テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#グロ表現あり
1,167
#バトル
#死に戻り
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「どうだった?」
グロスター公は聞いた。
「こ、国王陛下は……病が重いような」
「そうだな」
「たぶん、もうすぐ……」
「死ぬ」
カルドは息をのんだ。
リチャードは、まるで明日の天気でも言うように口にした。
「皇太子は?」
「立派なお方です。よい王様になられるのではと」
「……俺もそう思う」
リチャードは薄く笑った。
「だから困るんだ」
カルドは黙った。
一言も聞き漏らすまいと、全神経を耳に集める。
「お前さん、もし俺が」
「皇太子を殺してこい、と言ったら――どうする?」
カルドの頭が、ぐるぐると回る。
なんと答えるのが正しい。
いや、このヒトに“正しい答え”なんてあるのか。
「え、ええと……」
「冗談だよ、馬鹿」
リチャードは鼻で笑った。
「“はい、行きます”なんて言ったら、その場で殺してた」
カルドは乾いた喉で、どうにか言葉を返す。
「……それも、冗談ですよね」
「冗談と本気を混ぜることが人生だ」
「覚えとけ」
カルドは思った。
このグロスター公リチャードという男は、
恐ろしい。
だが、それ以上に――目が離せなかった。
カルドはその後、屋敷にとどめ置かれた。
ギルドのマスター、サッシャーもそれは承知していた。
ギルドに顔を出すのは構わない。
だが――グロスター公に呼ばれたときは、必ず屋敷にいること。
それが条件だった。
暇つぶしだったのか。
それとも、別の思惑があったのか。
グロスター公はカルドに剣を習わせた。
天賦の才か、あるいは生き延びるための勘か。
その腕は、見る間に上達していった。
「俺が出かけるときは、そばにいろ」
「剣は帯同してもいい」
そう言われた。
給金も支払われた。
最初に手にした五千ディナールは、
翌年には四万ディナールに膨れ上がり――
その翌年、海の藻屑となった。
ここで、エスカリオ王家の王位継承戦争について、
少しお話しいたしましょう。
エスカリオでは古くより、
二つの大貴族が王位を巡り争っておりました。
一つはヨーク家。
現在の国王、エドワードはこの家の出です。
もう一つはランカスター家。
先の王、ヘンリー六世、そしてその子エドワードは――
先年の戦いにおいて、
グロスター公リチャードの手により討たれております。
サイラスは一度言葉を切る。
「――さて」
わずかに口元が歪んだ。
「ここからが、実に興味深い」
「討たれたエドワードの未亡人、アン」
「彼女はこのお話の時点で――」
一拍。
「そのグロスター公リチャードの、妻なのです」
静寂。
「理解に苦しむでしょうな」
「だが、これが現実です」
扉を開けると
そこには美しい女性が窓の外を見ていた
「すいません、部屋を掃除するように言われました」
カルドは隅のほうに移動すると
近くに来るようにと促された
「あの人が港で拾ってきたおもちゃね」
「おもちゃじゃありません、
カルドといいます」
「ふうん、あなた彼女はいるの?」
「います」
「いないのね」
「もし、港に私が欲しがりそうなものが出てきたら
持ってきて頂戴、買ってあげるわ、
代金はあの人が払うわ」
「それと
私が本当に欲しいものあてられるかしら」
「人はね、欲しいものを言葉にできないのよ」
カルドは後年、アンのことをこう語る。
「最初に見た“大人の女”だったな」
少し笑って、続ける。
「本当に欲しかったものは――今でも分からん」
一瞬、間。
「ただな」
「リチャードは、本気で惚れてたと思う」
「……まあ」
肩をすくめる。
「俺と同じで、女心には疎かったんじゃないか」
「ん?」
「あんたの奥さんは、料理つくったり、洗濯したりはしないのか?」
「……なんだ急に」
「いや、ケンプの母ちゃんはやってたからさ」
「ああ、会ったのか。あれに」
リチャードは軽く鼻で笑う。
「彼女の父は、リチャード・ネヴィル――キングメーカーだ」
「この国の王を“決めてきた”男だよ」
カルドは眉をひそめる。
「なんだよそれ、国で一番偉いのは王様じゃねーのかよ」
「……ふむ」
リチャードは少しだけ考える素振りを見せた。
「確かにな」
「お前たちにとっては、我々の争いなど取るに足らん話かもしれん」
カルドは構わず言う。
「じゃあよ、好きでもないのかよ」
「愛してないのかよ」
一瞬、沈黙。
リチャードは――笑った。
「お前、面白いな」
「退屈しない」
