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狭山さんが唐和開港綺譚4巻のプロットを練り直すということで、リモート打ち合わせしている。
「読者にねえ、自分で作れるような薬膳の場面がウケいいんで、もうちょっと薬膳系の描写入れたいんですよねえ」
狭山さんは難しい顔で腕組みした。
「あーなるほど……薬膳食材も生薬と分類は同じなんで、いけますよ。詳細なレシピとなると少し難しいですけど、材料の組み合わせだけならいくらでも提供できます」
「舞台もう秋なんで、秋向けの薬膳と漢方薬を教えて欲しいんですけども」
「うーん、秋向けのって秋前半と秋後半で変わるんですよねえ、どっちがいいですか?」
秋前半はまだ暑さが残る前提で、体を潤し冷やす食材が使われやすいのだが、秋後半は冬が近くなるので、温める食材が使われやすいのだ。
「両方お願いします、とりあえず」
「多いんで、後でリスト分けして送りますよ」
「ありがとうございます!」
狭山さんは頭を下げた。
そんなこんなで打ち合わせが終わり、俺の横の机で鳴子用組紐を作っていた千歳が聞いてきた。
「4巻書き始めるのか? いつ読めるんだ?」
「いやー、だいぶ先だよ。プロットから練り直しだからね」
狭山さんは筆が早いほうだが、プロットを書いて、本文を書いて、校正して、俺もコラム書いて、編集して……どの工程も時間がかかる。
『そっかあ』
千歳が残念そうな顔をするので、俺は慰めた。
「まあでも、狭山さんやり始められるようになったわけだから、あとは時間の問題だよ」
『うん……』
「俺も頑張んなきゃ」
秋向けの手に入りやすい薬膳食材だと、まずは梨かなあ。梨の芯をくり抜いて氷砂糖入れて蒸したやつとか、あと梨果汁を煮詰めて作る梨飴なんかが話に使いやすいかも?
『なあ、ワシも秋の薬膳作ってみたい』
千歳がわくわくの瞳で俺を見る。千歳、料理作るの好きだからなあ。
「うーん、じゃあ梨薄切りにして蜂蜜かグラニュー糖かけてチンしたの」
俺は梨の薬膳の簡易版を口に出した。
『そんなんでいいのか?』
「それでいいの。秋は乾燥しやすい季節じゃん? で、まだ今は暑くて汗で体液出ていくじゃん? 梨も蜂蜜もグラニュー糖も、体液を補充するのにいい食材に分類されてるんだ」
梨は体液を補充し体の熱を取るのにいい果物だ。グラニュー糖は氷砂糖と同成分で、氷砂糖は体液を作り体を潤すのにいいと言われている。蜂蜜も似たようなもの。まあ、梨の芯くり抜いて氷砂糖詰めて蒸したのの簡易版だ。
『へえ、じゃあ理にかなってるのか』
「まあ、理論通りではある」
『うーん、梨あるな……グラニュー糖もお菓子用のがある……じゃあ今日のおやつに作ろっと!』
千歳は椅子から立ち、台所に去っていった。体にいいレシピをさっと作ってくれる人、本当にありがたいな……。
で、千歳とおやつに蒸し梨を一緒に食べた。
『なんか、梨って蒸すとすごいいっぱい汁出るなあ』
「その汁が喉の潤いにいいんだよ、全部飲んで」
『へえー』
……別になんてことない時間なのだが、俺は千歳と一緒にこういう物が食べられて嬉しかった。
おじいちゃんがまだ生きていた頃は、たまに薬膳料理を作ってくれていた。生薬たっぷり、効果優先で独特の味だったのだが、食べると体がポカポカしたし、おじいちゃんは喜んでどの生薬がどういいか説明してくれたし、おばあちゃんも料理作り休めるからご機嫌だったし。つまり、一緒に食べるのが楽しかったのだ。
千歳と、そう言う思い出のある料理を一緒に食べるのは、その時と同じ気持ちがする。
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コメント
1件
ああ、なんかもう…めちゃくちゃいい話だわこれ。 薬膳の知識がちゃんとキャラの会話から自然に伝わってくるところが好き。千歳が「ワシも作ってみたい!」って目をキラキラさせてるところ、想像しただけでほっこりする。 最後の「おじいちゃんと食べた薬膳と同じ気持ち」ってとこ、じんわり染みた。料理って思い出と一緒に残るよなあ。こういう日常の温かさ、大好きです。