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#普通
野々さくら
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ありあ
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怒号とともに、ディレクターが怒り心頭の様子でスタジオへ踏み込んでくる。
「てめー何考えてんだ!」
突然の剣幕に、銚子は肩を震わせた。
「え?」
何が起きたのか理解できず、立ち尽くす。
「わ、私・・何か・・・」
最後まで言い切る前に、怒鳴り声が遮った。
「何かじゃねーんだ!このクソガキこらぁ!」
ディレクターは手にしていた台本を力任せに投げつけた。
紙束が宙を舞い、銚子の身体に当たって床へ散らばる。
「きゃあ!」
銚子は思わず悲鳴を上げる。
ディレクターの顔は怒りで真っ赤になっていた。
「天縁教団が失踪事件に関与だ!?」
荒々しく一歩踏み出す。
「生放送で何デタラメほざいてんだ!ぁあ!?」
「わ、私は──」
弁明しようとする銚子を、ディレクターはさらに怒鳴りつける。
「天縁教団は局の大口スポンサーなんだぞお前!」
その一言で、スタジオの空気が凍りつく。
「それをよりによって生放送で──」
怒りは頂点へ達した。
「殺すぞぉぉ!」
ディレクターは銚子の胸ぐらを乱暴に掴み上げた。
身体が浮きそうになるほどの力だった。
「ディレクター!落ち着いてください!」
多摩雄がとっさに背後からディレクターへしがみつき、必死に引き離そうとする。
しかし、怒りに支配された男は止まらない。
「これが・・・落ち着いていられるかってんだ!」
次の瞬間、ディレクターの拳が振り抜かれた。
鈍い音が響き、多摩雄の頬を強く打ち抜く。
「多摩雄さん!」
殴られた勢いで床へ倒れ込む多摩雄のもとへ、銚子は慌てて駆け寄った。
ディレクターは二人を見下ろし、鼻で笑う。
「ぁあ!?多摩雄さんだぁ?
なんだお前ら・・そういう関係か?」
多摩雄は痛みに顔をしかめながら首を振る。
「べ、別にそういう──」
多摩雄の弁解の言葉を遮るように、一人のADが息を切らせて駆け込んできた。
「ディレクター!」
「なんだ?」
「問い合わせの電話が鳴り止まないそうです」
その報告を聞いた瞬間、ディレクターは頭を抱えた。
「ぁぁあ! クソ!」
吐き捨てるように叫び、スタジオ中へ怒声を響かせる。
「この番組終わりだ!」
さらに近くの機材を足で蹴り飛ばしながら出口へ向かう。
「クソやろーがぁ!」
機材が倒れる音だけを残し、ディレクターはスタジオから姿を消した。
残されたスタジオには、重苦しい静寂だけが漂う。
銚子は倒れた多摩雄の隣へ膝をついた。
「多摩雄さん・・・大丈夫?」
多摩雄は頬を押さえながら、小さく笑みを浮かべる。
「ああ、俺は心配ないよ・・・」
その言葉を聞くと銚子は俯き、震える声で謝罪した。
「ごめんなさい・・私のせいで」
多摩雄は静かに首を横へ振る。
「いや、銚子ちゃんのせいじゃないよ」
そのとき、スタジオの奥から貴船がゆっくりと歩み寄ってきた。
「貴船さん?」
銚子は不安そうな表情で見つめる。
「私・・何か言っちゃいけない事
言っちゃったんでしょうか?」
貴船は少しだけ目を閉じ、深いため息をついた。
「この番組はね──」
そして、重い口を開く。
「君がさっき口にした、天縁教団からの 多額の
融資によって成り立ってる番組だったんだよ」
その一言に、銚子の表情が凍りついた。
「え!?そうだったんですか!?」
信じられないというように目を見開く。
貴船は苦笑いを浮かべ、小さく肩をすくめた。
「その反応・・どうやら君は
聞かされてなかったようだね・・」
銚子はゆっくりと首を横に振る。
「何も知りませんでした・・・」
震える声だった。
「天縁教団ってただの宗教団体だとばかり・・
そんな大切な団体だったなんて・・・」
自分の認識があまりにも浅かったことに気付き、言葉を失う。
やがて、恐る恐る口を開く。
「ならこの番組は・・どうなっちゃうんですか?」
貴船は少し視線を落とした。
「分からない・・・」
その答えには、長年テレビ業界で生きてきた人間だからこその諦めが滲んでいた。
「だが、最悪打ち切りになるかもしれない」
その現実は、銚子の胸へ重くのしかかる。
「そ、そんな・・・」
スタジオには重苦しい沈黙が流れた。
やがて貴船は多摩雄に声を掛ける。
「ADの君」
「は、はい・・・」
貴船は穏やかな表情で言う。
「君はどうやら御船さんと親しい間柄みたいだね」
突然の言葉に、多摩雄は慌てて手を振った。
「あ、いや、俺は・・・」
言い終える前に、貴船は優しく微笑む。
「いや、君を責めてるわけじゃないんだ」
その一言で、多摩雄の緊張が少しだけ解ける。
「御船さんを楽屋まで連れて行ってあげてくれ
あと、番組は中止になるだろうから、そのまま
自宅まで送ってあげてくれるかな?
後は私がなんとか丸く収めておくから」
静かな口調だったが、それは番組スタッフとしてではなく、一人の大人としての気遣いだった。
「は、はい・・わかりました」
多摩雄は力強く頷く。
銚子は申し訳なさそうに貴船を見つめた。
「貴船さん・・・私」
しかし貴船は首を横に振る。
「いや、これは天縁教団について君に
伝えていなかった番組側の落ち度なんだから
君が気に病む必要なんてないよ」
その言葉に、銚子は思わず息をのむ。
自分だけが悪いわけではない。
そう言ってくれた人がいたことに、胸の奥が熱くなった。
穏やかな声が、傷ついた心に静かに染み込んでいく。
銚子は何度も小さく頭を下げた。
「あ、ありがとうございます・・・」
貴船は優しく頷き、多摩雄へ視線を向ける。
「さあ、銚子ちゃん・・楽屋に行こう」
多摩雄はできるだけ明るい声を作り、愛子へ手を差し伸べた。
愛子はその手を見つめ、小さく頷く。
「う、うん・・・」
二人は静まり返ったスタジオを後にし、ゆっくりと楽屋へ向かって歩き出した。
背後には、スポンサーという見えない力に翻弄された番組の、重苦しい空気だけが残されていた。
コメント
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259話、読み終わりました……。 ディレクターの暴力、怖かったですね。でもそれ以上に、銚子ちゃんが何も知らされないまま放送で発言してしまったことの重さが胸に刺さりました。貴船さんの「君のせいじゃない」という言葉が、あの場でどれだけ救いになったか……。ちょっと泣きそうになりました。 多摩雄さんも、殴られても銚子ちゃんを守ろうとする姿が印象的でした。この作品の「大人の事情」の描き方が、本当に丁寧で心揺さぶられます。続きが気になります……🥀