カシャ
カシャ、カシャ
今夜も私は自撮りをする。
画面に写っているのは、ちょっとエッチな自分の姿。
「…下着も見せたほうがいっか」
シャツのボタンをもうひとつ外して──…
カシャ
「うん、こんなもんかな」
写真はSNSにアップする。
いわゆる裏アカってやつだ。
『うわエロッ!!』
『現役JKとかぜってーパチだろ笑』
『今晩のおかずありがとうございまーす』
すぐにコメントがつく。
いいねもどんどん増えていく。
「──キモ」
でも、私はこの習慣をやめられない。
だって──…
『彼女よか抜ける笑』
この男が見てるから。
・・・
「七瀬!おっはよ!」
沢村 七瀬(さわむら ななせ)、17歳。
裏アカで自分のエッチな写真をあげてることは、親友のユイにも内緒だ。
「ユイおはよーって…もう2限終わってんじゃん」
というより──…
ユイにだけは、絶対言えない。
「コーちゃんちにお泊りしてたんだもん笑」
「はいはい、良かったねー」
彼氏と過ごした甘い夜について話すユイは、どこか自慢げだ。
「いーなーユイ」
「彼氏、この学校で一番かっこいい丘くんだもんねー」
周りのみんなから上がる羨望の声。
「ラブラブでごめーん笑」
でも、あんたの彼氏──…
私の裏アカで抜いてるよ?
「おい、席つけよ。チャイム鳴っただろ」
盛り上がってるところに水を差してきたのは、二宮 櫂(にのみや かい)。クラスメイト。
「櫂、お前…あのギャル軍団相手によくそんな強気にいけるな…」
「は?だって予鈴は『次の授業の準備をしましょう』って意味だろ?」
「無意味に時間を浪費するの、嫌いなんだよ」
メガネ、地味。だけど真面目な委員長キャラって感じでもなくて──…
「二宮うざー。ね、七瀬?」
「無視でいいでしょ。興味なし笑」
「え、二宮かわいそ笑」
悪だくみをする子供のように、目を合わせて笑うユイと私。
──そう、私たちはとても仲良しだ。
「てか七瀬、放課後ひまー?」
「あーごめん無理だ」
「ちょっとやることあってさ」
だからこそ、ユイには絶対に負けたくない。
・・・
放課後。
「もーさすがに誰もいないよね…」
ひとり残った教室で、私は制服のリボンを外す。
「コメントうざすぎ」
「こっちはホンモノだっつの」
教室での写真をアップすれば、さすがに現役JKを疑うコメントも湧かないはず。
カシャ
カシャ、カシャ
「ま、こんな感じか──…」
ガタンッ
「っ!?」
「──あ」
「…にのみ、や…?」
やばい。
「なに、やってんの?」
「…別に」
慌ててはだけたシャツとスカートを整えるけど──…
「写真撮ってたよな」
「音、した」
バレてる。
「…撮ってやろうか?」
は?
「エロい写真がいいんだろ?」
「自撮りだけじゃ、似たような写真しか撮れない」
「つまんなくない?」
何言ってんの、こいつ。
「意味わかんない」
「私、帰るから」
二宮の横をすり抜けようとした、その時──…
「気づいてなかったんだな?」
「俺が写真撮ってたの」
「まあ、自分のカメラの音で気づかないか」
二宮が突き付けたスマホには、きわどい恰好で自撮りをする私が写ってる。
最悪だ。
「…弱み握ったつもり?」
「弱みになるのか?」
「…………」
「悪い。気づいたら…撮ってた」
何、こいつ。
意味わかんない。
「別に、沢村を脅そうとかじゃない」
「ただ…写真、もっと撮りたい」
「…ダメか?」
・・・
カシャ
カシャ、カシャ
「もっと前開けろよ」
「そんなんじゃ見えない」
「…っ」
何これ。
どういう状況?
「こう…?」
「…ん、いい感じ」
誰もいない放課後の教室で、エッチな写真を撮られてる。
しかも相手は、ろくに話したこともないクラスメイト。
「すごい…やらしいな」
「うるさいな…っ」
「そういうのいいから、さっさと撮りなよ」
そんなこと言ってるくせに、メガネの奥の瞳は教室で見せる冷静な瞳のままだ。
「なあお前さ、この写真どうすんの?」
「なんでこんな写真、撮ってんの?」
「…アップすんの。裏アカに」
素直に答えなくてもいいのに、なぜか答えてしまう。
なんだろう、この気持ち。
「こういうのあげると、反応多いから」
見られてる。
カメラを向けられてる。
こんな状況、嫌なのに。
「見られるのが好きなのか?」
「お前みたいなやつって、やっぱ目立ちたがりなんだな」
「…目立ちたいからじゃないし」
なぜか、素直に言ってしまう。
「私の裏アカ、ユイの彼氏が見てんの」
「ユイって…いつも一緒にいる?」
「隣のクラスの奴と付き合ってたよな?」
「そ。ウケるでしょ」
こんな気持ち、誰にも言ったことなかった。
ユイの大好きな彼氏が、ユイに隠れて私を見ている。
「ふーん…優越感か」
「馬鹿みたいだな、お前」
「っ!」
カシャ
「今の表情、いい」
「あ、でも顔は裏アカにあげられないか」
「…あんたこそ、馬鹿みたいじゃん」
二宮の表情はまったく変わらない。
だけど変化は別のところに現れていた。
「ソレ」
「その馬鹿な女見て興奮してるんでしょ?」
「…………」
はじめて見せる、二宮の動揺。
こんな状況だけど、やられっぱなしでいるのは嫌。
「ねえ二宮、こういうのはどう?」
「あんたは私の写真を削除する。もちろん今日のことは誰にも言わない」
「そしたら私が…抜いてあげるよ?」
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ふー!