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yがいなくなってから、ラグドの日常はほとんど変わらなかった。
朝はちゃんと起きて、
甘いものを食べて、
機械に強くないまま、
機械を使いながら生きている。
「……あれ?」
スマホのアプリが
また意味の分からない表示をしている。
ラグドは首をかしげて、
とりあえず閉じた。
「ま、いっか!」
深く考えない。
考えなくても、
一日は進むから。
⸻
ただ、
世界の“ズレ”だけは
前より少しだけ見えるようになっていた。
ニュースの見出し。
数字の違和感。
消える小さな記事。
ラグドは気づく。
でも、立ち止まらない。
気づいたあと、どうするかは選べる。
yの言葉が、
ふと頭をよぎる。
「……選んでるよ」
ラグドは小さく呟く。
⸻
一方で、
yは街を転々としていた。
地図はある。
情報もある。
それでも、
必ず一度は道を間違える。
「……こっちじゃない」
引き返す。
いつものことだった。
だが、
世界のズレは
確実に増えていた。
事故。
不審な噂。
記録から消える人間。
yは確信する。
嘘が、広がってる。
⸻
ある夜、
yは古い端末を開く。そして、あらゆるところをハッキングしてみる。
過去のログ。
消された記録。
修正された事実。
「……やっぱりな」
偶然じゃない。
この世界は、いつだって
“都合の悪いもの”を
平然と書き換える。
yの中で、
一つの感情が固まっていく。
怒りでも、
悲しみでもない。
判断だった。
ラグドside⸻
ラグドは、
yからの連絡を待っていなかった。
来たら来たで嬉しいし、
来なければ来ないで、
それもそういう選択だと思っていた。
「元気かな」
ふと思って、
それ以上考えない。
前向きだから。
切り替えができるから。
⸻
yは、
最初の一線を越える。
小さな情報操作。
誰にも気づかれない改変。
結果、
一つの事故が防がれる。
誰も知らない。
記録上、
何も起きていない。
yは画面を見つめて、
息を吐く。
「……できる」
守れる。
変えられる。
だったら。
⸻
ラグドの家の前を、
yは一度だけ通り過ぎた。
インターホンは押さない。
カーテンの隙間から、
明かりが漏れている。
きっと、
甘いものを食べている。
yは、
それを壊したくなかった。
ここは、
嘘が静かだった場所だから。
⸻
その夜、
yは決める。
この世界を守るために、
自分が“悪”になる。
ラグドは、
決して選ばない道。
ラグドは、
笑いながら進む道。
yは、
壊しながら止める道。
⸻
同じ世界で、
同じ嘘を見て。
二人は、
完全に違う歩き方を選んだ。
この時点で、
もう戻れない。
再会する時、
それは――
敵としてだ。
(オマケ ラグドの日常)
今日も普通だった。
朝は少し寝坊して、
目覚まし時計の止め方が分からなくて、
結局叩いて止める。
「……壊れてないよね?」
時計に話しかけて、
返事がないことに満足する。
朝ごはんは甘いパン。
栄養バランスはよく分からない。
でも、
「おいしい!」
それで十分だった。
⸻
外に出ると、
相変わらず世界はちょっとだけ変だった。
昨日あったはずの看板が消えていたり、
ニュースの内容が
朝と夕方で微妙に違っていたり。
ラグドは気づく。
ちゃんと。
でも、立ち止まらない。
「ふーん……」
そう言って、
次の信号を渡る。
⸻
道に迷った。
地図アプリは
よく分からない矢印を出している。
「……右?」
歩き出してから、
すぐに首をかしげる。
「左だったかも」
でも、引き返す。
切り替えは早い。
⸻
昼休み、
自販機の前で悩む。
「どれにしよっかなー」
見慣れない新商品。
「これ、絶対おいしいやつだ!」
買って、一口。
「……まずっ」
一瞬だけ顔をしかめて、
すぐに笑う。
「でもネタにはなる!」
⸻
帰り道、
ふと足を止める。
ラグドの家の前。
静かだ。
「……」
一瞬だけ、
誰かが隣にいる気がして。
でも、いない。
ラグドは肩をすくめる。
「ま、いっか!」
鍵を開けて、
家に入る。
⸻
夜。
甘いものを食べながら、
テレビを見る。
ニュースは相変わらず
よく分からないことを言っている。
「またズレてるなぁ」
でも、
ラグドはチャンネルを変える。
世界が嘘をついていても、
今日をちゃんと生きる。
それが、
ラグドの選んだやり方だった。
⸻
布団に入る前、
ふと思う。
「y、元気かな」
答えはない。
でも、
それでいい。
ラグドは目を閉じる。
明日も、
前向きに生きるために。