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ミンミンと蝉の声があちこちから聞こえる、真夏の暑い日の昼間。汗を染み込んだ下着がぴったりと肌につくのを鬱陶しく思いながら、買い物に出掛けていた僕達は、買い物袋を両手にぶら下げながら帰路についていた。肌を焼く太陽の強い日差しを避ける為に、なるべく影のある所を通って歩く。
「はぁ〜、くそあつい……。」
「まぁ、真夏だからね。今日猛暑日らしいよ。」
「もう夏は毎日猛暑日みたいなもんだろ!あーもう、早く家に帰ってクーラーガンガンの部屋で涼みたーい!!」
「急に体冷やすと風邪ひくよ〜……ま、確かにくっそ暑いから涼みたいのは同意するけど。」
ポケットに入れて置いたスマホを起動して今日の気温を見ると、39.5°という数字が表示された。そりゃ暑い訳だ、と一人で納得する。隣で買い物袋を前後にぶらぶら揺らしながら歩いている悠隼(ゆうと)は、暑いと言って襟元をぱたぱたとあおいだ。気だるげに景色を見ていた悠隼は何かを見つけた途端、目をキラキラさせながらその方向を指差して僕の腕を掴んだ。
「奏汰(かなた)、あそこ見ろ!アイス売ってるぞ、買いに行こう!」
「さっきも菓子沢山買ってたじゃん。………太るよ。」
悠隼の持っている袋の中身をじとりと見ながらそう言うと、いくらかダメージを受けたようで、大袈裟な様子で胸に手を当ててうっ、と蹲りながら唸き声を出した。
「怖いこと言うなよ……でもさでもさ、今日こんだけ歩いたんだし、プラマイゼロだぞ?奏汰も選びなよ〜。」
丁度いいかと頷いて、アイスボックスの中を覗き込もうとした途端、悠隼が僕に話し掛ける言葉がボヤけて聞こえなくなった。ついにこの暑さにやられたか、と思い悠隼にここで涼んでから帰ろうと提案しようとした____ところで、僕の視界はグラりと揺れて暗転した。
「ここの店、色んな種類置いてあるな…なあ、奏汰はどっちがいい……ってあれ、奏汰?おーい、この暑い中隠れんぼか〜?熱中症になるぞ〜?」
「…………奏、汰……?」
………………
……………………
…………………………………。
「___ん…?ここ、どこだ………?」
気が付くと、知らない場所で倒れていた。頭を強くうったのか、ここに来る前の前後の記憶が無い。頭を触ってみるが、痛みはないし手に血もついていないから、怪我してないみたいだ。にしても、ここはなんなのか。全面白で塗りつぶされた施設のような造り。自分の音以外何も聞こえず、それでいて薄暗い、そんな奇妙な場所。見知らぬ場所で自分ただ1人という事実に、どうしようも無い孤独を感じた。
「ここにずっといては、ダメな気がする……。」
なんの根拠もない、本能からか。頭がここにとどまっては行けないとミーミーとけたたましく警告音を鳴らしている。今まで感じたことのない恐怖を紛らわす為に、僕はこの場所を探索することにした。
「…なにもない……。」
迷路みたいに複雑な通路は、何箇所か行き止まりがある。もし何か居たら詰みだな、とふと思った。ゲームだったらこういう所に隠し扉だったりアイテムだったり何かしらあるはずだが、現実はそう簡単に行かないらしい。ぐるり、と周囲を見渡し、よく目を凝らして見てみるが、やはり何も無い。……探索を、続けよう。
________■時間後
あれから何時間経ったのだろうか。僕はぐるぐるとこの広大な空間をさまよっていた。代わり映えがないからか、同じ場所に戻っている様な気もする。頭がおかしくなりそうだ。ズキ、と頭を打たれたような感覚に目眩がして、よろよろと壁に寄り掛かる。
「悠隼………そうだ、僕は悠隼と買い物に出掛けてて……」
痛みと共に思い出した、ここに来る前の記憶。僕は悠隼と買い物に出掛けていて、あまりの暑さに帰り道でアイスを買おうとして……そして、突然の浮遊感と共に僕の記憶は途絶えたんだ。ここに落ちたなら、僕が最初に起きた所に穴でもあるはずなんだが…………もう、戻る事はできない。
「…そうだ、スマホ……スマホで撮影しておこう。」
(何かあった時、残しておけるように……。)
僕はポケットにしまったままだったスマホを取り出し、電源ボタンを押す。良かった、壊れてはいないようだ。スマホが無事起動した事に安堵しつつ、カメラ機能を使って撮影をした。
………所で、気のせいだろうか。僕以外の足音も聞こえる気がする。こんな所に長時間もいたせいでついに気でも狂ったか、はたまた本当に居るのか。思考しながらも僕は足を動かす。僕の動きに合わせてコツ、コツと足音が空気を振動させる。窓もない閉鎖空間のせいか、自分の音がよく反響する。僕から発された音であるはずなのに、僕以外の何かから発された様な、言い様のない焦燥感が僕を苦しめていた。
……とにかく、一旦休もう。
「…ッ」
何かが動いた気配がして咄嗟に後ろを振り返る。視線の先には何も居らず、変わらずの
なにか、いる。気のせいでは無かった。コツコツと音を立てて周りを徘徊するソレを目玉だけ動かして観察する。黒いモヤの様な、針金がぐちゃぐちゃに絡んだ様な。人型の、けれども人間の身長を遥かに超える、形容のし難い“ナニカ”が居た。恐らく、今まで聞こえた足音の正体はこいつだろう。
“ナニカ”がこの空間に存在する、ただそれだけの理由だけでも、僕の頭を恐怖で支配するのは十分すぎるほどだった。先程から頭で動けと命令しているのに、僕の体は言う事をきかない。体の震えがとまらず、心臓の音がやけに大きく感じる。うるさいうるさい、あいつに気付かれたらどうするんだ。
“ア……オ…ァァ゙………”
唸り声のような、不気味な声を上げながら目の前を通り過ぎていく化け物に胸を撫で下ろす。このまま化け物が見えなくなるまでやり過ごそうと身を潜める。すると、僕の気が緩んだ所を見計らったかの用にグルリと首と思われる所だけで後ろに向きこちらを見つめる。頭より先に、条件反射で化け物が動き出すより先に走り出した。
“ォオオオォォオッオゥガァァアァァァァ!!!!!!”
さほど走っていないのにぶわりと変な汗をかく。汗が額から頬を伝い、風の抵抗に従い後方に飛び散る。人間本当に怖い時は叫び声すらもあげないと言うが、あれは本当の事らしい、なんてどこか呑気な事を考える。振り切ることの出来ない恐怖に捕まらないよう、時々もつれそうになる足を懸命に動かす。体が酸素を求めて呼吸する様に施すが、上手く息を吸い込めずにひゅっ、という嫌な音が喉からなる。
「……ばっ、…バケモノ、いた……!悠隼、悠隼助けて………っ!!!」