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「光あれ」
その言葉が放たれたとき、最初に生まれたのは輝きではなく、「境界」だった。
それまで、世界は完全だった。
形もなく、色もなく、敵も味方もない。すべてが混ざり合い、未分化のまま微睡(まどろ)む、純粋な「無」という名の充足。
しかし、言葉が虚空を裂いた瞬間、世界は残酷なまでに二分された。
光が現れたことで、同時に「影」が定義されたのだ。
「こちら」が決まれば、「あちら」が生まれる。
「私」が叫べば、私ではない「他者」が鏡のように立ち上がる。
光は救済ではなかった。それは、孤独の始まりだった。
照らし出された万物は、それぞれが孤立した個体として、互いの距離を測り始めた。
届かない距離、触れられない質感、理解し合えない差異。
眩いほどの明晰さは、かつての濁りなき安らぎを永遠に奪い去った。
「見える」ということは、同時に「見えないもの」を意識することだ。
「在る」ということは、いつか「失われる」という恐怖を抱えることだ。
それでも、光は止まらない。
意識という名の光が、混沌とした宇宙に秩序という名の不自由を刻み込んでいく。
「なぜ」という問いが光となって、答えのない闇をどこまでも追い詰めていく。
全能の沈黙を捨て、不完全な雄弁を選んだその一言。
「光あれ」
それは、美しくも悲しい、自己分裂の産声。
私たちは今もその残光の中で、バラバラになった自分の一部を、言葉という不確かな灯火で探し続けている。
コメント
2件
なになになに
🐴