テラーノベル
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皆もギデオンのように、すぐに呼吸も顔色も戻った。これでもう、安心だ。少しすれば、目を覚ますだろう。そう思ったのだが、二人、息をしていない。胸に耳を当てるが、鼓動が聞こえない。全身の皮膚が青黒く変色している。もう手遅れだった。毒をたくさん吸ったのだ。誰も欠けてほしくなかったのに。遅かった。助けられなかった。 リオは空を仰いだ。雪が降ってきた。大粒の雪だ。それが目に入り視界がぼやける。ぼやけたまま冷たい空気を吸って吐いて、苦しく悲しい気持ちを落ち着かせる。リオは顔を戻すと、二人に深く頭を下げた。
でもゆっくりと悲しんでいる暇はない。リオは魔法で、皆の全身にも透明の膜を貼っていく。たくさんの人達に魔法を使うから、かなりの力を消耗する。だけど大丈夫。身体の内に溜めた魔力は、まだまだ無限にある。
リオは、魔獣に向かう前に、再びギデオンの傍に行き、顔を覗き込んだ。どうしてギデオンにだけ、口移しで毒の除去と治癒の魔法を使ったのか。ようやく理由がわかった。こんな大変な局面で気づくなんて、我ながら鈍感すぎる。だけど、どんな時に気づいたところで、どうにもできない。気づけただけで、幸せだと思う。
「ギデオン、これほどの魔獣を退治するんだから大手柄だよ。王様から、たっぷりと|褒美《ほうび》をもらえよな」
そうギデオンの耳元で囁くと、リオは背筋を伸ばして魔獣へと近づく。眠っている間に魔法をかけたいと無心で近づいたが、気配を気づかれたようだ。魔獣の耳がピクリと動き、全身の鱗の隙間から空気と水のような物が吹き出る。舞い上がる雪と共に毒が降り注ぐ。だけど大丈夫だ。透明の膜が毒から身を守ってくれる。ただ、舞い上がる雪で視界が悪い。リオは、目を|凝《こ》らして魔獣に近づき、手を伸ばせば触れる距離まで近づいた。
次の瞬間、魔獣の首が動いた。魔獣の|澱《よど》んだ黒い目とリオの目が合う。
「悪いな。おまえは人を殺した。本当なら巣穴に戻してやるつもりだったけど、人を殺したおまえは、また殺すだろう?だから退治する」
「グアアッ!」
唐突に魔獣が牙に|涎《よだれ》を|滴《したた》らせて口を開け、吠えて立ち上がる。吠えた振動で、雪山のあちらこちらで、小さな|雪崩《なだれ》が起きた。
その時、アンが全身の毛を逆立ててリオの前に飛び出てきた。リオは慌ててアンを抱いて後ろにさがらせる。
「ダメだよ!アンは隠れてて!」
リオは厳しく言うと、再び魔獣と|対峙《たいじ》する。
リオを飲み込む勢いで迫ってきた魔獣の口内に向けて、リオは両手を突き出した。そして身体の内に溜めていた力を全て、手のひらに集中させ、魔獣の口の中へと解き放つ。
リオの手のひらから放たれた白い閃光が、魔獣の口から背中側へと突き抜けた。
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