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ホテルの最上階のレストラン、綺麗な夜景を眺めつつ食べたお料理はどれも美味しくて、とてもしあわせな気分だった。


そのしあわせな気分を抱えて、ケンジさんと一緒にホテルを出る。


(――昨日のように、私を抱かないのかな……)


肩透かしを食らった私の手を引いたケンジさんは、待ち合わせにしていた公園に戻り、そのままベンチに腰かけた。目の前の噴水がライトアップされいて、色とりどりに変わるのを、ぼんやりと眺める。


この時間帯はいつも知らない誰かの腕の中にいる自分が、こうして普通にしていられることに、言い知れぬ違和感を覚えた。


「綾香ちゃん、どうしたの?」


私の手を引いて隣に座らせたケンジさんに訊ねられたので、迷ったけど素直に答えることにする。


「てっきりさっきのホテルで、食事のあとに客室に行くと思ってたから……」


「まぁ、うん。俺たち結構相性がよかったしね」


ケンジさんは小さく笑って、掴んだ私の手を引き寄せるなり、甲にキスをした。皮膚に強く押しつけられたケンジさんの唇の感触で、昨夜たくさん感じさせられたことを思い出す。


「俺はそれよりも、綾香ちゃんとこうして話がしたいと思ったんだ」


「私とお話?」


「うん。綾香ちゃんは今まで、どんな人を相手にしてきたのかな、とか」


キスした手をそのまま柔らかく握りしめて、ケンジさんの胸に触れさせる。


「私が相手にした人のことをケンジさんが知っても、つまらないと思うけどな」


借金を返済するために、たくさんの人を相手にしてきた。気持ちいい悪いとかじゃなく、その人にたくさんのオプションをつけて、どれだけ稼いでやろうかなって言う商売魂みたいなのがあったため、まんまお仕事している気分だった。


「まずは、綾香ちゃんのことが知りたい。だから昨日も、根掘り葉掘り聞いちゃったんだ」


「うん……」


「たとえ二週間だけの付き合いでも、その間は君は俺の恋人でしょ。俺よりも先に綾香ちゃんといいコトした相手に、ヤキモチを妬いちゃダメなのかな?」


てのひらに感じるケンジさんの鼓動が、少しだけ早くなった。それがじわじわ伝わってくるせいで、私までなんだか落ち着かなくなる。


「ヤキモチなんて、無駄なことなのに」


「俺よりも綾香ちゃんを感じさせた男は、どんなヤツだった?」


私がムダと言ったのに、それでもしつこく問いかけるケンジさん。ふざけた感じは一切なく、本当に知りたがっているのがわかったけれど。


「ケンジさんが一番だったよ」


50万円を気前よく、私にくれる約束をしたからではなく。


「そんなこと言って、俺を持ちあげないで」


困った様相で文句を言った彼に、首を振ってみせた。


「持ちあげてるんじゃないの。なんていうのかな、体だけの関係で、私はほかの人とやり取りしているでしょ?」


「そうだね」


「ケンジさんは私の心も一緒に揺さぶってくるから、一番感じさせてるって言ったんだよ」


こんなふうにドキドキしたのは、元彼と付き合ってた頃以来。ちゃんと自分の心がそういう感情を持ってるって、実感できたのが久しぶりすぎて、なんだか嬉しくなってしまった。

ハートの確率♡その恋は突然やってきた

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