テラーノベル
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#大人ロマンス
#サレ妻
真っ白な天井、規則的な心拍音
脇腹の激痛と共に目を覚ました健一が見たのは
窓辺の椅子に座り、優雅にタブレットを操作する蓮の姿だった。
「…あ、……蓮……」
「あ、起きたんだ。お疲れ様、パパ」
蓮は顔を上げると、天使のような微笑みを浮かべた。
だが、その手元にあるタブレットには
あの日、里奈が息絶える瞬間の映像が「ナオミ」のアカウントから全世界に有料配信されている数字が並んでいた。
「…ぁ、あの、映像を……消せ。…里奈は、お前の、本当の……」
「本当の、何? ……犯罪者で、僕を殺そうとした狂った人? そんなの、世間は求めてないよ」
蓮はベッドサイドまで歩み寄ると、健一の点滴の管を指で軽く弾いた。
「今、パパは日本で一番有名な『悲劇の父親』なんだ。不倫で人生を狂わされ、狂った元愛人に刺され、それでも幼い息子を守り抜いた聖者。……フォロワーは一晩で倍になったよ。ママのときより、ずっと効率がいい」
健一は戦慄した。
蓮は、奈緒の「執着」と
里奈の「狂気」を、SNSという現代の武器で完全に「商品化」していた。
「……俺が、俺たちのせいでこんなに蓮は子供らしさをなくして……蓮、蓮は俺を、どうするつもりなんだ」
「パパはしばらく、この病室で『闘病中のヒーロー』として、僕が書いた日記をママのアカウントに投稿し続けるんだ」
「……声が出なくても、指が動かなくても大丈夫。僕が全部代筆して、パパの顔をカメラに映すだけだから」
蓮は健一の胸元に顔を寄せ
その耳元で、奈緒がかつて使っていた香水の香りを漂わせながら囁いた。
「……ねえ、パパ。逃げようと思わないで。…パパがこの『物語』から降りたら、僕、パパが昔の会社でやった横領の証拠、全部警察に送っちゃうよ?……こうやって脅せ?って死んだママに頼まれてるんだ」
健一の瞳から、絶望の涙が溢れ出した。
里奈は死に、奈緒も死んだ。
だが、二人の業を完璧に融合させた「蓮」という怪物が、今や自分の喉元に食らいついている。
「いい子だねパパ。…フォロワーのみんなに、元気な顔を見せてあげて」
蓮がスマホのレンズを向ける。
健一は、激痛と屈辱に耐えながら、息子の指示通りに
「幸せな被害者」の仮面を被り、カメラに向かって虚ろな微笑みを浮かべた。
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