ゆっくりとカルドを見る。
「もちろん、愛しているさ」
わずかに間を置いて、続ける。
「……まあ、お前ごときには分からん話だろうがね」
カルドは口を尖らせた。
リチャードは興味を失ったように視線を外す。
「そんなことより、友人が来る」
「だれ?」
「バッキンガム公ヘンリー・スタッフォードだ」
扉の方へ歩きながら、ふと振り返る。
「会ってみるか?」
扉が開いた。
入ってきた男は、思っていたよりも静かだった。
背は高い。
だが、それ以上に目を引くのは、その立ち姿だ。
力で威圧するのではなく、
そこにいるだけで周囲を支配するような、整った重心。
衣服は華美ではない。
だが質は一目で分かる。
無駄な装飾を削ぎ落としたその装いは、
金よりも価値のあるものを知っている者の選び方だった。
顔立ちは端正。
だが、どこか温度が低い。
口元には、わずかな笑み。
それは愛想ではなく――
相手の価値を測るための仮面のようにも見えた。
そして目。
柔らかく見えるその奥に、
計算がある。
一瞬で理解する。
この男は、剣で戦う人間ではない。
だが――
剣を振るう人間を、
好きなように動かせる側の人間だ。
(リチャードとは違う)
(でも、どっちが怖いか分からない)
カルドは、思わず息を止めていた。
「よう、兄弟。今日はどうした?」
リチャードは気軽に声をかけた。
だが、入ってきた男――
バッキンガム公ヘンリー・スタッフォードは、笑っていなかった。
「国王の病状が悪化しているのは、本当か?」
「……ああ」
リチャードは肩をすくめる。
「もう長くはないだろうな」
バッキンガムは一歩だけ近づく。
「――いよいよか」
低く、つぶやくように言った。
「だが、どうも気に食わん」
リチャードは眉を上げる。
「何がだ?」
「リヴァーズ伯の動きだ」
「妙に早い」
「王が死ぬ前から、もう“その後”の配置を始めている」
一瞬、沈黙。
リチャードの口元が、わずかに歪む。
「……ああ」
「囲い込みに来てるな」
「王が死ぬ前に動くやつはな」
「死んだ後に全部持っていく気のやつだ」
(この人たちは王が死ぬ前から、次の王の話をしてる……)
カルドはこの時、権力闘争の中心に足を踏み入れていた
「ん?」
バッキンガムの視線が、カルドに向く。
「この坊やは?」
「俺のボディガードだ」
軽く言ってのけるリチャード。
バッキンガムは一歩近づき、カルドを上から下まで眺めた。
「……大丈夫か?」
「大丈夫だ」
即答。
その声音には、疑いがない。
バッキンガムはわずかに笑った。
「なるほどな」
「“面白いもの”を拾ってくる趣味は相変わらずか」
リチャードの口元が歪む。
「退屈しないだろう?」
一拍。
リチャードはカルドを見る。
「カルド」
「出番だ」
その目は、楽しんでいた。
「面白いものを見せてやる」
リチャードの声は低かった。
「お前、エドワードの顔は覚えているな」
「……はい」
「これからエドワードをさらう」
カルドは息をのんだ。
「行き先は――エスカリオ塔だ」
「!」
「一緒にいろ」
「片時も離れるな」
リチャードはカルドをまっすぐ見た。
「後で応援をやる」
一歩、近づく。
「俺が迎えをよこすまで、そこを動くな」
(これ、失敗したら死ぬどころじゃない…)
(国の話だ…俺の話じゃねえ)
カルドは、後年この話を一度だけしたことがある。
酒の席だった。
「俺はその時、本当に小僧でよ」
苦笑する。
「仕事だ、うまくやろうってな」
「金をもらったら、前に盗んだ酒屋に返そうとか」
少しだけ間。
「そんなこと考えてた」
グラスを揺らす。
「……なのにさ」
視線を落としたまま、ぽつりと続ける。
「リチャードは――」
一瞬、笑った。
「国ごと盗もうとしてたんだよな」
エスカリオ塔
旧王宮――
テムルー川に沿って築かれた城塞であり、
堅固な防備を備えている。
そのため、王族の緊急避難先として
用いられることもあった。
そしてここが、
カルドにとって運命の舞台となります
さて、ここでリヴァーズ伯について少し触れておきましょう。
現在の国王の妃は、エリザベス・ウッドヴィル。
リヴァーズ伯は、その王妃の父にあたる人物です。
もともとグロスター公は、エドワード王の有力な側近でありました。
しかし王妃の一族が次々と登用され、
宮廷で勢力を広げていく中で、
彼は次第に中枢から押しやられていった。
とはいえ、グロスター公もまた百戦錬磨の人物。
このままで終わる男ではありません。
さて、どうなりますことやら。
「王子、こちらです」
「君は――」
「僕を信じてください。こちらへ」
移動中の馬車が、唐突に止められた。
