テラーノベル
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別府駅行きのバス停に走るが、丁度行ってしまった後で、次まで結構時間があった。
山と海の間を通る別大国道は、隠れる場所がない。
でもこんな見通しの良いところに立ってたら、部長に見つかってしまうし。
侑哉を頼ったらせっかく楽しんでいる二人が心配してしまう。
――歩こう。
次のバス停まで歩いてそこで待とう。
曇りだった空は、私の心を映し出すかのように、パラパラと霧雨を降らせる。
部長が真君に優しいのも、周りが子どもで溢れているのも、私が欠陥品なのも、全部全部、私のせいではない。知りたくなかった。知らなきゃ良かった。
だって結婚となると『子どもの話』はしなくちゃいけない。
子どもを願う相手だったら、私はまた捨てられる。
あの時受けたブライダルチェックの診断結果と、処方されたピルは常に鞄の中に入れている。
家に置いていて、侑哉に見られるのも、落として誰かに発見されるのも怖くて、内側のファスナーの奥に入れている。
誰にも知られたくないのに置き去りにできないこの気持ちを。
「お前、馬鹿だろ」
「!?」
後ろから声が、した。
――もう気づかれるなんて。
「あのな、リアス式海岸だから見通しいいし、逃げるなら向こうの高崎山にでも逃げろ」
「そうしますから、帰って下さい」
「嫌だ」
次の瞬間、体がふわりと宙に舞った。
「――重い」
「ぶ、部長!」
「お前、うるさい」
雨の中私を肩に担ぐ部長は、とても不機嫌だった。
不機嫌そうな貌を雨が伝う。ちょっとだけ肩が大きく動いているのは、走って来てくれたのかもしれない。
「お、下ろして下さい!」
暴れたら、部長のサングラスが簡単に落ちて、すんなりと私を下ろしてくれた。
……右手は握ったまま。
「そんなんだから、放っておけねーんだよ、馬鹿」
怒りもせずにそう言うと頭を両手でグシャグシャに触られる。
「ぶ、部長のばかー!」
「馬鹿はお前だ!」
そう言われたら言い返せなくて、涙があふれてきた。
「う」
「う?」
「うわあああああーーん」
地面に座り込み、霧雨からぽつぽつに変った雨を感じながら、
プツリと緊張の糸がとれてしまった。
そうだ。私がバカなのが悪い。馬鹿だから、優しいあの人の言葉に騙されて。
馬鹿だから、部長が悪くないのに恋愛から逃げて、親子の温まる光景に目を逸らして。
「色気のねぇ泣き方だな」
「部長、あの人を殴ったあの日、全部聞いたんじゃないですか?
私の欠陥部分。に、妊娠する確率が低いって。不妊治療が必要って」
だらだらと涙を零しながらそう言うと、部長はため息を吐いた。
「さあ。ぶつぶつ言ってたから殴ったけど、お前の口から聞いてないことは覚えてない」
「私、欠陥品なんです。連れていかれて、こ、子どもも産めないのかって罵られて、でも、本当で、でも、私自身が、全部全部、否定された気がして……」
でも、でも、彼は間違えていないと思う。
農家の長男さんなら、家族経営だし私なんかにお金をかけるのは大変なんだと思う。
――でも、せめて愛してるなら一緒に頑張ろうって言葉が欲しかったの。
「欠陥品なわけあるか。ばか」
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