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はッはッはッ(過呼吸
朝。
おらふくんは、目覚ましより少し早く目が覚めた。
カーテンのすき間から、やわらかい光。
(……今日は、普通に行けそう)
それだけで、胸が軽い。
登校途中。
角を曲がったところで、見慣れた背中。
「……おはよ」
「……おはよう」
声をかけるタイミングが、
もう迷わなくなっていることに気づく。
並んで歩く。
歩幅も、自然に合う。
一時間目。
先生の話は、正直ちょっと眠い。
ノートを取るふりをしながら、
おらふくんは、横を見る。
おんりーは、真面目な顔。
(……こういう顔、好きかも)
そう思って、
自分でちょっとびっくりする。
昼休み。
今日は、購買。
「……どれにする?」
「……それ、前も食べてなかった?」
「……好きなんだよ」
そんな会話。
誰かが横を通る。
視線が合う。
でも、もう怖くない。
放課後。
委員会の仕事を手伝って、
帰るのが少し遅くなる。
校舎の廊下は、夕焼け色。
「……今日さ」
おんりーが言う。
「……なんも起きなかったな」
おらふくんは、笑う。
「……それ、最高じゃん」
二人で、ちょっと笑う。
帰り道。
コンビニに寄って、
アイスを二つ。
「……どっちが当たりだと思う?」
「……こっち」
「……なんで?」
「……勘」
結果は、外れ。
でも、
どうでもよかった。
別れ道。
「……また明日」
「……うん、また明日」
少しだけ、間があって。
「……なあ」
おんりーが、照れたように言う。
「……今日さ」
「……楽しかった」
おらふくんは、即答する。
「……俺も」
家に帰って、
ベッドに寝転がる。
今日を思い返す。
大きな出来事はない。
でも――
(……悲しさ、来なかったな)
そう思って、
少しだけ目を閉じる。
幸せは、
特別な日じゃなくて、
何も起きなかった一日の中に、
ちゃんとあった。
次の日の朝。
おらふくんは、目を開けた瞬間に分かった。
(……だめだ、これ)
頭が重くて、
体が、布団に沈んでいるみたいだった。
体温計は、はっきりした数字を出す。
少し高い。
学校は、休むことにした。
昼前。
スマホが震える。
おんりー:
「今日、来てないけど大丈夫か?」
少し迷ってから、打つ。
おらふ:
「かぜっぽい。熱ある」
すぐに既読。
おんりー:
「待ってろ」
短すぎる返事。
(……え?)
昼すぎ。
インターホンが鳴る。
おらふくんが玄関を開けると、
そこにいたのは――
「……来た」
マスク姿の、おんりー。
片手には、袋。
スポーツドリンクと、ゼリーと、薬。
「……え、なんで」
「……心配だから」
当たり前みたいに言う。
部屋。
布団に戻ると、
おんりーは、静かに近くに座る。
「……寒くないか」
「……ちょっと」
毛布を、そっと直す。
触れ方が、すごく慎重で、
でも、迷いがない。
「……学校さ」
おんりーが言う。
「……静かだった」
「……お前いないと」
少し間。
「……なんか、足りない」
おらふくんは、ぼんやり笑う。
「……それ、告白?」
「……違う」
即答だけど、
耳が、ちょっと赤い。
水を飲ませてもらいながら、
おらふくんは、目を閉じる。
(……あ)
(……これ、安心だ)
昔みたいな、
「迷惑かも」って気持ちが、出てこない。
「……なあ」
おらふくんが、小さく言う。
「……看病されるの」
「……初めてかも」
おんりーは、動きを止める。
「……そっか」
「……じゃあ」
少しだけ、声を落とす。
「……ちゃんと、やる」
夕方。
熱は、少し下がる。
おらふくんは、うとうとしながら、
手を伸ばす。
無意識だった。
でも、
指が、誰かに触れる。
おんりーの手。
離されない。
ぎゅっともしない。
ただ、そこにある。
「……逃げないな」
半分寝たまま、言う。
「……逃げる理由、ない」
その答えで、
安心して、眠りに落ちる。
帰り際。
「……無理すんな」
「……お前もな」
「……俺は平気」
少し間を置いて。
「……また、明日来る」
おらふくんは、目を細める。
「……じゃあ」
「……早く、治す」
ドアが閉まる音。
部屋は、静か。
でも、
ひとりじゃない感じが、残っていた。
熱のある日。
でも――
心は、あたたかかった。