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「あの、ピンクのピンはどこでもらえるのですか?」
おそらく自宅通学だろう新入生の貴族令嬢が職員に尋ねているのが聞こえる。
私の予想した通りだった、3分の2に相当する寮の新入生の令嬢がつけているピンは当然入学したら貰えるものと考える人が出てくる。
ピンクのピンの出所が、私だということが伝わるのも時間の問題だろう。
「カルロス、出てきてください」
カルロスは完全に騎士から私専属の草の者になっていた。
「本日、王太子殿下のご予定はどうなっていますか?」
どこからともなく現れた彼に私は静かに尋ねた。
「今日は部屋で過ごすとのことでした」
カルロスの言葉にやはりヒロインはイザベラで入学式の今日が物語の起点になっていると確信する。
おそらく兄ルイスはイザベラを愛おしいと思う気持ちが抑えられず、大衆の前で彼女を抱擁してしまうリスクを考え部屋に留まっているのだろう。
「こちらを、殿下の部屋に届けてください。彼にとって少しでも慰めになればと思います」
私が兄ルイスの誰にもわからぬ苦しみを理解できているとは思えない。
しかし、式典に出るべき立場なのに出席も叶わないというのは真面目な彼には耐え難いはずだ。
私は昨晩徹夜で仕上げた兄ルイスを主人公にした『私の本当に好きな人は。』をカルロスに託した。
4万字という短い小説だが7歳というフローラ様と婚約した時から働いた強制力で、自分の本当に好きな人さえ見失いそうになっている彼の苦しみに寄り添って書いたつもりだ。
「イザベラ・バーグ公爵令嬢、ご入学おめでとうございます」
私は彼女の凛とした姿と、周りが彼女をみる視線で気がついた。
黒髪に黒い瞳、背が高くすらっと長い手足をしてオーラがある。
散々イザベラに嫌な思いをさせられただろうに、そんなところは表に出さず優しい眼差しで挨拶をしてくれる。
次期王妃として貴族令嬢の監督責任を真面目に全うしているという、フローラ様はこの方だ。
「フローラ・シュガー公爵令嬢、お言葉を頂きありがとうございます」
フローラ様は私が挨拶を返すと優しく微笑んだ。
「フローラ様、王太子殿下が式典を欠席されるそうなので、在校生代表の挨拶をお願いします」
アカデミーの職員が慌てたように彼女に伝えてくる。
「フローラ様、私も式典がありますのでこれで失礼します」
私は彼女の邪魔になるといけないと思い彼女の元を去ろうとした。
「イザベラ様、今日の髪型もメイクもとても素敵です。改めて入学おめでとうございます。」
フローラ様はそんな私に優雅に優しく微笑みながら言うと、職員と共に去っていった。
私は一瞬で理解した、フローラ様のモデルは佐藤珠子だ。
嫌なやつににも、笑いかけて優しい対応を常に心がけるている。
「フローラ様、王太子殿下に相手にされていないのに可哀想ですわね」
周りにいた貴族令嬢の意地悪な声が耳に入ってくる。
この周りの陰口も珠子がいつまでも長老のように職場に居座っていたことで、婚期を逃したと裏で言われていた感じに似ている。