一人の少年が駆け寄ってくる。
周囲を、物々しい装備の警備兵たちが取り囲んだ。
「王都で何かあったようです。
安全のため、エスカリオ塔へ避難するようにと――
グロスター公からの命です」
「叔父上が……」
王子は一瞬だけ考え、すぐに頷いた。
「わかった」
「私もご一緒いたします」
エスカリオ塔へ移った後は、
グロスター公の言葉どおり、応援が送られてきた。
マイルとカスター。
二人の少年は、傭兵見習いだという。
歳の近い者を寄こしたのは、
おそらくグロスター公なりの配慮だろう。
僕たちはすぐに打ち解けた。
特にマイルの「強い敵から逃げる方法講座」は傑作で、
王子も腹を抱えて笑い転げていた。
――あの時は、まだ知らなかった。
この笑いが、最後になるかもしれないことを。
そのとき。
扉が、開いた。
扉が開いた。
入ってきた男は、騒がしさとは無縁のように静かだった。
年の頃は四十前後か。
華やかさはない。だが、整えられた衣服と所作には一切の無駄がなく、
それだけで只者ではないとわかる。
その目が、部屋の中を一度だけなぞる。
誰がいるか。
誰が動くか。
誰が従うか。
――すべてを測り終えたような、そんな一瞬だった。
男はゆっくりと王子の前まで進み、深く一礼する。
「お初にお目にかかります、殿下。
グロスター公に仕えております、
ケイツビーと申します」
声は穏やかで、よく通る。
だが、その声音には熱がなかった。
「王都の情勢が不安定となっております。
殿下の安全を最優先とするよう、
厳命を受けております」
顔を上げる。
その表情は、礼を尽くした臣下そのもの。
しかし――
その目だけが、まったく笑っていなかった。
「つきましては、以後の警護と行動につき、
すべて私どもにお任せいただきたく存じます」
背後では、無言の兵たちが一歩も動かず立っている。
逃げ場はない。
選択肢もない。
ただ――
「安心してください」
と、ケイツビーは言った。
「すべては、殿下のためでございます」
(ここからは、大人の世界なんだ……)
カルドは、ぼんやりとそう理解していた。
国王崩御の報せが届く。
グロスター公はすぐに動いた。
リヴァース伯をはじめ、
ウッドヴィル家に連なる要職の者たちを――
次々と逮捕していった。
僕らは、港町へ戻った。
「よう、ご苦労」
リチャードはそう言って、僕を座らせた。
酒を注ぐ。
「よくやった」
「あの……聞いてもいいですか」
「なんだ?」
「王子は、どうなるんですか」
「国王になるに決まってるじゃないか」
「ほんとに?」
「ほんとだ。それ以外あるか?」
なぜだか、ほっとした。
胸の奥にあった、何かがほどけた気がした。
だが――
「カルド、覚えておけ」
リチャードは、杯を揺らしながら言う。
「王ってのはな、駒の一つにすぎん」
「……え?」
「リヴァースの野郎はな、王の駒を持ってるだけで
勝ったつもりになっていやがった」
「それが失敗だ」
その言葉の意味を、僕はまだ理解できなかった。
「俺は護国卿になる。兄との約束だからな」
リチャードはそう言って、ふっと笑った。
「王都に行く。お前も来るか?」
「行く! 行く!」
うれしくて、僕は酒をあおった。
そのとき。
扉が静かに開いた。
入ってきたのは、
バッキンガム公だった。
リチャードのもとへ歩み寄り、何かを耳打ちする。
一瞬。
リチャードの表情から、すべての色が消えた。
「……ほんとにやらなきゃダメか?」
低く、押し殺した声。
「――十二歳では、国は保てません」
短い答えだった。
それだけで、すべてが決まったように思えた。
ああ……だめだ。
眠い。
酒のせいか、それとも――
僕は、ゆっくりと意識を手放した。
目を開けると、毛布が掛けられているのが分かった。
聞けば、リチャードはもう王都へ出発した後だった。
枕元には、短いメモが残されていた。
読むと、どうやら僕はこれから
王都と港を行き来する仕事を任されるらしい。
「呼ぶまで港で働いていろ」
――それだけが、ぶっきらぼうに書かれていた。
その後、ギルドの長、サッシャーさんに呼ばれた。
そして僕は、グロスター公絡みの取引を任されることになった。
扱う金額を聞いた時は、さすがに足がすくみそうになった。
これを失敗したり、ましてくすねたりでもしたら、
たぶん殺される。
そんなことを思いながらも、僕は同時に
「どうやってこれを増やすか」を考えていた。
分からないことは山ほどあった。
だから、ギルドの学校を出た連中に教えを乞うこともあった。
もちろん、ただではない。
「何事にも対価はいる」
そうだ。
それを――代償と呼ぶこともある。