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一瞬の静けさの後、魔獣が黒い目をクルンと裏返して横に倒れた。激しい音と共に大量の雪を舞い上げながら。魔獣の下の雪に、黒い血がしみ込んでいく。
「よかった…倒せた…。はあ…疲れたな」
リオはひどい頭痛と|目眩《めまい》で、今にも倒れそうだった。どすんと雪の上に腰を落とし呼吸を整えていると、目の前に一人の男が現れた。騎士の格好ではない。リオと似たようなズボンを履いている。誰だと顔を上げて、リオは目を見張る。
高く昇った太陽の光が眩しくて見えにくいが、すぐにわかった。金の髪に赤い瞳。大人びた顔つきになってはいるが、面影が残っている。
リオは掠れた声を出す。
「デッ…ク?」
「覚えててくれたんだ?久しぶりだな、リオ。すごいじゃん。一撃じゃん。こんなデカいの、俺は倒せねぇな」
「デック…よかった…生きてた」
「うん、まあ…いろいろあったけどな」
「どうしてここに…?」
「魔獣がいたから見に来ただけ」
「そう…。なあ、お願いが…ある。俺に…回復の魔法を」
「使わねぇよ」
「なんで…」
「元気になったら、そいつらと一緒に行くんだろ?そいつらは仲間か?」
「うん」
「じゃあ無理。リオは俺と一緒に来て欲しいから」
「どこに?」
「内緒。ところで、そいつはリオの?」
デックの視線の先にアンがいる。
アンは、リオの身体にピタリと寄り添っている。
「うん…この子は、大切な家族だ。絶対、俺から…離さない」
「ふーん」
デックが腕を組み、考え込んでいる。そして「どうする?」と後ろを向いて、ようやくリオは気づいた。もう一人、男の人がいる。青灰色の髪に黄色い瞳をしている。男が|微《かす》かに頷く。
「だれ…?」
「俺の主。その犬?もつれて来ていいってさ」
「…そう…でも行かない」
「ふは!おまえは昔から頑固だったよなぁ」
デックが笑っている。再会して怖い顔になったと思ったけれど、笑うと昔のままだ。
リオは、少しだけ安心した。また後日ゆっくり会いに行くから、今は帰るよと口を開きかけたその時、喉の奥が熱くなり、咳き込んで血を吐いた。
「リオ!」
デックがリオに近寄り、背中を撫でる。
リオは手のひらの血を見て、デックの横顔を見上げる。今、デックは治癒の魔法をかけてくれている。助けないと言ってたのに、やっぱり優しいなぁ。
感謝を口にしようとして、いきなり|担《かつ》がれて慌てた。「下ろせ」と言おうとしたが、咳き込んで言葉が出ない。