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いつもの様に張飛は、街で酒を引っかけ、馬に揺られながら、庵《すみか》への近道、雑木林を抜けていた。
と、何か、聞こえたような気がする。
人の、それも、女の叫びのようなものだった。
うん、と、張飛は、ほろ酔いの頭で考える。
「酔いも、ほどよく回ってちょうど良い。少し、暴れてみるか」
何故か、彼の頭の中に、人助け、という考えはないようで、腰にぶら下げている太刀を確かめると、声が聞こえた方へ馬を走らせた。
案の定、女が、男達に拐かされている所だった。
家で使う為なのだろう。女は、薪を拾い集めていたようで、足元には、集めた薪が散乱している。
そして、薪を入れて持ち帰る背負い籠も、地面に転がっていた。
よほど抵抗したに違いない。
しかし、多勢に無勢。そして、絵に書いた様な悪党面の男達には、女一人の力ではどうにもならぬ。すでに、抱えられ、女は、連れ去られようとしているところだった。
「おいおい!ちょっと待て!」
突然現れた、赤ら顔の男、酒臭さから、酔っぱらいと、見抜いた悪党達は、特に相手をするわけでもなく、女と共に立ち去ろうとした。
「な、御主ら、人の言うことが聞こえぬのかっ!!」
張飛は叫んだ。
雑魚に馬鹿にされたのだ。一度は、一軍を率いる将になり、主君である、劉備の変わりに留守を任せれるまでの武将であった。
しかしながら、今の世の定めか、諸々の裏切りに合い、敗北続き。そして、劉備共々、流浪の民のごとく過ごしながら、再び立ち上がる時を待っている。
正直、面白くない日々が続いていた張飛は、酒とケンカで憂さ晴らしをするという、なんとも、自堕落なことを行っていたのだ。
そして、また、ここでもひと暴れしてやろうかと思った矢先、雑魚に舐められて、張飛は怒り心頭だった。
「た、助けて!」
そこへ、か細い声が流れてくる。
男に、抱き抱えられている女は、必死に身をよじらせ、その腕から逃れようとしている。その動きの一瞬であった。
張飛は、目を見張る。
女は、まだ、若い。少女と言って良い年頃で、ちらりと見えたその容姿に、張飛は俄然やる気になった。
つまり、それほど、美しい女だったのだ。
「まてぇい!お前らみたいな、雑魚に、その女は、勿体無い!ワシによこせ!」
えっ、と、女は息を飲む。
現れた男も見かけ通りの無頼漢、なのか。どちらに転んでも、身の安全は無いのだと、女は落胆からか、動きを止めた。
「おお、それでいい、娘よ。暫く、おとなしくしておいてくれ、すぐに、片付けてやるからな」
張飛は、馬上で笑うと剣を抜いた。