テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
[数えられる恋は森で終わる]
そして最後の年。
木は一本も残っていなかった。
笑った年も、言い争った年も、
まったりとした年も、 何も言わず寄り添った年もあった。
獣は朝、青年に言う。
照)たつやと生きた時間は、怖くなかった
青年は、返事をしなかった。
言葉が無かったわけじゃない。
ありすぎて、どれも嘘になる気がした。
「ありがとう」も、「大好きだ」も、
ここでは全部、置いていく言葉だった。
獣の声が耳に残っているうちに、
それを壊したくなかった。
青年は分かっていた。
もうこの人は、
自分のために最後まで“優しくなろう”としていることを。
だから言えなかった。
引き止める言葉も、手を伸ばす仕草も。
ここで答えたら、
この人は――
もっと生きようとしてしまう。
青年はただ立っていた。
並木道の先で、
一緒に数えてきた時間を、胸の中だけで抱えながら。
言葉にしなかったのは、冷たさじゃない。
それは、
最後まで一緒に終わるための、唯一の優しさだった
森にはもう、木も、獣もいない。
残ったのは、
数え終わってしまった恋の記憶だけだった。
翌年、森を訪れた者はいなかった。
並木道は、もう道と呼べるほど長くはなく、
風が通るたび、空白だけが揺れていた。
青年が立っていた場所には、足跡も残っていない。
小屋の扉は閉じたまま、
炉には灰だけが静かに冷えている。
森にあったのは、
数えられていたはずの時間と、
もう数える必要のなくなった静けさ。
誰も語らない。
何が失われ、何が残ったのかを。
ただ、そこには
最後まで一緒にいた痕跡だけが、名前もなく眠っていた。
――BAD END。
これは、最後まで数えきってしまった恋の話。
その後青年は、生きた。
特別なことは何もしなかった。
森を出たのか、残ったのか、
それを知る者はいない。
ただ、数える必要のなくなった日々を、
もう誰とも分け合わずに過ごすようになった。
並んで歩くことも、
名前を呼ぶことも、
もう二度としなかった。
数を失ったあとに残ったのは、
未来でも希望でもなく、
「最後まで一緒にいた」という事実だけだった。
青年はそれを、
思い出とも後悔とも呼ばず、
胸の奥に置いたまま、先へ進んだ。
――数え終えたからといって、
終わるとは限らない。
終わったものを、
抱えたまま生きるだけだ。
青年が救われたとも
壊れたとも
立ち止まったとも
どれとも言えない
自分ならどう生きるか
獣