関係が逆」
yは淡々と話す。
情報の流れ。
隠され方。
意図。
「つまり……」
少し間を置いてから言う。
「世界が間違えたんじゃない。
間違えたことにしてる」
説明し終えたあと、
yはラグドを見る。
「……どうよ。わかったか?」
ラグドは腕を組んで、
真剣な顔をしたあと。
「うーん……」
数秒。
「なるほど!」
yの口元が、
ほんの少し緩む。
「わからん!」
「……」
沈黙。
そして。
「……ハッ。」
yは、
思わず小さく笑った。
自分でも驚くほど、
自然な笑いだった。
⸻
「でもさ」
ラグドは続ける。
「言いたいことは分かった気がする!」
「どんな?」
「世界って、 いつだって完璧なフリしてるよね!」
yは目を見開く。
「だからさ」
ラグドは笑う。
「ズレてても、
生きてればよくない?」
その言葉は、
yの中で静かに引っかかった。
⸻
夜遅く。
電気を消して、
布団に入る。
天井を見ながら、
yは思う。
この家は、
おかしい。
世界の嘘が、
ここでは静かだ。
完全に消えるわけじゃない。
でも、暴れない。
ここなら、
まだ壊さなくていい。
その考えが、
頭に浮かんでしまった。
⸻
朝。
ラグドが目を覚ますと、
部屋は静かだった。
yの姿はない。
荷物も、
機材も、
消えている。
テーブルの上に、
空になったお菓子の袋。
ラグドはそれを見て、
小さく笑った。
「……切り替え早すぎでしょ」
不満はない。
悲しみも、
怒りも、ない。
ただ、
胸の奥に
少しだけ残る違和感。
⸻
ラグドは今日も、
前を向いて生きる。
yは、
この嘘だらけの世界を壊す決意を固める。
同じ夜を過ごして、
二人は
違う答えを選んだ。